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第1話
早瀬 志津はその日、花屋の店仕舞いを任されていた。
「よいしょっ!」
志津は力強く、店先の植木鉢を運ぶ。女性らしい高い声は鈴が鳴るようで、額には玉のような汗が浮かんでいた。まるで森の子リスのように彼女は働き者だった。
レジのお金と売上金の計算、店内の掃除、店の扉の鍵をかける。
「…。」
全ての業務を終えて、志津は心地よい疲労感のこもったため息をついた。花屋のテナントが入ったビルの裏口から外に出て、店のシャッターを下ろしている最中のことだった。
「きゃあああ、人が!!」
道路を挟んで反対側の歩道から、鋭い悲鳴が上がった。シャッターと半分になった店の窓ガラスに映るその視線は漆黒の夜空を見上げていた。
「え?」
シャッターを下ろす手を止めて、志津は振り返る。
その刹那。
空から、人が落ちてきた。