多様性……ぷっ
自動車は今、ミニバンしか売れない。
各メーカー、こぞってミニバンばかり売り出していた。
7人乗れなければミニバンとは言えない。3列シートだ!
広くなけれぱミニバンとは言えない。低床にしろ! それでいてハイトなデザインだ!
走りなんてどーでもいい。乗り心地最優先だ! エンジンパワーを抑えろ! ハンドリングもマイルドに!
ガソリンの値段高騰、低燃費が求められる──速さなんてどーでもいい! リッター20km/lを割る車なんて車じゃない!
それでいて各社『多様性』を売りにしていた。
ミニバンの中でだけの多様性だ。
スポーツカーなんて高燃費で危ないものは作らない。唯一時代に反して『走り』を車に求めるアフラ自動車だけがスターロードという、軽量スポーツカーを生産し続けていた。
時代は変わった。
独身の者が人口の大半を占め、大人数で乗れる車は必要なくなった。
一人で乗る者が多くなり、開放感を求めてオープンカーが歓迎されるようになった。
どうせなら走りの楽しい車がいいということになり、またスタイルの良さも求められ、スポーツカーが歓迎されるようになった。
日本に油田が発掘され、石油の価格が激安になり、エコカーの価値はなくなった。
各社慌ててスポーツカーを開発したが、遅かった。
あれほど人気を誇っていたミニバンは過去の遺物とされ、誰も見向きもしなくなった。
ミニバンばかりでラインナップを固めていたメーカーは、こぞって潰れた。
今やアフラ自動車一社だけの天下である。
それでいて、アフラ自動車は、ミニバンを作り続けていた。