第082話: 海賊都市バルバロス
数時間後、僕たちは諸島の中で最も大きな島にある都市『バルバロス』に到着した。
そこは、まさに「カオス」と呼ぶにふさわしい場所だった。
入り組んだ海岸線に沿って、朽ちた船の廃材や巨大な骨で組み上げられた建物が無秩序に乱立している。
港には粗暴そうな男たちが我が物顔で闊歩し、怒号と安酒の匂いが満ちていた。
「喧嘩の匂いがするねぇ。血が騒ぐよ」
「すごい活気ですね……」
ルナは懐かしそうに、セリスは少し怯え気味に窓の外を眺めている。
僕たちは光学迷彩を展開したキャンピングカーを倉庫街の陰に停め、街へと繰り出した。
露店には怪しげな骨董品や盗品が並び、路地裏では賭博が行われている。
すれ違う男たちが品定めするような視線を向けてくるが、ソフィアが軽く睨みを利かせると、すぐに目を逸らした。この幼女、やはりただ者ではないオーラが出ているらしい。
「酒場に行こう。情報が集まる場所といえば酒場だ」
僕たちは一際大きな、そして一番騒がしい酒場『荒くれ者の墓場亭』の前で足を止めた。
意を決して中に入ると、店内の喧騒が一瞬だけ止まり、鋭い視線が一斉に突き刺さった。
タバコの煙が充満する薄暗い店内。
「……なんだぁ? 見ねえ顔だな」
「ピクニックと間違えてんじゃねえか?」
下卑た嘲笑が飛んでくるが、僕たちは無視してカウンター席へと向かった。
バーテンダーの強面の男が無言でグラスを磨いている。右目に大きな傷跡があり、歴戦の猛者といった雰囲気だ。
「……うちはガキの遊び場じゃねえぞ」
「客商売なら、客を選ばない方がいいと思うけどね。……金は持ってるよ」
僕は金貨を一枚、カウンターの上で弾いた。
男の目が少しだけ見開かれる。
「……何が知りたい」
「『幻の酒』についてだ。この海域のどこかに、万病に効く伝説の酒があると聞いたんだが」
その瞬間、店内の空気が一瞬にして凍りついた。
ガタッ、と誰かが椅子を倒す音が響く。
先ほどまでの嘲笑ムードは消え失せ、殺気に似た緊張感が漂い始めた。
「……おいおい、兄ちゃん。その話はタブーだぜ」
「死にたくなきゃ、今の言葉は忘れるんだな」
背後から低い声が聞こえる。どうやら地雷を踏み抜いたらしい。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「教えてくれ。金なら払う」
「……威勢がいいな。だが、忠告はしたぜ? 命が惜しくないなら好きにしな」
バーテンダーは首を横に振った。
背後で、数人の男たちが席を立ち、武器を抜く音が聞こえる。
「やれやれ、交渉決裂か……」
「ふん、手荒い歓迎じゃな」




