利口な人たち
屋上にいる男。
こいつは全世界から嫌われた指名手配犯だった。
「屋上にいまーす!今から、お望み通り、死んでやるよ!」
いつの配信なのかは分からない。だけど、この映像が確実に、リアルタイムで発信されていたのは
情報として残っていた。
「さあてさあてさてさて。よっと。」
男は死の瞬間をチラつかせるように見せていた。今か、今か。柵を跨って、地面を拡大する。
動画の再生ボタンは、男の死を進める殺害ボタンで、それを止めようとするものはまず、この配信を
見てもいなかった。
とは言っても指名手配犯だ。それも世界規模の。ともなれば、誰しもが死を叫んでいただろう。
お前が殺してきた分、苦しみを全部背負って死ね。
こんな風に苦しかったんだぞ。反省しながら死ね。
苦しみや反省なんて、この男に分かるのだろうか。
何かを教えたり、分かってもらうためには、まず僕らがそれを知らなければならない。
だから簡単に死ねと言うが、僕たちは死ねと言われたときの激痛を、
細部まで、その仕組みまで、完全に理解していると言えるのだろうか。
「飛び降りるぜ。あばよ。」
男が今、飛び降りた。
アニメやドラマ、漫画映画、小説などでは、「飛び降り自殺」すら、鮮やかにスローモーションに描かれたりするものだけれど、実際はそんな美しいものではなかった。
地面に強打した体が弾けて、ぐにゃとか、ぐちゃって、音が鳴る。それで終わりだ。
これを見ていたものたちは、自分たちこそ正義だと名乗っていた。
大量に人を殺したこいつを、ついに殺してやった。
永遠の苦しみに、悶えていればいい。
この日、男が死んでから、世界中で自殺者が急増した。
死んだ者たちの魂は地面から浮かび上がり、やがて。