8.せっかく当てたキャラの上位互換が即出たときの悲しさは異常
これまでのあらすじ
・変なのが現れた
各キャラクタースキル
ハジカミ:【全裸】【回復(残り一回)】
ティロ:【なし】
核戦争で世界が滅んだあとの生き残りのような世紀末覇者の巨漢の男、身長二メートルは超える肉体は棘付き肩パットと黒革のプロテクターに覆われている。細く鋭い目つきの上には分厚く盛り上がった眉骨と海苔でも貼り付けてるのかよと言いたくなるゴン太の眉毛が生えている。
幾度となく視線をくぐり抜けた男の口から、以下の言葉が流れ出る。
「こちらに危害を加える気はありません、大人しくそのお助けアニマルを渡していただけないでしょうか?」
傍らにいるのは一人の少女。
純白のドレスに身を包み、金色の髪を高い位置で二つに結い上げられている。豊富な髪が緩やかな螺旋をつくり磁器人形のように整った顔立ちを彩っている。
年齢は小学校を卒業した直後ぐらいだろうか、ドレスの先から見える手足は細く繊細な印象を受ける
その少女の口から以下の言葉が流れ出る。
「お嬢のいうとおりにしな、大人しくそいつをわたしゃあ痛い目にはあわせねえよ」
なんだこれは。
見た目と口調があってないにも程があるだろ! 頭でもぶつけ合って入れ替わったのか!?
俺の混乱を否定と捉えたのか、金髪ツインテールの殺気が濃くなるがモヒカンによって制される。
「もちろん無償で、とは言いませんわ、報酬はきちんと用意しております」
世紀末モヒカンはそう言うとウィンドウを表示し操作する。するとウィンドウの中から布袋が現れモヒカンの手のひらにのせられチャリ、と重い金属質な音が響く。
「三千ゴル出しましょう。私達の全財産なのでこれ以上出せないのが惜しいですが、このお金があればあなたも満足な装備が買えるはず。いかがでしょうか?」
「おうてめえらお嬢の慈悲に感謝するこったな!」
中腰でガン飛ばしまくるツインテの方はとりあえず無視して、俺はモヒカンの手に握られた現金袋を見る。
俺はアイテム欄に入れた黒イタチのお助けアニマルをつかえば【全裸】スキルは解除できる。しかし金はあの黒ローブにむしり取られてスカンピンだ、街に戻っても靴下一枚買えやしない。
パンツと覆面だけで森を彷徨っている俺を見て唯一の装備がネタ防具しかない哀れなプレイヤーと判断したのだろう。
その施しに対して俺の答えはこうだ。
「やるわけ無いだろバァーカ! 悔しかったら実力行使でとってみな!!」
「な!?」
「てんめえお嬢にどんな口聞いとるんじゃボケェ! コンクリ詰めて魚の餌にすっぞ!!」
俺の挑発に対して目を吊り上げて拳を振り回しがなり立てる金髪ツインテール。怖え~、というか言葉がカタギのそれじゃない。
地団駄を踏んでいる相手を横目にティロをすくい上げ、向こうに聞こえないぐらいの声で囁く。
「ティロ、さっきの話は聞いてたな?」
「は、はい」
「奴らは金でお前を買おうとしているが安心しろ、あんな奴らには渡さねえ。お前は俺が守ってやる」
「ハジさま……!」
「ただ向こうは二人で俺は一人、俺が負けて奴らに捕まった場合、いったんその場は大人しくして隙が生まれたら逃げてくれ。もし奴らが危害を加えようとしたなら全力で逃げろ、とにかく生き残ることだけ考えるんだ」
「はい!」
「奴らをまいたあとはここでまた待っていてくれ、俺は必ず返ってくる」
「わかりました!」
ティロが元気よく返事したのにうなづき返し視線を変える向こうは激昂しているツインテをモヒカンがなだめていてこちらの会話には気づいていないようだ。これで保険は完了、安心して戦える。
俺が相手の誘いを断ってわざと煽ったのには理由がある。
大人しく相手から金もらってティロを渡すのは論外。俺はわざわざ手に入れたスキルスロットを失うし向こうはなんの能力もない白イタチを大金はたいて手に入れることになる。俺の全裸みたいにデメリットスキルの解除が目的なら使えなくもないが、他のお助けアニマルのように使い方を説明するウィンドウが現れないので使い方に気づかないとハズレを引かされたと思うだろう。
そもそも向こうが最後まで大人しく交渉してくれるとも限らない、受け取ったあとてめえの命ももらうぜと言い出してもおかしくないぞあのツインテ。
次に事情を話してティロがお助けアニマルではないことを伝えさっき手に入れたアニマルを引き渡す、一見平和的でベストな判断に見えるが、このゲームのプレイヤーが相手の言う事を大人しく信じるようなピュアな人間か?という疑問が浮かび上がる。
相手の誘いにほいほい乗って全裸ウーパールーパー怪人にされた側としちゃあ「実は本物はこっちなんですだから見逃して♥」と言われれたらダミーか敵の罠を疑う。
そしてお助けアニマルが一人一体までしか持てないというルールがある以上、ティロはお助けアニマルではない=相手のスキルによるもの=存在していると相手にメリットが発生すると判断され真っ先に狙われる可能性がある。俺が一番避けたいのがこれだ。
現状考えられる最悪の事態がティロの消失。今の俺はセーブ済みだしボコられてもセントラルに戻ってしょぼい能力を取られるだけですむがティロはまずい、このゲームのNPCはHPがゼロになると記憶を消失してリスポーンする仕組みになっている。
ティロが最初にリスポーンした場所がわからない以上ティロが消滅したら俺はもう一度探すすべが無い。
だから俺はあえて相手を挑発してやる、ティロをお助けアニマルだと思わせるためだ。
事情はわからんがあの二人はお助けアニマルを随分探し回っていたようだ、ならみすみす殺してふいにするとは考えにくい。
「ほしいもんがあるなら戦って手に入れるのがこのゲームだ。景品はここに置いておくから正々堂々勝って奪いな」
そう言ってこれみよがしにティロを見せびらかし、そのへんの木のうろに座らせる。
昨日プニのおっさんに教えてもらったとおりに操作して腕輪に触れウィンドウを表示し、眼の前の相手二人に手をかざして戦線布告のメッセージを送る。モヒカンは現金袋を握ったまま躊躇していたが、隣のツインテの荒れ果てようと俺の態度で交渉は決裂したと判断したようだ。
「そこまで言うのならしかたありませんわ。銀次郎、行きますよ」
「がってん承知! ■■■!」
承認を押したと同時に銀次郎と呼ばれたツインテールが全身に赤い光をまとい勢いよく走り出す。淡いその光に俺は見覚えがあった、攻撃力上昇のスキルだ。相手の身長はおおよそ小学生程度、俺は腰を落とし下からの攻撃に備えて構える。
「■■■!!」
相手がそう叫んだ瞬間、両足が光り少女の体が姿が消える。俺の身長の倍以上高く跳ね上がった相手の体は逆光に照らされうまく捉えられない。
「死に晒せボケがぁ!!」
可憐な顔から信じられないぐらいの罵声を飛ばし少女の踵が俺の顔面にめり込む、クリーンヒット。鈍い打撃音とともにHPバーが減るが防具の力でクリティカルは回避できており、半分以上は残っている。顔面を地面にめり込ませる直前で踏ん張り上から落下してくるツインテールへカウンターパンチを繰り出す。
「■■■、 ■■■」
ガシッ、と分厚く大きな光る手のひらに遮られ、俺の渾身のパンチはあっさりと止められる。
頭上を仰げば全身に青いオーラを世紀末モヒカンが堂々たる立ち姿でこちらを見下ろしている。
俺の拳を受け止めた手を微動だにせず、その様子に苦笑いする。
プレイヤーは一人二つまでしかスキルを装着できない。これはこのゲームの絶対的条件。
そのルールをかいくぐりスキルの所持数を増やすため俺はティロというNPCと組むことにしたが、もっと手っ取り早いのが他のプレイヤーと手を組むこと。
こっちが二足す一なら向こうは二足す二。
つまり、完全上位互換ってやつだ。