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9.掴み取れ平和主義

これまでのあらすじ


・変な二人組からお金上げるから手持ちのアニマル渡せって言われた。

・あえて挑発して喧嘩売ったらキレられた、それはそう。

・二対一なので当然強い。それはそう。


各キャラクタースキル


ハジカミ:【全裸】【回復(残り一回)】

ティロ:【なし】

「戦うと言うのなら容赦はいたしません、いきますよ!」

筋骨隆々のモヒカン男は優美な口調でそういうと、俺の拳を手のひらで受け止めたまま強く握り、そのままの勢いで地面に叩きつける。背骨が地面とぶつかりきしみ反射的に肺から息が吐き出される、見上げた空には太陽を背にした美少女が重力に従いこちらへ落下してくる。少女の左足は閃光を放ち俺のみぞおちにクリーンヒットした。

「ぐへっ!」

「吐いた唾飲むなよ!」

「……【回復】!」

もう一度少女の蹴りが襲ってくる前に俺はスキルを発動させつつ立ち上がって受け止める。緑色の光が全身を覆うとともに癒やされHPバーがほぼ前回まで復活する。


「ほお、【回復】、か……」

受け止められた蹴りを戻しツインテがニヤリと笑う。

「そのスキルのことは知っとるで、一日に三回までしか使えん先延ばしの術じゃ。前に手に入れたときは使わんと思って捨てて後悔しとったが、てめえが持ってるなら好都合」

御名答、更にいう俺は今日の回復は全部使い切って先延ばしすらできない崖っぷちだ。


「わしとお嬢に手も足も出んところを見ると、お前さん有効なスキルをもっとらんのじゃろ? なら話は簡単じゃ、シバいて逃げたら追いかけて捕まえてしばく。てめえがいなくなったらあの獣をもらう ■■■」

邪悪な笑みを浮かべてツインテールは俺に立ちはだかりスキル名を言うと再び全身が赤い光に包まれる。さっきのみぞおち蹴りは攻撃力上昇の効果が切れていたおかげでギリギリ体力が残ったがもう一度発動されたら今度こそ俺は終わる。仮になんやかんやでスキル発動中の攻撃を避けられてもこっちに決定打はないのでなぶり殺し確定だ。

「死に晒せ!」

「させません!」


相手がハイキックを繰り出そうとしたその瞬間、白い小さな影が俺の眼の前に飛び出してきた。

木から飛び降りたティロが短い手足と長い胴体を精一杯伸ばして細長い盾を作り出す、突然現れた小動物に反射的に相手の動きがとまりちょうどティロの額の上で寸止めとなる。


「ティロ! ちゃんと上で引っ込んでろって!!」

「ハジさまには手を出させません!」

「いやいやお前が手出されたらやばいんだよ!!」

「獣が喋った……?」

「かわいい……」

「かわいい?」


騒ぎの中ぽつりと呟かれた声に俺とティロが振り返ると頬を染めていたモヒカンは軽く咳ばらいをして調子を取り戻し、俺とティロを交互に見ながら尋ねる。

「あの、ハジ様……でしょうか? ティロという、そちらの白いお助けアニマルはあなたのお友達でしょうか?」

その声に先程までのトゲトゲしさはなく、なんというか散歩しているかわいいワンちゃんに触ってもいいか飼い主に尋ねるときのようなそわそわした雰囲気があった。

あ、これ押せばいけるかんじ?


俺はティロを抱きかかえて頬ずりをし、わざとらしく声に抑揚をつけ甘ったるく語りかける。

「そうなんです~俺とティロは最高のパートナーでたった一人で彷徨っていた中ようやく出会えた相棒なんです~!」

「ハジさまは私の命の恩人ですわ!!」

「銀次郎! 私ったらなんてことを! この方たちの仲を引き裂くなんてできませんわ!!」

「お嬢!?」

うるうるぴえん顔で見つめるイタチ、ウーパールーパー、モヒカンのマッチョのトライアングルアタックに押されてツインテはたじろぎ、観念したようにため息をつき足を下ろしてスキルを解除して光のオーラを消す。


「わかった、わかった。その獣には手を出さんし奪わん。わしらが欲しかったのは【回復】のスキルじゃけ、それが手に入ったら用済みじゃ」

「よっしゃ!」

「やりましたわ!」

「ただし白玉、お前は死ね」

「え?」

「わしはともかくお嬢にあんな舐めた口きいたことは許さん、そっちが売ってきた喧嘩のケジメはつけさせてもらうで」

「あっはい」

青筋をびきびきと走らせて激昂しまくる金髪美少女こと銀次郎に俺は真顔で答える。完全に死を受け入れた俺と怯えきったティロを見てモヒカンは同様しツインテに向かって慌てて叫ぶ。


「銀次郎! 私達に戦う理由は無いはずですよ!!」

「お嬢は一旦下がってくだせえ。これは男のケジメ、そしてわしらのためでもあるんです」

左手に付けられた銀色の腕輪をかざし、ツインテは落ち着いた声でモヒカンに語りかける。

「バトルに勝てばわしらはこの白玉のスキルの内容を見て選ぶことができますが、交換はそうはいきません。スキルをごまかすスキルやアイテムやなんざ沢山あるんですから、より確実な方を選んだほうがいい」

うーん正論、相手に言われるがまま交換に乗っちゃだめって基本をよくとらえてるなあこのバ美肉ツインテール。

しかし交換、という言葉を聞いて俺にある考えが一瞬浮かび上がる。一か八かだがこのままセントラル直行よりはまだマシだ。

俺はティロを抱きかかえたまま、心配そうに見つめるモヒカンに向かって声を掛ける。


「そこの人は見かけによらないお嬢さん。この金髪チンピラガールに俺は今からぶっ殺されるのでティロを保護してくれないか? セントラルの宿屋でセーブしてあるからそこまで送り届けてくれたらいい」

「誰がチンピラじゃコラァ!」

「やめなさい銀次郎! ……わかりました、ティロ様は私が責任持ってセントラルまでお届けいたします」

モヒカンは地面に膝をつき、身を屈めて両手を広げて迎え入れる。ツインテも不機嫌そうな態度は変わらないがティロがまっすぐモヒカンのもとにいけるよう一歩下がって成り行きを見ている。地面にそっと置かれたティロは不安そうに俺を見つめるが、俺は安心させるためにあえて柔らかい声で語りかける。

「と、いうわけでティロ、行って来い」

「ハジ様……」

不安げな表情のまま振り返るイタチに向かって優しく送り出す全裸のウーパールーパー怪人、迷えるイタチを迎え入れんと聖母の微笑みを浮かべて跪く世紀末モヒカンマッチョ。

感動的な風景だ、なんだこれは。


ティロは決心がついたのか前に向き直りおずおずと歩を進め、やがて走り出した瞬間、俺自身も地を蹴り駆け抜ける。ティロの短い足でようやく稼がれる距離をあっという間に超え、俺はモヒカン男のところへ飛び込む。

「え!?」

「ついでに俺も保護してくれ!」

モヒカン男の太い首筋にしがみつき胸元へ体を密着させると、激しい破裂音とともにモヒカン男の身につけていた黒革の服と肩パットが千の欠片となって四方八方へ飛び散っていく。プロテクターの下から筋骨隆々の肌がむき出しになり外気にさらされる。

「きゃあああ!!」

「お嬢!?」

サービスシーンとは程遠いマッチョの脱衣だが、相手にとっては普通に羞恥心を煽るものだったらしい、甲高い声を上げてモヒカン男は自身の胸元を隠してうずくまる。突然の出来事にあっけに取られていたツインテは目を見開き赤い光を放って激昂する。


「てめえ何しやがった!!」

「いいこと教えてやるよ、俺のもう片方のスキルは【全裸】。装備どころか体に密着しているもの全てが吹き飛ぶド級のクソスキル、お陰でこんなふざけた格好になっちゃったんだからどうしようもねえよなあ。そのうえボコられて負けたとなればそいつの大切なお嬢さんになすりつけて鬱憤晴らしでもしなきゃ気がすまねえよ」

長い舌を伸ばして中腰に構え、変質者丸出しの粘着質な物言いでツインテに向かって笑いかける。すぐに脅迫だとわかったのかツインテは繰り出そうとした蹴りを止め、苦虫を噛み潰したような顔になる。俺は両頬を引っ張って挑発するように笑いかけ、両エラをゆらゆらと揺らす。


「俺は両生類で湿っぽいたちだからなぁ~? どこまでも追いかけ回してお前のお嬢様の服いつでも剥ぎ取ってやるぜぇ~!」

「ぐ!」

「てめえが俺を倒して取れる手は二つ、【回復】を選んで大事なお嬢様に全裸ウーパールーパーがまとわりつくか、【全裸】を選んで欲しかったスキルをみすみす見逃して真っ裸で帰るか。いやあ~俺倒しちゃったら一個しか選べないんだから迷うよね~?」

「ぬぅうううう!!」

「さあ、お嬢様。俺と一緒にヌルヌルぺたりな全裸旅行を楽しみましょうやゲッヘッヘ」

地面に両手をつけ腹ばいになり、あえてゆっくりとした足取りで唾液たっぷりな舌を揺らしながらモヒカンににじり寄る。相手は顔面蒼白のままなんとか逃げ出そうとしているが、急な脱衣のショックで腰が抜けたらしい。俺との距離はどんどん縮まり舌先が頬に触れようとする寸前、ツインテが大声で叫ぶ。


「わかった! 戦闘中止!! 交換じゃ!!」

『スキルのトレードを申請されました、承諾しますか』

うーんナイス選択、やっぱり平和が一番だね。

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