第084話: 幻の酒『ドラゴンスレイヤー』
ロゼの話によると、幻の酒の名は『ドラゴンスレイヤー』。
この海域のどこかに存在する「龍の洞窟」の最奥に湧き出る霊水を用いて作られる伝説の酒だ。かつて英雄がその酒を飲み、不死身の肉体を得たという伝承すら残っている。
「この酒には、万病を治す力があると言われている。……私の親父は今、原因不明の奇病で寝たきりなんだ」
ロゼはグラスを見つめながら静かに語った。その表情には深い悲しみが滲んでいる。
「親父は、かつてこの海を制覇した大海賊だった。その親父が弱っていくのを見るのは、耐えられない。……救うには、その酒しかないんだ」
彼女はグラスを一気に煽った。
海賊と聞いて野蛮なイメージを持っていたが、彼女は驚くほど家族思いのようだ。セリスはすでに感動して目頭を押さえている。
「でも、龍の洞窟は強力な古代の結界と、恐ろしい番人に守られている。私らも何度か挑んだが、入り口の結界すら突破できなかった」
悔しそうに拳を握りしめるロゼ。
「なるほどね。そこで僕たちの出番ってわけか」
僕は提案した。
「僕たちが結界と番人をなんとかする。その代わり、酒のありかへの案内と、手に入れた酒の半分を分けてほしい」
「……あんたたち、腕に自信があるのかい? 生半可な実力じゃ、命を落とすよ」
「僕たちには魔法の専門家がいるから」
僕は隣のソフィアを見た。
「ふん。古代の結界か。興味深い。この私が解析してやろう」
「……この嬢ちゃんがか?」
ロゼは怪訝そうにしたが、すぐにソフィアの魔力を感じ取り、表情を改めた。
「……わかった。あんたたちの目は死んでない。信用してやる」
ロゼはニカっと笑って手を差し出した。
「その代わり、裏切ったら海に沈めるからな? 重り付きでね」
「了解。交渉成立だね」
僕は彼女の手をしっかりと握り返した。掌は剣ダコで固いが、温かい。
こうして僕たちは、女海賊ロゼと同盟を結ぶことになった。
「出発は明日の朝だ。準備しておきな! 私の船は港の一番奥にある」
ロゼは颯爽と店を去っていった。
「へぇ、悪い人じゃなさそうですね。親孝行な海賊なんて、物語みたいです」
「気に入ったわ。力及ばずながら、この大賢者ソフィアが力を貸してやろう」
しかし、和やかな空気を裂くように、店の隅から探る視線があった。
「……聞いたか? ロゼの奴、龍の洞窟へ行くらしいぜ」
「へへっ、出し抜くつもりか。……お頭に報告だ」
男たちはヒソヒソと話し合い、闇の中へと消えていった。
「……どうやら、邪魔が入りそうだね」
「ふふっ、人気者は辛いねぇ」
ルナが不敵に笑う。
明日の船出は波乱の予感がした。だが、それもまた冒険の醍醐味だ。
僕たちは残りのエールを飲み干し、キャンピングカーへと戻っていった。




