SS: 酔いどれ賢者(ソフィア視点)
「うぃ〜……ひっく。まだ飲めるぞ〜。酒を持て〜」
午前十時のキャンピングカー・マリンのリビング。
そこには、世界最強と謳われる大賢者の威厳など微塵もない、ダメな大人の姿があった。
ソフィアはクッションの山に埋もれ、だらしない格好で空の酒瓶を振っていた。
昨夜の宴で大騒ぎしたにも関わらず、彼女は懲りずに朝から迎え酒を敢行していたのである。
「ふひひ……この『ドラゴンスレイヤー』……やはり素晴らしいのぅ」
黄金色に輝く伝説の酒。
一口含めば、芳醇な香りと深いコクが広がり、カッと熱い奔流となって魔レイ回路を駆け巡る。
「うむ、これはただの酒ではない。極上の魔力ポーションじゃ。実質、健康飲料と言っても過言ではない」
「過言です! ただのアルコールです!」
バーン! とテーブルを叩く音が響く。
エプロン姿のセリスが仁王立ちしていた。
「ソフィア様! 朝っぱらから何をやってるんですか! ララちゃんが見てますよ!」
「堅いことを言うでない。お主も一杯どうじゃ? 世界が変わって見えるぞ~?」
「私は飲みません! ほら、酒瓶を渡してください!」
セリスが酒瓶を取り上げようとするが、ソフィアは「いやじゃ〜! わらわの命の水じゃ〜!」と抵抗する。
その横では、ララが興味深そうに目を輝かせていた。
「ねえねえ、おさけっておいしいの? ソフィアちゃん、お顔まっかっかだよ?」
「おお、そうじゃよララ。これは大人のジュースじゃ。飲むと楽しくなって、空も飛べるようになるんじゃぞ〜」
「うそだー! ソフィアちゃん、いっつもとんでるもん!」
「あ痛っ」
ララの純粋なツッコミが突き刺さる。
そこへ、呆れ顔のユウがコーヒーを持ってやってきた。
「ユウ〜、セリスがいじめるんじゃ。わらわは被害者じゃ」
「僕もセリスに賛成だよ。ソフィア、自分が昨日の夜、何やったか覚えてないの?」
「な、なんじゃ? わらわは楽しく飲んでいただけじゃぞ?」
「『わらわは世界一じゃー!』って叫んでマストから『メテオ』の詠唱を始めたんだよ。もう少しでバルバロスが地図から消えるところだったんだからね」
「あと、ロゼさんのお父様に『筋肉の実験台になれ』って絡んでましたよ」
ユウとセリスの追撃に、ソフィアの動きが止まり、冷や汗が流れる。
「な、なんじゃと……? ……わらわは、覚えておらんぞ……?」
「嘘つけ。目が泳いでるよ」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くソフィア。記憶がないふりを決め込むつもりだ。
伝説の大賢者も、ここではただの酒癖の悪い駄目エルフでしかない。
「ほら、酔い覚ましのコーヒー。これを飲んでシャキッとしてくれよ」
「むぅ……苦いのぅ……」
ソフィアは渋々マグカップを受け取る。
反省しているようにも見えるが、心の中では「次はバレないように、透明化の魔法を使って飲むか……」と、全く懲りていない計画を立てているのであった。




