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5.ゲーミングパンツとQ&A

これまでのあらすじ

・初バトルで勝利だウィン!

・能力交換したら全く違うクソスキルをつけられVR全裸腹下しの危機。

・誰か助けて!と叫ぶと虹色パンツの不審者がやってきた。


各キャラクタースキル

ハジカミ【下痢】【全裸】

「よく眠れたかね」

渋く甘やかな落ち着いた声が古びた木と土の壁の中で響く。

厚手のガラスを通して柔らかな日差しが差し込み、長年の使用で摩耗した机やテーブルクロスを淡く照らしている。

声の人物は飲みかけのカップを手に持ったまま俺をじっと見ている。

使い古された金属のヘルムを被ったその顔は彫りが深く、高い頬骨と深くへこんだ眼窩がコントラストを作っている。

高く真っ直ぐな鼻の下には濃く豊かな口ひげが広がり両端が上向きに跳ね上げられていて、蝶が羽を広げて止まっているようだ。

鍛え上げられた肉体は何も身につけておらず、その下には絶え間なく色を変えつつ燦然と光り輝くブリーフだけが文字通り威光を放っている。

首から上は分厚い哲学書でも書いてそうな顔だが首から下は完全に変質者だった。

そんなゲーミングブリーフと丸テーブルに向かい合う形で俺は座り、机の上に突っ伏して顔を埋めている。


話は半日ぐらい遡る、俺が雨の中ぶっ倒れていた直後のことだ。

昨日(といっても今朝の話だが)ゲーミングブリーフに町に連れられた俺は宿屋でセーブを行い離脱。完全に明るくなった空のなか気絶するように寝て起きたら時刻は夕方過ぎ。

ぼんやりした状態で飯を食い風呂に入り再び二階の自室に戻りいっそ全部なかったことにしてデータを消してリセットも考えたがロッキョクはデータリセット不可能のオートセーブ仕様、キャラクターIDとフリーパスコードが紐づいているため新規登録も不可、仕方なく再ログインして出ていこうと思った矢先声をかけられてこの不審者と席をともにする事になった。


「さて、まずはどこから……」

「その前にトイレ行ってきていいですか」

机に突っ伏したまま腹を押え死にそうな声で俺は答える。

俺にかけられた呪いスキル【下痢】は素早さ低下に一定時間経過でダメージと麻痺と毒を混ぜて割ったようなスキルだった。

さすがにゲーム内で脱糞はしないがトイレにこもっていないと定期的にダメージを食らうのでHPの少ない俺は話を聞いている間に死ぬ。あとNPCの宿屋の女将さんが陰で俺の事「たれぞう」と呼んでいるのを聞いたのでこのままだと社会的定期ダメージを受けて死ぬ。


「そうだな、まずその呪いをどうにかしてからだな」

ゲーミングブリーフはふむ、とうなずきウィンドウを開くと何かを選んでタップする。

「これを使いなさい」

ボワン、という音と煙に包まれて現れたのは一匹のイタチ。

ちょうど腕ぐらいの細さと長さでふわふわの茶色い毛並み包まれ、くりくりとしたつぶらな瞳の上にある狭い額に丸い宝石が埋め込まれ、赤、青、緑の三色がまじりあいキラキラと輝いている。

机に突っ伏している俺の前にイタチはちょろちょろと動き回り鼻をひくひくと動かし臭いをかいでいる。なに、こいつで尻を拭けってこと?

「額の宝石にふれたまえ」

もうろうとする意識の中ゲーミングブリーフのいう通りイタチの額に触ると、ふぉん、と軽い音を立ててイタチの体は光の粒子に代わり三色の光の玉に分離してくるくると回りはじめ、青いウィンドウが現れる。


『交換するスキルを選択してください』

【攻撃力上昇(弱)】

【防御力上昇(弱)】

【回復】


「交換するスキル……、交換できるの!?」

「言っておくが一つしか選べないぞ」

「いや十分十分! とにかく下痢と回復を交換!」

そう叫んで回復を選択すると緑の光がふわりと飛んで腕輪の中に入りこみ、メッセージが表示される。

『スキル【下痢】を【回復】に交換しました』

「回復!」

すかさずスキル名を叫んで発動させると緑色の光が全身を覆い柔らかな日の日差しのような温かさに包まれてHPゲージがもりもり回復するのを感じる。うーん健康ってすばらしい。


「あー、助かった」

「大変だったみたいだな」

「そうっすよ変な奴に能力取られたうえ顔に何か被せられて……そうだ俺の顔!」


ほっとしたのもつかの間俺は勢いよく立ち上がり部屋の壁に掛けられていた大鏡に駆け込む。

目の前に現れたのは彫刻のような美男子ではなく、巨大な白玉団子だった。

重力に従って三角形になった顔の上には適当にペンで書いたような鼻の孔と目。両ほほを横断するように幅広の口が半開きで開いている。

白いもちもちとした幅広の顔の横からは赤いひらひらとした鰓が左右六本突き出てゆらゆらと揺れている。


ウーパールーパー。本来の名をメキシコサラマンダー。

かつてペットで大流行したと思えば数が余り過ぎて唐揚げにされその後モデルにしたゆるキャラがまた大流行するという悲喜こもごもあふれる両生類。

ゴマ粒のようなつぶらな瞳が鏡ごしにこちらを見つめている、こちらが右目でウィンクすると向こうも左目でウィンクし返してくれた。本当にかわいいね俺の顔じゃなかったらな!!


「俺の……ハンサムフェイス……」

「その……なんと声をかければいいのか」

がっくりとうなだれる俺に優しい声をかけるダンディメン、ありがとうあんたの1677万色に光るゲーミングブリーフに比べたらマシだよ元気出たよ。

カイゼル髭をくゆらせてゲーミングブリーフは咳ばらいをし俺に向かって声をかける。

「まずは自己紹介からいこうか、私の名はプニッツェル。君の名は?」

「ハジカミです……。さっきからバタバタしてすいません」

「いやいや気にしないでくれ。ハジカミくんか、まず妖精からこの町のことは聞いているかい?」

「妖精……? あーいたけどつい潰しちゃって」

「なんてことを……、なら最初から話したほうがいいな」

そう言ってゲーミングブリーフは立ち上がると部屋の隅に置いてあったタンスを開け丸められた羊皮紙を持ってきて机の上に広げる。

古びた羊皮紙の中央に「CENTRAL」と書かれた町なみとぽつぽつと書かれたわずかな書き込みがあり、上下左右には北東南西とだけ書かれた空欄が広がっている。地図のはずだが場所を目指すにはまったく役に立ちそうにない。


「ここは中央の町セントラル。君が倒れていたのはこの近くにある始まりの森だ」

そういってゲーミングブリーフは中央の大きな町からすぐ近くの左上にある木のマークを指さす、どうやらこの町は俺が最初にいたところより南西にあるようだ。中央を指示していた指が動き、上下左右の地図の端を指し示す。

「東の果て、西の果て、南の果て、北の果て、天の果て、地の果て。これら各地の果てをまとめて六極と呼び、六極を全て巡ったものにだけ行くことができる世界の果てにたどり着く。それがこのゲームの最終目標になっている」

「ほーん、だから六極って呼ばれてるのか」

「まあ全員が全員世界の果てを目指しているわけではないがな、むしろ欲しい能力のために各地を巡って手に入れたらそれで遊んでいるものが大多数なのが現状だ」

「サブクエにはまりっぱなしなのオープンワールドあるあるですよね」

「別にこの世界は魔王に支配されているわけでもないし、急ぐ理由もないからな。それでだ、各地を巡った冒険者はこのセントラルに戻ってきて準備を整える」

「……つーことは、それぞれの果てに行けるぐらいの上級プレイヤーが初心者がうろうろしているマップのすぐ隣まで帰ってくるんですよね?」

大丈夫このゲーム、ちゃんとテストプレイした?

「一応街中でのPL行為(プレイヤーキル:プレイヤーが別のプレイヤーを倒すこと)にはペナルティがあるがあの森は町の外なのでたまに悪質な輩がくるんだ。なので定期的にパトロールして倒れているものがいないか探している」

「プレイヤーの自治だけでなんとかしようとするの運営としてどうかしてるぜ」

「一応開始直後は同ステータス帯のプレイヤーにしかエンカウントしないようになっているはずなんだが、まあ運が悪かったと思ってくれ」

「へいへい」

椅子に深く腰を下ろして毒づくが出会ってしまったものはどうしようもないしなっちまったもんはどうしようもない、ガチャ石盆に返らずだ。気を取り直して俺は自分の頭につけられた装備を確認する。


【呪われしサラマンダーの仮面(幼体)】

装備部位:頭。この防具はスキルによる装備不可を無視して装備できる。

この防具は外すことはできず、スキルによる破壊効果の対象にならない。

頭部へのクリティカル率低減+頭部への炎ダメージ軽減。

冷気ダメージ増加+低温環境で全ステータス低下+永続的なダメージ。

NPCの好感度に補正有り

水中でも呼吸が可能になる。


う~んこの呪われっぷり、絶対に外させないという鉄の意志を感じる!

マスクは首元まで覆う形になっていて首周りはダブついており、中に手を突っ込むと首に触ることはできるがそこから上は顎のラインに沿ってぴったりと顔にくっついて指先すら入らない。

どうやら顔の情報自体書き換えられているらしい。マスクを引っ張っても白い皮膚が伸びるだけで隙間から肌が見えることもなく、口を大きく開ければその通りに動き巨大な舌がべろりと出てきた。一か八かで近くに置いてあったナイフでマスクを切ろうと試したが刃先が刺さらず失敗に終わる。

ナイフをテーブルに放り投げて俺は深くため息を付いて背もたれに全身を倒して天井を見上げ、さっき聞いた話を反芻する。


情報を整理しよう。

このゲームの目的は世界各地を巡って最終地である世界の果てを目指すことだ。

モンスターを倒して手に入れる、プレイヤー同士でのバトルや交換などこのゲームの肝はスキルの交換だ。

ファンタジーRPGのお約束として各地に色々なフィールドやモンスターがいて、そいつらを能力を取り替えつつ攻略するのがこのゲームの基本システムなのだろう。


しかしそこで牙を剥くのが俺につけられた仮面だ。

この仮面、非常に不本意ではあるが防具としてなかなか優秀ではある。

ヘッドショット対策もできるし炎耐性や水中での呼吸が可能なのも行ける場所の幅が広がりそうだ。

だがその代償として氷や低温など寒い環境になるとステータスが下がりダメージが入る、早い話が寒いと死ぬってこと。


R社は日本の会社で六極も当然日本のプレイヤーを前提に作られている、JRPGで北の果てを目指そう!となったときポカポカ陽気な花咲き乱れる楽園を作るやつはいない。

まず極寒の雪景色が待ち構えている。氷を使ったギミックでダンジョンを制覇しよう!とかそういうのだ。雪が降り積もった山とか乗り越えるんだろ知ってるんだぜそういうの。

つまりこの呪われしプリティ白玉フェイスを解かない限り、俺はゲームをクリアすることは不可能となっている。


むちむち白玉フェイスと両頬に生えたエラをつまみつつ、思考を巡らせる。俺が北の果てを目指すとき取れる手は二つだ。

・黒ローブを探して呪いの出所を聞き、呪いを解除する。

・耐寒防具かスキルを手に入れて無理やり北を制覇する。

前者に関しては黒ローブがどこに行ったのか全くわからないうえ中身の姿を全然見れなかったので捜索不能で完全手詰まり。

後者に関しては俺が身につけているスキル【全裸】を解かないと防具を手に入れても身につけられず手詰まり。

まいったな、と再びクソデカため息をつくがさっきの変な生き物のことを思い出し、ゲーミングブリーフに問いかける。


「そういえばさっきのイタチみたいな生き物ってなんなんですか?」

「あれはお助けアニマルだな」

「お助けアニマル?」

「このセントラル周辺にしか現れない生き物で、捕まえたプレイヤーは三つのスキルのうちどれか一つを交換することができる。一度捕まえれば自由なタイミングで交換でき、アイテムとして他の人間に譲渡も可能だが持ち歩けるのは一体までとなっている」

「俺みたいに消去不可の変なスキルつけられたときの救済措置ってやつか」

「ちなみにさっきの消滅については心配しなくていい。この世界のモンスターは倒すと一定時間経過後記憶を失って元の場所にリスポーンする仕組みになっているんだ、死にはしない」

「ボスキャラが自分の死因覚えて勝手に対策した結果クソモンスでリスポーンとか勘弁してって感じですからね」

肩をすくめて皮肉げに笑う俺にゲーミングブリーフは落ち着いた声で返す。


「ほかに何か疑問はあるかい?」

「はい質問。俺が戦った相手は爆発とワープの能力を使っていたはずが、交換のとき全く違う能力を押し付けられてこうなったんですよ。能力を二つ以上持てる方法ってあるんですか?」

「いや、各プレイヤーのスロットは二つで固定のはずだ。敗北時あらかじめ指定したスキルだけ差し出すアイテムは存在するが、全く別のスキルを渡すアイテムは聞いたことないな」

妙だな、と眉間のシワを深めてゲーミングブリーフは訝しげな顔をしている。初心者の手助けができるぐらいベテランプレイヤーが聞いたこと無いってことはなにかありそうだ、ひょっとしたらあの黒ローブの手がかりになるかもしれない。

そう考えながら俺は右手を上げ再び質問する。


「セントラル周辺って言ってたけど、他に出現するポイントってあるんですか?」

「ああ、ここをまっすぐ東に行くと見習いの森という森がある。向かい側に東の町イーストンにつながる橋と深い崖があるから遠くでもわかるはずだ」

「ほうほう」

「他には?」

「じゃあ最後に一つ、疑問つーかゲームとは全く関係ないことだけど、あんたさっきからみょーに親切だよな? NPCだったらわかるけどあんたもプレイヤーなんだろ? ありがたいけどそこが疑問というか……」

「ふむ、それは簡単な話だ。私はこのゲームのファンだからだよ」

俺の質問に少し驚いたようにゲーミングブリーフは目を見開き、腕を組んで見据える。

「君も一通りこの世界に入ってみてわかっただろうが、この世界ではスキルの交換が大きなカギになる。ペナルティがないので能力を偽って交換させるものはそれこそ数多くいるがそのものたちによってプレイヤー全員が疑心暗鬼になったらゲームはどうなる?」

「……だまされるかもしれないから誰も交換しなくなる」


いくらゲームの中とはいえ何度も騙されたらいい気分にはならない。

だから信頼できる相手とだけ交換する、となるとおのずと交換相手はある程度連絡を取り合える身内同士になるが、そいつら同士でもいつ裏切るかわかったもんじゃないから自然と派閥ができてややこしくなったあげくほんのちょっとの刺激で爆発四散して焼け野原の出来上がり。

いやー中学時代そんな内ゲバに巻き込まれたことあるがあれはきついぜ、思い出したくねえ過去の記憶ベストスリーは固い。

もう一つの交換方法としてモンスターを倒してドロップスキルを手に入れる方法もあるが、このゲームはレベルアップによる恩恵が薄いので戦闘が得意なやつだけが強くなり初心者は雑魚スキルのままでこっちはこっちで自然と先細りするうえモンスターの攻略方法を巡って情報戦が始まり爆発四散する。

どんなにゲームシステムが面白くても人間環境悪けりゃ人は出ていくしサービスは終わる。それを防ぐためと考えると確かに理屈は通る。


「別に聖人君子たれと言っているわけじゃない。悪い奴もいれば特に意味もなく親切な奴もいる、それぐらいの塩梅にするのがこのゲームを面白くする道だと私はそう思っている」

「なるほど」

「この世界を巡るうちにあなたはさまざまな人やスキルに出会うでしょう、どうかそれを楽しんでください。チュートリアルで妖精が最後に告げる言葉だ」

へえ、あの妖精結構いいこと言ってたんだな、なんかガガンボみたいに潰しちゃったけど。


「いろいろ教えてくれてありがとな、さっそく行ってみる」

とにかく情報は集まった、俺が最初にやることは東に行ってお助けアニマルとやらを捕まえ適当なスキルと【全裸】を交換。善は急げ、俺は椅子から立ち上がりプニのおっさんに礼を言う。

「ああ、あとお助けアニマルは低レベルのプレイヤーには簡単に姿を見せるがレベルが上がるにつれ警戒して近づかなくなってくる、特にLV10以上だと捕まえるのが非常に困難になるので他のモンスターとの戦いは避けたほうがいい」

「でもさっき一匹捕まえてなかったっけ?」

「あれは私が自分の呪いを解くため数日がかりで追いかけ捕まえたものだ」

「そうだったのか……、大変お世話になりました! ありがとうございます!!」

「私に礼なんぞいらんよ、それよりもし途中で困っている人間がいたら多少寄り道してでも助けてやってくれ。無駄足こそこのゲームの醍醐味だよ」

ど聖人だなこの人、ゲーミングブリーフも神々しく見えてきたぞ。


「よし待ってろお助けアニマル!」

勢いよくそう叫んでドアを開けると、ちょうどドアの前にいた宿屋の主人とバッタリ出くわし奇声を発してぶっ倒れた。

俺は無言のままドアを閉じてプニのおっさんに向き直る。

「この宿裏口とかありません? このままパンイチのウーパールーパーで歩き回ってたら討伐されそうなんで」

「……そこの通路を右に曲がったところにある」


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