帰国
アメリカに留学していたシン兄さんとマサト兄さんが、いよいよ帰国する事になった。まだユウキ兄さんが入院中だが、その他のメンバーは空港へ迎えに行く事にした。
演劇訓練所のメンバーは休みを合わせて取った。タケル兄さんとテツヤが出演していた公演も終わり、今度こそゆっくりと一緒に過ごせるはずだ。
兄さんたちの帰国も、俺たちの出迎えも、非公表だった。だからファンが殺到する事はなかったのだが、どこからか多少漏れるようで、少数のファンやマスコミ関係者が空港に集結していた。警備されて、俺たちには近づけないようにしてくれるのだが、たくさんのカメラに囲まれた状態で、久々のご対面になる。
俺とカズキ兄さんは、一緒に羽田空港に到着した。マネージャーさん1人と合流し、国際便の到着ロビーへと移動した。
「シン兄さんたち、到着しましたか?」
カズキ兄さんがマネージャーさんに聞くと、
「まだだよ。そろそろかな。先に、タケルとテツヤが到着して待ってるよ。」
と言われた。
到着ロビーに行くと、途端に熱気を感じた。カメラマンが囲んでいるその真ん中では、メンバーたちがハグをして再会を喜んでいるところだった。ギリギリ間に合ったようだ。
「シン兄さん!マサト兄さん!」
カズキ兄さんが叫びながら、小走りして行った。そして、シン兄さんとハグをし、次にマサト兄さんとハグをした。シン兄さんが、今度はタケル兄さんとハグをした。背丈が同じくらいの2人は、ハグをしたまま耳元で何かを囁き合っていた。
マサト兄さんとカズキ兄さんもハグしたまま話しているので、俺は次にシン兄さんとハグをしようと、横に並んだ。そこには、シン兄さんとタケル兄さんがハグしているのをじっと見守っているテツヤがいた。俺は、テツヤの背中をトントンと軽く叩いた。すると、テツヤが振り返った。
「レイジ!」
テツヤが顔を輝かせてそう言った時、タケル兄さんがシン兄さんとのハグを終えたようなので、まず俺はシン兄さんとハグをした。だが、テツヤが俺の手首を掴んでいる。俺とシン兄さんのハグが半端な状態になった。テツヤが俺の手首を離さないから。ちょっと嬉しいのだが。
俺とシン兄さんとのハグが終わっても、まだテツヤは俺の手首を離さなかった。テツヤの方を振り向けば、キラキラした目で俺を見ていた。ハグしよう、と言っているのは分かる。が、ここで俺たちがガッツリハグするのはどうなのだ?こんな、公衆の面前で。俺たち、たまに会っているのも報道されているみたいだし。でもテツヤは、自分の後ろにいるたくさんのカメラマンやファンの視線など、全く意に介さずという感じ。俺は迷った挙句、片手でテツヤの背中を軽くポンポンした。何せ、もう片方の手首はテツヤに掴まれたままなのだ。テツヤときたら、未だに目をキラキラさせてこちらを見ている。もう、そんな目で見るなよぅ。
ひとしきり再会のハグをし終えた俺たちは、ファンやカメラマンの方に向かって一礼し、マネージャーさんたちと共に移動した。空港からは車に乗って移動だ。その車は、スタッフも含めて3台に分かれるようだ。
1台目にはシン兄さんとタケル兄さんが乗り込み、2台目にはマサト兄さんとカズキ兄さんが乗り込んだ。そして、3台目に俺とテツヤが乗り込んだ。もちろんマネージャーさんも一緒に乗るのだが、久しぶりにゼロ距離に近づけるチャンスが訪れた。車のドアが閉まると、窓の外にはたくさんのカメラや手を振る人が見えるのだが、向こうから車の中は見えないはずだった。それを知っているので、車のドアが閉まった途端、テツヤは俺の方へぐっと寄って来た。俺は思わず抱きしめた。背中をポンポンではなく、ギュッとした。そして、背中を撫でた。
「レイジ……。」
小さくテツヤがつぶやいた。すると、
「ゴホン。」
咳払いが聞こえた。ハッとしてテツヤを離した。咳ばらいをしたのは運転席にいたマネージャーさんだった。恥ずかしい。そこへ、荷物を運び入れた別のマネージャーさんがギャラリーとは反対側のドアを開けて乗り込み、車は発進した。俺は、マネージャーさんたちから見えないように、テツヤの手を握った。テツヤがチラッとこちらを見て笑った。その後、テツヤは俺の肩に頭を乗せた。もう、咳払いは聞こえてこなかった。見て見ぬふりをしてくれるようだ。