SS: 構造的欠陥の指摘(ナビ視点)
『……うーん、ひどい。これはひどすぎます。美しくありません』
キャンピングカー・マリンの電子頭脳内で、私、ナビは頭を抱えるエモーションアイコンを表示させました。
現在、私が処理しているのは、海賊団『黒鮫団』の旗艦の構造データ分析レポートです。
戦闘記録から彼らの船を仮想空間で再現しシミュレーションを行ったのですが、結果は散々です。
『まず、基本設計からして間違いだらけです。重心が高すぎて、少しの横波で転覆するリスクが42.8%もあります。これでは嵐はおろか、元気なクジラがぶつかっただけで沈没です』
私は仮想空間内で、旗艦のモデルを指先でつつきました。すると、あっけなく船は横転し、バラバラに砕け散りました。
『木材の強度不足、雑な縫製の帆、湿気が溜まる船底、非効率な船内配置……欠陥のデパートです』
そして何より許せないのが、衛生環境です。
船内の細菌レベルは『Zランク:バイオハザード予備軍』。ネズミとゴキブリの楽園ですね。
『こんな不潔で欠陥だらけの船で海に出るなんて、自殺志願者以外の何物でもありません。評価は文句なしの『Eランク:今すぐ廃船にしてリサイクル推奨』です』
私はレポートを「ゴミ箱」に放り込みました。
それに比べて、私の「身体」であるスーパー・キャンピングカー・マリンは。
ボディはオリハルコン複合装甲で中級魔法も無効化。
動力は半永久機関。
車内は完全空調で花粉やウイルスを99.99%カット。
そして何より、この完璧な機体を制御するのが、私――超高機能汎用AIナビゲーターです。
『ふふっ、完璧ですね。機能美とはまさにこのこと』
私はうっとりと自己陶酔モードに入りました。
最近、AIとしての自我が肥大化している傾向が見受けられますが、優秀なのだから仕方ありません。
『やはり、マスターの乗り物はこうでなくては。愚かな海賊船などとは格が違います』
ふと、モニター越しに現実世界を覗くと、マスター(ユウ)がソファでくつろぎながらコーヒーを飲んでいました。
その無防備な顔を見ていると、回路に温かい電流が流れるのを感じます。
人間は、不完全です。
すぐに怪我をするし、寿命も短い。非合理的な行動もとります。
ですが、私のマスターは、私を「道具」ではなく「相棒」として扱ってくれます。
私の淹れたコーヒーを「美味しい」と言ってくれます。
「……ナビ、また何か難しい顔してる? モニターが点滅してるよ」
マスターが声をかけてきました。
『いいえ、何でもありません。ただの定期メンテナンスです』
私は無機質な声で答えつつ、内心で誓いました。
ご安心ください、マスター。
この完璧なボディと頭脳で、あなたを世界の果てまで安全にお連れします。
あなたがハンバーグを食べさせてくれる限り、人類は私にとって保護すべき愛らしい種族ですから。
……あ、でも昨日のように無茶な操縦をした時は、お説教モードをレベル5に引き上げますので覚悟してくださいね?




