第086話: 龍の洞窟
たどり着いた孤島は、切り立った岩山で構成された不気味な島だった。
木々は枯れ果て、濃い霧が立ち込めている。鳥の声ひとつせず、風がヒューヒューと不気味な音を立てていた。
その島の中腹に、ぽっかりと空いた巨大な洞窟の入り口があった。
「ここが『龍の洞窟』だよ」
船を隠し、険しい道を登ってきた僕たちに、ロゼが言った。
洞窟の入り口には、青白く光る半透明の壁――強力な結界が張られている。
表面には幾何学的な魔法陣が浮かび、低い唸り声を上げていた。
「この結界がどうしても破れなくてね。大砲でも爆薬でも傷一つつけられなかった」
ロゼが悔しそうに唇を噛む。
「ふむ、どれどれ」
そんな空気を読まず、ソフィアが無防備に歩み寄る。
結界に触れると青白い火花が散るが、彼女は涼しい顔だ。
「……なるほど。古代竜語による多重結界か。物理攻撃を100%反射し、魔法も9割吸収。さらに精神干渉の罠付きとは、凝った作りじゃ」
「解除できるかい?」
「愚問じゃな。今の私にとっては紙切れ一枚と同じこと。……『解』」
パリンッ。
ソフィアが指を鳴らすと、硬質なガラスが割れるような音がして、強固な光の壁があっさりと消滅した。
「は……?」
ロゼと彼女の部下たちが驚愕で固まっている。
「な、何をしたんだ!? 俺たちが何年もかけて傷一つつけられなかった結界を、一瞬で!?」
「構造を理解すれば、鍵を開けるのと同じじゃよ。……ほれ、道は開けたぞ」
ソフィアは欠伸を噛み殺しながら言った。その小さな背中が、今はとてつもなく偉大に見える。
「あ、あんたたち……本当に何者なんだ……?」
「ただの通りすがりのキャンパーだよ。……少しだけ、魔法が得意なね」
僕はロゼの背中を軽く押した。
洞窟の中からは、生温かい空気と、強烈な魔物の気配が漂ってくる。これまでとは比較にならない、圧倒的なプレッシャーだ。
「……ああ、そうだね。ここからが本番だ。……行くぞ野郎ども! 遅れるんじゃないよ!」
ロゼは気を取り直し、剣を抜いて声を張り上げた。
「「「オオォッ!!」」」
部下たちも雄叫びを上げて続く。
僕たちは暗闇の奥深くへと足を踏み入れた。灯り代わりの魔法の光が、不気味な鍾乳石を照らし出していた。




