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第四話 星の護り人

 フェミは片手に星の欠片を握ったままマドゥとはぐれて時の流れに乗っていた。というとでも思うしかなかった。

ものすごい速度でいろんな世界の窓口を見せられていた。体は宙に浮き星の流れにただ身を任せるままだった。過去も未来も現在も見ていた。自分の世界も見た。違う世界も見た。ミズキが一心不乱に舞いを踊る以前の世界も見ていた。それが正妃だとは知らず。そして毒殺未遂の場面が目に飛び込んできた。自分に重くのしかかる罪を見てフェミは泣いていた。いくら星降りが起ころうともマドゥとは結ばれないのだ。私は・・・。頭が真っ白になりながらただ身を任せているとこぶしから光があふれた。気づいたら星の華の咲く鍾乳洞にいた。いきなり抱きしめられる。

「フェミ。愛しの君。よかった。もう二度と会えないかと」

マドゥも星の欠片を持っていた。握っていたこぶしを開く。

「なんだったの? 今のは」

「これが星の流れだ。変幻自在に行き来する星の本来の役目だ。この流れに乗って落ちてきたのが正妃だ。こんな物騒なもの知られるわけにはいかないな」

ふぅっとため息をついてマドゥもこぶしを開いた。星の欠片が二つ。ふよふよ浮いて空に上がろうとした途端二つが一つになった。空から星が降ってくる。

「星降りだ。俺たちの。俺たちの星の石が降らせているんだ」

ほんのすこし飛んで浮いている星の石をとる。

ゆらゆらと光を放って美しい。そんな美しいものを持つ権利は私にはない。

フェミが暗い表情で見ているとマドゥが覗き込んだ。

「これだけ降っても信じてないのか?」

フェミは首を振る。思い切って顔を上げると隠していた罪を告白した。

「実は正妃様を毒殺しようとした毒は祖父が太政大臣に脅されて作った毒です。こんな罪深い私はマドゥ様にはそぐいません。正妃様にも国王様にも会わす顔はありません。知っていて止められませんでした。星の流れでも事件をみました。もう少しで人が死ぬところでした。このような罪は死んでお詫びをしないと・・・」

そう言って懐から紙包みをとりだした。

祖父の毒に自分が手を加えたものだ。星の石の調査が終わればもともとこの毒で死ぬつもりだった。今となっては好きになっていたマドゥ。だからこそ余計にそばにいてはいけなにと思う。もっと釣り合う人と星降りをかなえてほしい。

フェミの瞳から涙がこぼれる。それをマドゥがそっとすくいとる。

「知ってるさ。そんなことは。俺も星の流れに乗った。そして真実を知った。俺の方が罪深い。何十人、何百人と人を切ってきた。今さっきだってセスを殺した。愛しの君が毒を飲んで死ぬなら俺もその半分をもらって一緒に死のう。二人なら怖くない・・・」

「マドゥ・・・」

瞳からぽろぽろ涙が零れ落ちる。

「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」

ただただフェミは謝る。

マドゥは軽く抱き寄せるとフェミから毒の入った包みを取ってしまう。

「俺を殺せる毒つくったんだな。もうお嬢ちゃんじゃないな。なんと呼ぼう」

「マドゥ。返して。それは私の毒よ・・・」

しゃくりあげながら包みを取ろうとするがマドゥは返さない。

「俺の毒でもあるわけだ・・・。半分こだ」

そう言って包みを開けるとさらさらと毒を飲んでしまった。数秒でマドゥはずりずりと地面に倒れた。

「マドゥ。死なないで。マドゥを殺すために作った毒じゃないのよ」

唇を紫にしながらマドゥは微笑む。

「大丈夫だ。コカ殿に毒慣れさせられているからな。死なないさ」

そう言って瞼を閉じた。フェミが肩をゆする。

「マドゥ。死なないで。私の手が入ってるから毒慣れしてもだめなのよ」

懐から錠剤をとりだすとなんとかマドゥの口にいれようとするが気を失っているマドゥは飲み込めない。意を決するとフェミは解毒剤を口に含むとマドゥののどに送り込んだ。

そのまま意識が戻るまで体が冷えるのを阻止する。ストールのようなものをかけて抱きしめて温める。

「ごめんなさい。マドゥ。叶えたい希望があるなら星の華よ。マドゥの命を助けて。私はどうなってもいいから・・・」

必死の思いで願う。それに応えるように星の華がゆらゆら揺れる。淡い光がゆらめく。願いにこたえようとしているんのだと思ったフェミはより一層願う。同じ人を殺めたことで痛めた心。せめてマドゥには幸せになってほしい。強く願えば願うほど光は強くなってい。

どれぐらいそうしていただろうか。突然光が爆発した。瞼を閉じても光が入ってくる。

やがてその爆発が収まると恐る恐るフェミは瞼を開けた。まだ目がちかちかする。そこでフェミは驚くべき光景を見てしまった。星の華がすべてなくなっていた。先ほどまでで咲いていた華はきれいさっぱりなくなっていた。ふとマドゥの方を見ると唇はもとの色に戻ってほほの血色もよくなっていた。思わずゆさぶる。

「マドゥ。マドゥ。起きて。星の華が・・・。星の華が・・・」

「ん。女神の膝に眠るぐらいいいじゃないかってフェミか?」

疲労の色が隠せないフェミをみてマドゥはがばりと起き上る。ふらっとして額を押さえるとフェミを思いっきり抱きしめた。

「痛いわ。マドゥ。それよりも星の華が・・・。私のせいだわ。マドゥに毒を飲ませてその解毒を強く願ったから・・・」

「ほんとか? 本当に俺の命が助かるのを願ったのか?」

喜びにあふれたマドゥの声に気圧されながらフェミはうなずく。

「だってあの毒は祖父の毒に私の手を入れた新しいものだもの。解毒剤を飲ませても起きないし・・・。本当に死んじゃうかと思ったわ・・・。マドゥが死ぬなんて嫌よ。マドゥには幸せになってほしいもの。人殺しの罪は私一人で十分よ」

「フェミは関わっていなかったのだろう? コカ殿が行った罪まで背負うことはない。アンテもミズキも優しいから許してくれるさ。しかし。せっかく星の石が産まれるところを見つけたのに。全滅か・・・」

「ここに一つ落ちてるわ」

先ほど二人の欠片が合わさった星の石がころんと光を放ちながら落ちていた。

「最後の星の石か。ここに移住しようと思っていたがその必要はないようだな。これを

持って帰って式を挙げよう。俺はもうフェミなしでは生きられない。フェミ。愛している。ほかの誰よりも。俺のたった一人の女神だ。女好きなんて称号すぐに返上する。愛妻家になるよ」

「本気なの? 一介の薬師よ」

「馬番からのし上がった奴もいる。身分なんてどうでもなるさ」

「浮気したら即離婚ですからね」

「浮気なんて当の昔に置いてきたさ。そう。フェミと初めて会った時に」

そう言って式の受諾のあかしに手の甲に口づけをする。

「あの・・・私、まだ承諾してませんが・・・」

そう言って手の甲を引っ込める。

「この期に及んでまだそういうのか? いい加減あきらめろ。もう離さない」

「強引ね」

「親父の血だ。星降りで式を挙げたものは全員どちらかが強引だ。家系だと思ってあきらめてくれ」

「しかたないですね」

そう言って再び手の甲を差し出す。

「愛しの君。こう呼ぶのはたった一人フェミだけだ。式を挙げてくれ」

頷きながらはい、とフェミは答えた。

どちらかともなく笑いあう。

ようやく通じた気持ち。心地よい空間。大事にしていこうとフェミは心の中で思った。

鍾乳洞を出る際にセスの遺体が転がっていた。

マドゥはこともなげに担ぐと近くの森に埋葬した。フェミも祈る。

「大きすぎる夢を抱いてなくなるなんてかわいそう。幸せは身近に落ちてるのに・・・」

「しかたない。散々わが王家を悩ませた悪人だ。死んで今度はいい心根を持った人間に生まれ変わってくれ」

二人は祈るとすぐに馬に戻った。これから何日もかけて星降る国に戻る。だが二人ともあれほどの星の華の監視をしないで済むということで心は軽かった。さすがに辺境すぎる。マドゥは移住してでも管理しようと思っていたがある意味家族のもとにいられるのは心強かった。戦に出てフェミに苦労を掛けるかもしれないが。実際今将軍にならないかと打診されていたのだ。その大事はマドゥには面倒事で統率するなどできるタイプではなかった。おまけに左大臣の娘婿に狙われていた。フェミと式を挙げればあきらめるだろう。面識のない姫君と暮らすよりはフェミと薬師の仕事でもしてるほうがましだ。兄が将軍職など勧めたら真っ先にフェミの家に押しかけることにしていた。フェミはまた怒るか呆れるだろうが。

馬を飛ばしていたせいかあっというまに星降る国に戻ってきた。

まっすぐ宮殿内にフェミを連れて執務室に行く。

案の定兄は執務の最中だった。

「もどったか。で、星の石調査はどうなった?」

マドゥはすべて見たままのことを報告した。ただコカの毒に関しては伏せたが。

「星の石はこれで最後か。星降りもあったんだな?」

マドゥに確認する。

「フェミの式の承諾も得ました。この石で俺たちは式を挙げます。それと俺は思うんだけど星の石の管理を一手に任せる代表者がいると思うのだが・・・。薬師のフェミは適任だと思うがどうだ?」

「そうだな。ただ星に関しては星読みがかかわる。カエムに承諾を得たら新たな役職を作ろう。どうせ将軍職はうけないのだろう?」

「あんな面倒なことはごめんだ。武術大好きなジェトにでも任せるよ」

アンテが小さく笑う。フェミにはそんなアンテが新鮮だった。以前やってきたときは威厳めいたものがあったが実際に言葉を交わすと普通の人間と同じだった。

「フェミ?」

ぼんやり考えているとアンテが声をかける。

「は・・・はい!」

「そう緊張せずともよい。そなたには星の護り人の役職を与える。星の言葉はカエムが伝えるが三つの石はそなたが管理してほしい。大変緊張するかもしれないがどうせ星の石はあちこち移動することになるからそうたいしたことでない。わが王家には星の石の加護がついてるのか星降りが多発してな。あちこちに行ってるのだ。セスもなくなったことだし当分は星の石は安泰だ。次はだれが星を降らせるか・・・見ものだな」

「エムシェレかもしれませんよ? 義兄上」

面白そうにマドゥが言う。すぐに返答が帰ってきた。

「エムシェレはまだ子供だ。そんなに早くに嫁に出せるか」

「娘を溺愛中なんですね」

フェミが何気なく言うと爆弾が落ちたみたいにその場の空気が一気に引いた。フェミはなぜなのかわからぬままぽけっと立っている。

「あー。義兄上。式の報告に星の宮に行ってきます。花嫁衣装も星の宮で作れると思いますから」

逃げ腰のマドゥが不思議なフェミである。

「行くぞ。フェミ」

そそくさと執務室から出たマドゥはフェミに説明する。

「アンテにエムシェレの溺愛ぶりを言うのは禁忌なんだ。ただでさえ、過保護の過保護だしな。焼きもちがはげしいからな。難しいがわかってくれ」

なんとなくうなずくが愛妻家と溺愛中の娘がいても市民は驚かないし普通なのだが。威厳の問題か・・・。王家はややこしいと再び思うフェミだった。


数か月後星の護り人の役職がついたマドゥとフェミは新居に移り薬師の仕事をしながら星の石を管理することとなった。そして今、マドゥとフェミは式を挙げた。シンプルな衣装に身をまとったフェミは輝いていてマドゥは一目ぼれしたかのように愛しの君を連発してフェミに飽きられていた。それでも二人は幸せだった。その日も星降りが起きていた。幸せの欠片を手にしたマドゥとフェミみの未来はここから始まる。星の石は次にどんな幸せの欠片を落とすのか。それは星だけが知っていた。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

星降る国物語はこれでおしまいです。エムシェレの冒険とか作れそうですが親が年を取るのを見るのがいやなので書かないかも。

それに星の石は管理が行き届くことになりましたからね。


どうなるやら。これに新作がでたら喜んでやってください。


星降る国物語を最後まで読んで頂きありがとうございました。

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