あと半年
翌日、皆でユウキ兄さんのお見舞いに行った。
「おー、ようやくみんな揃ったな。」
ユウキ兄さんが言った。
「あとどのくらいで退院なんですか?」
タケル兄さんが聞いた。
「このまま順調なら、あと半年だって。けど、もっと早く退院するぜ。その為にリハビリも頑張ってるんだ。」
ユウキ兄さんが力強く言った。
「つまり、あと半年で全員揃ってまたグループ活動ができるんですね?」
カズキ兄さんが言った。
「ああ、できるよ。」
ユウキ兄さんが、カズキ兄さんを見て優しく言った。みんなからため息が漏れた。よし、もうすぐだ、という気持ちの高ぶりがため息に現れている。ここは病院だから、大声は出せないので。
あと半年、あと半年我慢して訓練所にいれば、またメンバーと一緒に仕事ができる。ずっと一緒にいられる。テツヤと。
だが、とりあえずそれぞれの訓練所に帰らなければならない。その日の夕方、訓練所組の4人で羽田空港へ行った。タケル兄さんとテツヤとはここでお別れだ。
「じゃあ、またな。」
タケル兄さんが言った。
「お元気で。」
カズキ兄さんが言った。これから二手に分かれるのだ。俺は何も言わずにテツヤを見た。テツヤも、俺を見ている。
「あー、ちょっと2人で話せば?」
そんな俺たちに気づいたのか、カズキ兄さんがそう言った。
「ああ、そうだな。カズキ、飲み物買うの付き合ってくれよ。」
「はい。じゃ、お前らここでちょっと待ってろ。」
タケル兄さんとカズキ兄さんが、気を利かせて俺とテツヤを2人にしてくれた。とは言っても、少し離れた所には知らない人がたくさんいる。誰も俺たちが芸能人だとは気づいていないようだが。
「また……電話、するから。」
「うん。俺も……あ、ちょっとごめん。」
こんな時に誰だよ!と思わず憤ってしまった俺。テツヤのスマホに着信があったのだ。後ろを向いて電話に出るテツヤ。
「もしもし、ヤナセ?うん、今羽田。」
なにー!ヤナセだー?どんだけまとわりつくんじゃ、こいつは。電話はすぐ終わった。まあ、テツヤはこれからヤナセのいる宝塚に向かうのだから、ここで長電話する必要はない。何時に帰って来るか、なんて聞いたのか?あん?
「ごめん、レイジ。どうした?あ、怒った?」
テツヤはそう言いながらも、ちょっと笑っている。
「あのさ、そのヤナセって人と仲良くし過ぎじゃない?迷惑だって言ってやった方がいいよ。だってそうでしょ、明らかにストーカーレベルじゃん。」
テツヤは笑い出す。
「しつこいんでしょ?まさか、そいつの事、好きになったとかじゃないよね?」
「レイジ、落ち着けって。ヤナセはそんなにしつこくないよ。まあ、確かに人懐っこいところはあるけどさ。」
そうだろうか。テツヤにとって、実はけっこうお気に入りなのでは?
「だいたいさ、ヤナセってどんな顔してんの?イケメンなわけ?俺とどっちがイケメン?背は高いの?ねえ。」
俺が言い募ると、テツヤは嬉しそうにニヤニヤしながら、スマホを操作した。
「写真見るか?ヤナセは……あ、あった。これ。この人。」
テツヤは、スマホの写真を拡大して見せた。写真には3人写っている。まあまあイケメンも写っている。が、テツヤが指で示したのは……。
「え、これ?これがヤナセ?」
「うん。」
「あの、ザトーの声の?」
「そう。」
そう、か。なんだ。そうか。
「ぷっ、レイジお前、その反応は失礼だろ。あははは。」
テツヤは笑った。大笑いされた。俺もなんかおかしくなってきた。
「あはははは。」
「心配いらないよ、レイジ。」
テツヤはそう言って、俺の頭を撫でた。俺は、テツヤをギュッと抱きしめた。
「おいおい、公衆の面前だぞ。」
いきなりカズキ兄さんの声がしてびっくりした。手を離すと、タケル兄さんも近くに立ってニコニコしていた。
「お別れはできたか?」
「はい。タケル兄さんも、お元気で。」
「ああ、レイジもな。」
タケル兄さんはそう言って、俺に軽くハグをしてくれた。タケル兄さんの癖で、俺とハグをするとチラッとテツヤの顔を見る。まるで子供が悪い事をした時に、母親や先生の顔をチラッと見るみたいに。いつからだろう。最近なのか、それともずっと前からなのか。少なくとも俺が気づいたのは最近だった。
俺たちは二手に分かれ、それぞれの訓練所に戻った。あと半年。あと半年。そう唱えながら、俺はまた、将来の為になるのかどうかよく分からない訓練に精を出す。
それにしても、ヤナセの顔はあれか。背も低いようだ。ザトーのイメージとはだいぶ違う。公表しなかったわけだ。だからと言って、安心なわけではない。あの声は武器だ。まだまだ半年間、安心できないのであった。




