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第三話 星の産まれる所

「というわけなんだ…。義兄上もコカ殿に教えを受けたならこの覚え書きはわかるだろう? ただコヘレト山がわからないんだ。」

「コヘレト山か…。アフェラが知ってるかもしれん。叙事詩を知ってるからな。星読みの宮に行けばいい。カエムに言っておくから」

わかった、と言って行こうとするマドゥをアンテは止める。

「待て。カエムに連絡する時間が必要だ。女好きのお前がいきなり行けば殺されるぞ」

「俺にはフェミがいるさ」

「通じる相手か?」

嫌、とマドゥは答える。あの愛妻家は簡単に会わせくれないだろう。女好きで通っている自分はたいてい嫌われ者だ。転がされていると言ったフェミに妙に会いたかった。本当の自分を見ていたフェミ。あの聡明な瞳とぴしゃりと言い切るフェミが自分にはぴったりに思えた。

「じゃ、少しだけここにいる。義兄上に許可されたら行くよ」

妙に素直なマドゥにアンテが目を丸くする。

「えらく素直だな。フェミ君のせいか? なんにせよいい傾向だ。少しだけだ。星読みの宮に使いを出す。国王の命令ならあわせてくれるだろう。この国の存亡にかかってるからな」

「その必要はない」

突然執務室へ長身のカエムと妻アフェラが入ってきた。

「星が来いと言っている。アフェラに聞いてさっそく行くがよい」

「初めまして。マドゥ様。カエムの妻のアフェラです。フレーザーの抒情詩の一つにこんな歌があります」

そう言って静かに歌い始めた。

歌によると星降る国の創始者はウルの向こう側にあった王朝の商人だった。星の石を持ってこの国を神の約束の地として国を作ったのが歌の内容であった。ウルと聞いてアンテがの顔が曇った。

「ウルは物騒だ。国境沿いの小競り合いがずっと続いている。今はそちらから行けないな」

「フレーザ国を回っていくのはどうでしょう? エラムという遠い昔に黄昏を迎えた町です。私の面子もありますから妨害はしないでしょう。ただ・・・セスが心配です。ここ数年見たことがありません。名を変えてこの国にいるかもしれないしフレーザーで手ぐすねひいているかもしれませんわ」

アフェラが提案し、また注意を言う。

「恐れていては何もできない。俺の左大臣婿養子を阻むにも星の石のあくなき欲望はたたなければならないからな。フェミが一緒だからけがしても大丈夫だ」

「女性をつれていくの?」

アフェラが眉をひそめる。

「古代語をより詳しく知ってるし薬師だからけがの治療もできる。それに星降りの相手としったら左大臣が何するかわからない。一緒の方がいい」

「まぁ。痛くお気に召している女性なのね。会ってみたいわ」

アフェラがロマンスが花咲いているとばかりに瞳を輝かせる。

「そのうち会えるさ。俺が連れてくるから」

「相変わらずこの家系は強引なのね・・・」

悪かったな、とぼそりとカエムがつぶやく。

「こればかりは父上譲りだからな・・・」

アンテも苦笑いする。

「ま。無事解決したら式だからそれまで待ってるわ」

「当人が納得すればの話だけどな・・・」

深いため息をついてマドゥは執務室から出て行った。

向かった先はフェミの家である。今さっき知りえた情報を土産に向かったのだった。

「フェミ。コヘレトの山がわかったぞ」

勝手知ったる家とばかりに扉をたたきもせず入るマドゥである。毎度のことになれてフェミはもう怒る気力はなかった。呆れるばかりである。

「もう少し周りに気を付けたほうがいいわよ」

「すまないな。コカ殿の時はいつもこうだったからな。でもフェミのように注意された時もあった」

懐かしげに自分の祖父のことを話すマドゥがフェミには好ましく映った。

とうとう自分も焼きがまわったかと自分にあきれる自分がいた。

「なにぼっとつったってる。コヘレトの麓がわかったと言ったのだが必要ない知識か?」

「いいえ、ちょっと気が途切れただけで。香茶を飲みながらお話しいたしましょう」

「フェミ。その馬鹿丁寧な言葉なんとかならないか? 仮にも星降りの相手だぞ。恋人同士だぞ」

「私は星降りの相手とは認めてはいません。何かの間違いです」

「その星がお前にも来てほしいらしいと言えば?」

え、と香茶を入れる手が止まった。

「星読みのカエムが星が来てくれと言っていると読んだ。俺とお嬢ちゃんのことだと思うがな」

「とりあえずアンテ様の言葉通り星降りの件は星の石の調査の後です」

「しかたないな。これがフェミか」

妙に納得するマドゥである。

「なにぶつぶつ言ってるんですか? 香茶が入りましたよ」

「ありがとう。でコヘレトの麓というのはウルの向こう側にあるエラムというとうになくなってしまった王国の町にあるというんだ。アフェラによると。だがウルは今休戦と言えど小競り合いが絶えない。そこでフレーザー国を回っていくことにした。遠回りだが安全だろう。アフェラはフレーザー国の姫君だ。娘の嫁ぎ先の国のものだとわかれば検問にひっかからないだろう」

それで、と冷静な声が卓の向こうから声が入った。

「マドゥ様だけが行くのではないでしょう? 星の石を調べるのは私たち二人の役目でしょう?」

「馬に乗れるか?」

「いえ・・・残念ながら」

「じゃ。俺の馬で行こう。二人で乗ればいい。いつ行く?」

フェミはまだ片付かない標本に視線をやったがすぐにマドゥに向き直る。

「いつでも」

しっかりとした答えにマドゥは納得する。

「じゃ。明日にでも行こう」

はい、と簡単な言葉で話は終わった。ただ静かに時間が流れていく。心地よい。

「義兄もこうなのかな?・・・ 正妃様といる空間って・・・」

ぽつり、ぽつりマドゥが言う。

「そう思うならそうなのでしょうね・・・。私この空間好きです」

「俺も・・・」

何刻か共にいたがそろそろ西日が差しこんでくる。明日の用意もしないといけない。フェミの豆スープが食べたかったがマドゥは明日迎えに来ると言って帰った。

一人残ったフェミは必要になるであろうかと思われる薬を携帯するため薬箱に手をつけた。

相変わらず扉を開け放す。明るい声が飛び込んでくる。

「フェミ!! 用意はいいか?」

「今」

フェミが玄関に行くとふわっとマドゥに抱っこされた。

「マドゥ様?!」

「馬に乗れないのだろう? 載せてやるからしばらくおとなしくしてくれ」

そのまま馬首の前にのせられた。その後マドゥが乗る。

「鬣を強く持てよ。走らせるから。行くぞ。ハリス」

暗闇を思わせる漆黒の馬がフェミとマドゥを乗せて今走り出した。

ひたすらつっぱしる。星降る国をあっという間に抜けフレーザー国に着く。そこで王宮で国王にアンテからの親書を渡すと手形がもらえた。このまま突っ走ってもいいがフェミは初めての馬だ。平気な顔をしているが疲れている。このまま野宿もある。マドゥは国王に言われるまま王宮に一泊した。その後何日も宿に泊まったり野宿をした。何日たった頃だろうか。フェミは異常に気付いた。誰かが後をついてきている。マドゥに振り返って知らせようとすると耳元でそっとマドゥが言う。

「振り返るな。恐らくわが王家を何度も襲っているセスだ。セスとは向こうで決着をつける」

向こうってコヘレトの麓? 危ないんじゃ・・・。だが戦では頼もしい皇子とマドゥのことは聞いている。それよりもこの旅の後に訪れることの方がフェミには恐ろしかった。

セスを誘導する形でエラムに二人は到着した。馬を下りコヘレト山の麓に急ぐ。そこには小さな鍾乳洞があった。進もうとするとそこに第三者の声がかかった。

「案内ご苦労。ここからは俺のものだ。殺されたくなければここから出ていけ」

「言われてはいそうですかというわけにはいかないんだよ」

マドゥの殺気がセスを威嚇した。背後にフェミをかばう。剣をすらりと抜く。

「女泣かせのマドゥか。役に立たん剣を持って。俺の方が上なのを見せてやる」

戦闘が起こった。マドゥはフェミに先に行けと押しやる。転びそうになりながらフェミは洞窟の奥へと進んでいった。入口の方で剣戟の音が聞こえるが気にしていてはセスの思い通りになる。マドゥの弱点にはなりたくなかった。一生懸命進む。転ばぬように走っていくと奥の方に光がもれているのがわかった。

星の華?

より急ぐ。

そこには赤い華が咲いていた。ぽん、ぽんとその華の中からとびてて行くものがある。

「星の欠片?」

淡く揺れる光を放って欠片は空に飛ぶと消えていく。見上げると吹き抜けで空が見えた。強い風が星の欠片を空へと放っていく。地面には飛びそこなった星の石がごろごろ転がっていた。

「星の石・・・!! マドゥ。マドゥ!!」

殺されていませんようにと願いながらマドゥの名を呼ぶ。

大きな足音がして出てきたのはマドゥだった。剣から血がしたたり落ちてる。

「殺したの?」

「いや・・・。再起不能にしただけだ。だがお嬢ちゃんに傷の手当てをしてもらわないといけないかもしれない。だが俺は勝手に消えてくれてるほうが助かる。あいつは極悪非道なやつだからな。世界征服を夢見る奴は俺が許さん」

「そのために星の石を?」

「ああ。もともと人が強く願う願いをかなえるのが星の石の効果なんだ。いつしか幸せな恋人たちの間で星降りを起こすという伝承になったが。ここを俺たちの国で一括管理をするために探していた。世界戦争を起こすかもしれない物騒なものは抑止しないといけないからな。俺も戦いには飽きたからここらで星の石の護り人にでもなろうかな」

そう言って転がっている星の石を持つ。そこへ血だらけのセスが入ってきた。

「渡さない。世界を征服するのは俺だ・・・。死ね。マドゥ!!」

虫の息でやってきたセスは振り返ったマドゥにあっという間に急所を指されてこときれた。

あたりに血がにじむ。

「ここは汚すわけにはいかない。こいつの墓をつくってくる」

マドゥは冷たい声で言うと洞窟を出ていく。

「待って。マドゥ!!」

フェミの声は届かなかった。

「言わないといけないことが私にもあるのに・・・」

そう言いながらぽんぽん飛んでる星の欠片をつかんでみる。浮遊感が急に湧き出てフェミの体が浮いていく。

「きゃっ。マドゥ!! 助けて!!」

フェミの叫び声に反応したマドゥがもどってくる。

「どうした?!」

浮かんでいるフェミの袖をつかむ。光がはじけた。

二人とも星の欠片ごと姿を消した。




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