インスタの写真
7月になった。またしばらくテツヤに会っていない。電話はちょくちょくするのだが、寝る前にちょこっとだけだ。
テツヤはインスタに自分の写真を時々載せる。俺と一緒に撮った写真を載せる事もある。他のメンバーとの写真はあまり載せないのに、俺との写真を載せるテツヤ。インスタは仕事ではなくプライベートだから、好きに載せていいのだが……なんだか俺たちの関係がバレバレのような気がして落ち着かない。
しかし、最近はあまり会っていないので、俺との写真はめっきり減り、その代わりに訓練所の新しい友達との写真が増えた。もう一度言う。俺以外のメンバーはあまり載せないのに、訓練所のお友達は載せる。うーむ。
夕食を食堂でとっていた。今、俺と同室のカズキ兄さんは、俺の目の前にはいない。カズキ兄さんのファンだという年下の男が現れ、カズキ兄さんはそいつと一緒にご飯を食べている。以前は俺がテツヤと電話で話す時、カズキ兄さんが気を利かせて部屋から出て行ってくれたものだが、最近は俺の電話など関係なく、部屋を出てどこかへ行ってしまう。嬉しそうに。
カズキ兄さんがここへ来た頃、失恋をしたばかりで元気がなく、カズキ兄さんにもいい人が出来ればいい、幸せになって欲しいと願っていたが、実際に幸せそうにしているカズキ兄さんを毎日見ていると、なんだか……腹が立つ。ずるい。俺も好きな人の近くに行きたい。
はあ、情けない。あと1年なのに。あと1年経てば、またずっとテツヤと一緒にいられるのに。寂しさに負けそうだ。
食事を終えて部屋に戻ると、じきにカズキ兄さんも部屋に戻って来た。お互い自分のベッドに腰かけていると、スマホにお知らせのバイブレーションが。
「ん?あ、テツヤのインスタ更新のお知らせか。」
俺たちは、なんだかんだ言ってメンバーの動向が気になり、お互いのインスタの通知をオンにしているのだった。
「活動休止中なのに、あいつはマメに更新してるよなあ。常に自分を見せようとする辺り、ホント、根っからのアイドルだよなあ。」
カズキ兄さんが感心している。俺もスマホを手に取り、テツヤのインスタを開く。すると、新しい写真がアップされていた。
テツヤが広告塔を勤めているコーヒーショップの前だった。自分の写真の看板の横に立ち、ちょっと日焼けして赤らんだ顔で立っている。壁に寄りかかり、カメラを見つめて微笑むテツヤ。ものすごく……可愛い……。
「レイジ、落ち着け。」
カズキ兄さんが俺の腕を掴んだ。気が付けば、俺はスマホと財布をポケットに入れ、帽子を掴んでいた。
「今から会いに行こうとしたのか?」
カズキ兄さんがニヤニヤして言うのを見て、自分でも愕然とした。今俺、発作的にテツヤの所へ行こうとしていたようだ。
「会いに行くのはいいけどさ、よく考えてからにしろよ。どうせ行くなら休みの日の前日にした方がゆっくりできるだろ?」
カズキ兄さんがもっともな事を言った。とりあえず、落ち着こう。俺は再びベッドに座った。もう一度スマホを開いてテツヤのインスタを見る。
ああ、可愛い。しかし、こんな顔をするのは、何と言うか、照れている時だ。俺が好きだよって言った時とか、壁ドンして見つめた時とか、もう一回しようって言った時とか。
ちょっと待て。この写真、誰が撮った?そうだよ、こんな顔、誰に見せたんだ?俺はたまらず部屋を出て、テツヤに電話を掛けた。
「もしもし?インスタの写真見たよ。」
俺が電話を掛けると、テツヤは嬉しそうな笑い声を出した。
「なんか、照れてる顔だね。」
俺がそう言うと、え?と驚いたような声を出したテツヤ。
「そう?ああ、自分の写真の隣だったから、何か照れたんだよな。」
ごもっともな答えが返って来た。まあ、そういう事にしておこう。
「それで?あの写真、誰に撮ってもらったの?」
つい、問い詰めるような言い方をしてしまう俺。
「ん?ああ、友達。」
やっぱり。つまりタケル兄さんではないと。でも、まだ俺は納得できない。俺が黙っていると、
「ヤナセって言う友達。レイジも知ってるんじゃないかな。アニメの「ザトー」で主人公の声をやってた声優さん。」
と、テツヤが言った。なに?声優だと?ザトーは知っている。主人公の声は……ああ、あれか。いい声の人だよな。顔は知らないけど。ん?ちょっと待てよ。
「ヤナセさんと仲いいの?」
俺は平静を装って聞く。
「うん、まあ。最近よくつるんでるかな。」
テツヤはそう言うと、少し黙った。不自然な沈黙の後、
「じゃあ、またな。」
と言って、テツヤは電話を終わらせてしまった。ふ・あ・ん。
不安が押し寄せる。俺はヤナセを検索した。アニメのショート動画も観た。声のいいやつ。声のいい男。テツヤは声のいい男が好きなのではないか、と思う事がしばしばある。俺に耳元で名前を呼ばれるのが好きで、すぐに力が抜けてしまうテツヤ。あのヤナセが、テツヤの耳元で、
「テ・ツ・ヤ」
なんて囁いたら、テツヤはコロっと墜ちてしまうのではないか。うぉー、そんな事があってはならん。どうしたらいいんだ、俺はどうしたら。