6.ハローごくつぶし
これまでのあらすじ
・ゲーミングパンツは聖人だった。
・ゲームの目的を知るがこのままだと詰み確定
・スキルを取り替えるためお助けアニマルのいる森へレッツゴー
各キャラクタースキル
ハジカミ【全裸】【回復】
「ここか」
眼の前の森を見て俺はそう呟いた。
草原と森を無理やり継ぎ合わせて貼り付けたように不自然なほど寄り集まり身を寄せ合う木々たち。その下に一応入口らしき獣道はあるが木の根や雑草に覆われてか細く頼りない。森の内部を見ようと目を凝らしても幾重にも入り組んだ枝のせいで視界が極端に悪くほとんど見えない。
周囲に目を向けると森の反対側には大きな崖があり下は深そうな川が流れ、上には巨大な鳥が飛んでいる。鳥は上昇気流に乗って旋回しているだけでこちらに近づいてくる様子はなさそうだ。崖と崖の間には石造りの頑丈そうな橋があり、橋の両端に高い監視塔がついていて向こう側の崖には遠目からでもわかるほど大きな街が見えた。街の規模からして向こう側の大きな街があの橋を管理しているようだ。
「さて潜入、の前に回復スキルの確認だな」
宿屋にいたときはプニのおっさんから情報を得るために話しっぱなしでついつい忘れていた。
スキルウィンドウを開いて中身を確認する。
【回復(残り使用回数二回)】
自分の体力を最大値まで回復する
発動条件:スキル名宣言で発動可能
デメリット:一日の使用回数が三回のみ(24:00にリセット)
「クールタイムじゃなくて回数制限タイプか、さっきの下痢で一回使っちまったから残り二回。OKOK」
MP管理ミスってピンチはよくある話だ。黒ローブに身ぐるみ剥がされたせいで装備も回復アイテムも無いので慎重に行こう。
「LV10以上だと捕まえるのが非常に困難になるので他のモンスターとの戦いは避けたほうがいい、ってプニのおっさんも言ってたし、スニーキングミッションでいくか。適当にカモフラージュして、と」
木に絡んでいるツタやそのへんのシダを適当に摘み取りまとめて頭からすっぽりと被る。
バアーンッ!と派手な音を立て草木は爆散しパンツ一丁の俺がひとり取り残された。
「……肌に触れただけでアウトかよ」
絶対に晒し者にしてやるという悪意に満ち溢れすぎだろクソが。
気を取り直して森に入り中を進んでいく、入口で見たときよりも枝が密集して天井が低く、逆に足元の草は陽光を手に入れようと我先に伸び切ってめちゃくちゃ歩きづらい。顔面にぶつかりまくるツタや葉をかき分けていたが、遠くから声が聞こえ立ち止まり振り返る。
「お助け~!!」
真っ白な毛並みのイタチが大声で助けを呼びながらこちらに向かってくる。
その後ろには木の棒を抱えた二匹の黒イタチが追いかける、二匹の眼光と攻撃的な雰囲気からして仲は悪そうだ。
黒イタチの一匹の額が赤く光り白イタチに殴りかかる、間一髪で白イタチは避けることができたが木の幹が派手な音を立て砕け、メリメリと音を上げて倒れていく。白イタチは逃げ出そうとしたがもう片方のイタチに止められ挟み撃ちになりじりじりと距離を詰められている。
(あれがプニのおっさんの言ってたお助けアニマルだよな? 見たかんじ同種っぽいがなんで仲間割れしてんだ? まあいい、暇だったら助けてやってくれと言われてたし寄り道ミッションと行こうか)
身を屈めて一気に駆け抜け白イタチの盾になるように前に躍り出る。後ろを振り向けば白イタチは目を大きく見開いてこちらを見ていた、フフン惚れるなよ?
「ぎゃあああ! モンスターッ!!」
「モンスターはお前じゃい!」
「モ、モンスターが喋った……!?」
「だからお前じゃい!!」
開口一番にド失礼なことを言ってくる白イタチに対して叫び返すと黒イタチが棒切れを振り上げて襲いかかってきた。白いほうに言葉が通じるならこっちも通じるだろうと俺は両手を上げて戦意が無いことを示す。
「やあそこのイタチくんたち喧嘩はよくな……おぶッ! 痛!! ちょ会話中の攻撃はご法度だろ!! 退散!」
俺の言葉を完全に無視して次々繰り出される棒の連撃、みるみるうちに減っていくHPバー、殺気立った相手の目。あ、これこのままだと死ぬやつだ。
「退散!!」
三十六計逃げるに如かず、白イタチを小脇に抱えて俺は一目散に逃げ出した。
(……どうやらうまくまけたようだな)
バランスを崩さないように枝を掴む手に力を入れ、俺は息を潜めて下を覗き込む。
視界が悪く木々に阻まれて満足に走れない俺は森を抜けることを諦め木の上に登りやり過ごすことにした。
地上では黒イタチ二匹が地面を走り回ってあたりの草木をかき分けている。短足のせいで視界が低く、そのせいで木の上にいる俺達に気づいていないらしい。鼻をひくつかせあたりを警戒していたがやがて茂みに隠れて消えていった。
「とりあえず回復しておくか、【回復】っと」
全身を淡い緑色の光が包み体力バーが全開する。これであと一回、
「あ~、助かった~」
緊張の糸が緩んだのか白イタチがだらんと身を投げ出し干した手ぬぐいのようにもたれかかる。俺はそいつの首根っこを掴んで顔に近づけ問いかける。
「ひいっ!」
「で、お前何モン?」
「私の名前はティロです! それ以外わかりません!!」
「お、おう。とりあえずなんでアイツらに追いかけられてたのか教えろ」
「えっとそれはですね……」
白イタチことティロの話をまとめるとこうだ。
野生のお助けアニマルは三匹で一つのチームを作り【攻撃力上昇】【防御力上昇】【回復】のスキルどれか一つを受け持つ。それぞれがアタッカー、タンク、ヒーラーの役割をこなして他のモンスターを狩って生活しているらしい。かまいたちみたいなもんか。
ティロを追いかけていたのは元ティロのチームメンバーだが、ティロがどのスキルも全く使えなかったため(ごくつぶしなこいつ消して新しい奴いれたほうがよくね?)と判断され処されそうになり逃げていたのだという。パーティ追放は王道だけど殺しにかかられたら困るよな。
そう事情を語るティロの額には最初に見たお助けアニマルにあった色のついた宝石はついておらず、ちょうどガシャポンのカプセルの半分だけ埋め込んだように半球状の透明な殻だけがついている。ためしに胴体をむんずと掴んでみてアイテムインベントリを開いてみるがお助けアニマルの名前はなかった。プニのおっさんの説明だと捕まえたらアイテムになるはずなんだが聞いていた話と随分違うな。
「私本当に生きた心地がしなくて……この前虹色の光るパンツ履いた変な人間に追いかけられて怖くて怖くて」
(プニのおっさーん!)
仲間から命を狙われ逃げているときに追加されるゲーミングパンツのマッチョメン。俺も最初見たときはこのゲームの終わりを確信したし気持ちはわからないでもない。
「虹色パンツから逃げてきたのに今度はこんな変な顔の人間に捕まるなんて……」
「これはマスク! 本体はイケメンだから安心しろって!!」
頬を引っ張ってマスクであることを証明しようとしたが余計怯え始めたので逆効果だったらしい、やけになったのか煮るなり焼くなり好きにしろと枝の上に大の字になって腹を出している。イタチって食えるのか?
「仲間に追い出されてこんなことになるなんて……、あいつらに一矢報いたかったです……」
上を向きながらポツリとそう呟くティロの声を聞いていたが、ふとある可能性を思いつき腕を組んで考え込む。スキルの使えないお助けモンスター、チームで行動する本能。半球状の透明な殻。不確かな要素と少なすぎるヒントをつなげてどうにかボロキレ一枚脳裏に編み上げティロへ顔を近づけて問いかける。
「なあ、お前戦う気ある?」
「え、はい。だけどスキル使えないからいつも役に立たなくて……」
「んじゃさ、別れ際に一撃食らわとこうぜ?」
左手の腕輪を見せつけるように差し出し、警戒心を解きほぐすためわざと明るく陽気に笑う。
「俺がアイツラをぎゃふんと言わせる手伝いをしてやるよ。そのかわり、試してほしいことがあるんだ」
確かなことはない、試す方法にも確信はないし予想が外れりゃどうしようもない。
だが俺の予想があたった場合、こいつはあの黒ローブの重要な手がかりになるはずだ。