SS: 嵐の前の静けさ(ユウ視点)
「ふぁ……」
僕は運転席で大きくあくびをした。
窓の外は猛吹雪。視界は真っ白で、どこが空でどこが地面かも分からない。
普通なら遭難確定の状況だが、僕の【マイホーム】の中は常春の楽園だ。
「平和だなぁ」
『外気温マイナス三十度。風速二十メートル。これを平和と呼ぶのは、マスターの言語野にバグが生じている可能性があります』
ナビの冷静なツッコミが飛んでくる。
「うるさいな。誰にも邪魔されないって意味だよ」
僕はオートパイロットに任せて、シートをリクライニングさせた。
国を出てから一ヶ月。
「ハズレスキル」と馬鹿にされた過去を捨て、僕は自由を手に入れた。
好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな場所へ行く。
誰に気兼ねすることもない、最高の生活だ。
「……でもまあ、ちょっと喋り相手が欲しい気もするけどね」
『私がおりますが?』
「君は可愛げがないからなぁ」
『心外です。私の音声パターンは、マスターの好みに合わせて調整されています』
確かに声は良い。だが、中身がこれだ。
「ま、贅沢な悩みか」
僕はコーヒーを一口啜る。
この静寂こそが、僕が求めていたものだ。
騒がしいパーティも、面倒な人間関係も、もういらない。
「このまま、世界の果てまでドライブといこうか」
そう思っていた。
この数時間後、雪の中で倒れている聖女を拾い、騒がしい日々が始まるとは知らずに。
これは、嵐の前の、最後の静けさだったのだ。




