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第一話 二つの星の石

 マドゥは宮殿の裏の庭でウサギ狩りをしていた。王家所有の森故他人が入ることなく自然豊かだ。狩りにはもってこいだった。そんな森の中をざっざっと進むと一人の少女に出会った。

「お嬢ちゃん。ここで何をしてるのかい?」

いきなりであった少女に臆することなくマドゥは問いかける。

平和主義のアンテと違って義理の弟のマドゥは好戦的な性格だった。先だっても国境警備に行っていたがそろそろ宮殿に戻れと指令がくだって戻ってきたばかりだった。

刺激のない毎日に飽きて王家所有の森でひと発散していたのだった。

少女というのか女性というのか割と美人だ。女好きとしては女性の方がありがたいがその面持ちはあどけなさを持っていた。

「薬師のフェミです。マドゥ様」

「薬師? 薬師はコカ殿ではなかったか?」

「祖父は先月亡くなりました。代わりに私が祖父の跡をついでます」

ほんの少し見せた悲嘆のまなざしはマドゥが瞬きすると消えていた。

「そんなお嬢ちゃんでコカ殿の跡継ぎに?」

「お嬢ちゃんお嬢ちゃんといわないでください。もう25歳です。それにフェミという名前があります!」

おや、姉さんかい。とマドゥは思ったが口には出さなかった。さらに激昂するからだ。

「じゃ。俺を殺せるぐらいの毒を作れたら名前で呼ぶよ」

「私は殺人は嫌です。祖父は長けていましたが私は毒はつくりません。失礼します」

きゅっと踵を返して帰ろうとしたフェミの袖をマドゥはつかんだ。

「どこに住んでる? コカ殿と同じ居か?」

「そうです! 袖を離してください」

「離してもいいが、落ちるぞ」

そこは急こう配で焦っていたのだろうか、フェミはそこを降りようとしていた。

「回り道して帰ります」

答えに納得したマドゥは袖を離した。フェミはうまい具合に森を抜けて行った。

「面白い。用もできた。次は面白い顔が見れそうだ」

驚くフェミの顔を想像しながらマドゥは狼の宮に戻って行った。


数日後、思うことがあってアンテとネフェルに了解を得てアンテの石と妹の式でもつかったもう一つの星の石をもってフェミのところへ向かった。

「なんですか。朝から。調合で忙しいのに・・・」

ぶつぶつ文句を言ってフェミは戸を開けた。

顔を見たフェミは驚きの表情を見せた。

「マドゥ様ではありませんか。この間は失礼なことを言いました。捕まえに来たのですか?」

「そのほうがよかったかい? お嬢ちゃん」

お嬢ちゃんと呼ばれた瞬間またフェミの顔に怒りが浮かんだ。

「とりあえず。どうぞ。まともな香茶はありませんが・・・」

怒りつつ捕まえに来たわけではないのを察知してフェミが戸をあけ放してマドゥを部屋に入れた。

「ずいぶん不用心だな。だがこの部屋はほぼコカ殿と変わりないな・・・」

ぐるっと見渡したマドゥはそういう。

「まだ片付けていないものが多くて。まだ一か月ですから・・・」

「すまない。悲しい思い出を思い出させて。今日はそんなために来たのではない」

言い回しに含みがあるのを読み取ってフェミの顔があがった。

「何か御用ですか?」

「まぁ。その香茶を飲みながら話そう。俺はコカ殿の出す香茶が好きだった」

懐かしそうに話すのを聞いてフェミは意外そうな顔をする。

「マドゥ様は戦地に行かれることが多いと聞きましたが」

「その代りけがもする。コカ殿には幼いころからよくしてもらった。しょっちゅう生傷をこしらえていたからな。ジェト程剣に長けているわけでもないし」

「よく祖父がマドゥ様の話をしていました・・・」

懐かしげに微笑むフェミが美しいとマドゥは思った。あどけなさは家の中ではあまり目立

たなかった。美女たちが勢ぞろいしたらそうかもしれないが化粧っ気のないままのフェミは美しかった。

「どんな話をしていたんだ?」

自分の話に興味をもったマドゥはいたずら心で聞いてみた。

「戦いの腕は確かですけどあれは女に手玉を取ってるんじゃなくて転がされているんだと・・・」

祖父がそっと話していたことをそのまま話す。反応を見てみたかった。すぐに口説く女好きと聞いていたので逆手を取ってみたかったのだ。我ながら王家にたてつくとは、気がふれてしまったのかと思わざるを得なかったが。予想外にマドゥは平然としていた。

「コカ殿はそのように申してたか。確かになぁ。女神の手のひらに転がってるほうが楽だからな」

「あっさり認めるんですね」

残念とばかりにフェミが言う。

「残念ですまないね。自分の性分はしっかり心得てるよ」

それより、これと二つの小箱を見せる。

ひとつは古い大き目の箱、もうひとつはその一回り小さな新しい箱だった。

「それは?」

薬師のカンか。中に入っているものがただものではないとわかっているようだ。

「星の石だ」

その一言にフェミの顔色が変わった。

「それは門外不出の星の石。どうしてマドゥ様が・・・。国王か星読みのカエム様がお持ちのはず」

「よくご存じで。ちょっと調べてほしくてね。こちらの大きな方はわが王家に伝わる星の石だが小ぶりのはホルスがどこからか手に入れた新しい星の石なんだ。ホルスは市で買ったと言っていたが。実際に国中ではないが星降りを起こしたのだよ。この小さな石が。で、もしかしたら星の石はもっとほかにもあるのではと。まずはこれとこれが同じものかと成分を調べてほしいんだ」

「そんな・・・。畏れ多いことを・・・」

「コカ殿がいればことは簡単なのだが。ことは重大でね。俺の身にかかわることで。おっとそれはまだお嬢ちゃんには教えられない。調べたうえでさらにまた調べ物があるんだよ。おいていくから一週間ほどでがんばってほしい。君の腕には期待しているよ」

そう言ってマドゥはすっと扉から抜け出して帰って行った。

「勝手な人ね!」

さっき座っていた座布団をドアめがけて投げる。そして困ったように星の石をみつめる。

「どうしよう。一週間もあれば成分は調べられるけど傷はつけられないわ・・・かといって見た目では判定できないし・・・」

箱を開けてみるとほんのり部屋の明かりにゆらめく星の石がおさまっていた。

「二つあるの?」

祖父からはひとつと聞いていた。市にあるとは信じられない。

開けてみると同じ石のように光が揺らめいていた。だが小ぶりだ。

フェミは三日ほど手も付けられず放置していたがさすがに期日が近づくとそわそわしてまた箱を開けた。変わらずそこに星の石があった。

「削るしかないわね」

決意を新たにフェミはやっと星の石に手を加える決心をした。震える手で星の石の欠片を小さく、小さくとる。目立つような傷はつけられない。

時間をかけてやっと二つの石から欠片を取った。粉末にして液薬に入れる。

突然試験官が光りだした。あまりのまぶしさに瞼を閉じる。

「フェミ!!」

マドゥが飛び込んできた。

「やったな。これで俺も楽になれる。お嬢ちゃんとの星降りだからな。はぁ~助かった」

やっとの思いでやれやれと肩をなでているマドゥにフェミがつっかかる。

「なんですか。いきなり。それに星降りって私は粉末を試験官に入れただけですよ?!」

王家との結婚なんてまっぴらだ。

「いいんだ。それももう一つの調べものだからな。でやはり同じか?」

星降りを横に置いてマドゥが尋ねる。

「ええ。同じ試薬にいれて同じ色に光りましたから」

「ということは同じ石がある場所があるわけだな?」

確認するようにマドゥは言う。フェミも言われてみてわかった。

「そういうことになりますね。でもどこでとれたかはわかりません」

「それはおいおい調べていけばいい。星の石を狙う奴が相次いできてるから阻止しなければならない」

「そんなに?」

「まぁな。それより星降りの対象を探しに義兄が来るはずだ。話を合わせてほしい」

「どうしてそんなことを・・・」

フェミの顔にまた怒りが浮かぶ。

「左大臣の養子にされそうなんだよ。兄ともめる原因になる。俺は争ってまで王座はいらない。嫁でも娶ってゆっくりできればいいよ・・・」

ほんとに疲れた様子でマドゥが言う。

「でも私の祖父は・・・」

言いかけたことをマドゥが制する。

「兄が来たようだ。俺に任せて」

あわてて服をととのえる。

「マドゥ! いるか?!」

ドアが乱暴に開いた。

「いますよ。兄上。こちらが星降りの相手のフェミです。コカ殿の孫娘に当たります」

「コカ殿か・・・。先だっては残念だったな。だが星降りは別だ。決定的な証拠が必要だ。フェミはマドゥを愛してるのか? ほぼ会ったことはないだろうが・・・」

「私は・・・」

声を上げようとした瞬間マドゥがいきなりフェミを抱き寄せた。そして制する。

「しっ。とにかく俺を助けてくれ」

懇願されていずれ間違いだと判定され婚約などはされないと思ったフェミは黙ることにした。

「フェミには星の石のことも依頼しています。大事な相手でなければ星の石を任せませんよ」

「そうか。それならいいが。式は星の石の件が終わってからだ。フェミ君もよろしく頼む」

「は・・はい」

我ながらか細い声で答えていてフェミは驚いた。アンテの威厳に気圧されたせいだろうか。

「大丈夫だよ。愛しい君。兄は責任感が強いだけなんだ」

愛しい君とよばれて悪寒が走るかと思ったが案外すんなり受け止めていた。手馴れていたせいだろうか。どれだけの愛しい君がいただろうか。十把一絡げにされて落ち込む自分がいた。マドゥ様は私のことなど大して思ってないわ。ただの薬師だもの。少なくとも星の石の調査が終われば星降りの原理もわかる。それまでの間だ。ちょっぴりさみしい思いで思う。

「では頼む」

そう言ってアンテは去って行った。

抱き寄せていた腕から思いっきり抜け出すとフェミはマドゥをにらむ。

「軽々しく触らないでください。仮にも嫁入り前の娘なんですから」

「それはすまないことをした。だが俺は左大臣の手から逃れるためにお嬢ちゃんと式を挙げなければならない。左大臣があきらめたらまた薬師の仕事に戻ればいい。だがこの星降りは幸せな恋人同士に落ちるといわれている。多少なりとはお嬢ちゃんと縁はあると思いたいね」

「思いたくないです!」

きっぱり言い切るとマドゥは後頭部をぽりぽりかく。

「言ってくれるねぇ。ま。この調べ物の間になんとかなってくれることを祈るよ」

「祈りません!!」

「はいはい」

掌をひらひら振ってマドゥはフェミの居から出て行った。

「何しに来たのかしら?」

両手に持ってる試験官を見ながらフェミはこれをどうしようかと考え始めた。




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