3.レッツゴーバトル
これまでのあらすじ
・妖精しばいてスキルゲット
・雑魚狩りでレベリング中にスキルゲット
・謎の黒ローブが現れバトルスタート
キャラクタースキル
ハジカミ:【全能力上昇(弱)】【粘液】
黒ローブ:【???】【???】
「出し惜しみはしねえ! 【全能力上昇(弱)】!」
全身を淡い紫色の光が包み赤い半透明のタイマーが三十秒のカウントダウンを始める。周りの空気がピンと張り詰めたものになり逆に体は燃料を入れられたように微熱が走る。
「まずは怪しげなその手から!」
俺が黒ローブに手を伸ばすとするりと身をかわしバックステップ。前のめりになった俺の肩を左の掌で掴む。
(反対も使えるのか!?)
「■■■」
「ぐあっ!」
ノイズが強烈に混じった声で相手は叫び、同時に掌に閃光が走り爆発する。
(爆破能力か!)
「■■■」
焦げた臭いとカイロを押し当てられたような熱と衝撃におもわずバランスを崩し相手の手を放してしまう。宙に浮いた手が素早く動き俺の腹部に充てられ再度の爆発。ニヒット。
「こんにゃろ!」
よろける体を強く踏みしめた足で強引にバランスを取り体制を立て直す、相手の攻撃力が低いのか衝撃に比べてゲージの減りは少ない。体幹を起こして弓を絞るように右手を後方に引き力を一点に込める。
「■■■」
そのまま殴りかかって相手の顔面に拳を食らわせる、はずだったのに握った拳は虚空を舞い空振りした。
黒ローブはそのまま数歩引き下がり俺から距離を取って佇んでいる。
三十秒のタイマーが終わりクールタイムを知らせ全身の光が消え熱が冷める。火照った体に空気を入れごく短い三十秒の戦いを脳内で繰り返し推測を始める。
相手の声にかかったノイズ音、これはおそらくゲームの仕様だ。
技名聞いただけで能力がわかると興ざめになるのでお互いの技がわからないようマスキングがされているのだろう。
俺は相手の能力がわからないが相手も同じ、相手から見れば俺が謎の能力を発動させて襲いかかったようにみえたので、やつはまず俺の攻撃を喰らわないことを優先してすぐに引いた。能力が切れた俺が立ち止まっていても攻撃してこないのがその証拠だ。
(もう少し戦って様子を見たほうがいいな)
【全能力上昇(弱)】のクールタイムの残り時間を確認しながら俺はそう結論付けた。
その後も俺が相手につかみかかろうとすると相手がするりと逃げてカウンター、という流れになり俺の体力は半分以下まで削られていた。
俺たちが動き回ったせいで周りの草は折れ曲がり、幼稚園児の書いたミステリーサークルのようにいびつな線を作っている。しかし黒ローブの姿はそこから一歩離れた位置に立っている。
俺の歩いた後は一筆書きになっているのに対して黒ローブは複数の途切れた線を描いているのだ。
(爆破ともう片方は……ワープ、か)
相手の攻撃に備えながら俺は静かに推測を続ける。
爆破スキルは至ってシンプル、一度の発動につき両手に爆弾をセット。相手の体に手のひらを押し付けたら起動して爆破。クールタイムが極端に短いので一度攻撃を食らってよろけたところを連続で食らうと厄介なことになる。
しかし派手な爆風や煙と威力が釣り合っていないところをみると攻撃力依存であり、お相手さんは素早さが高い代わりに攻撃力が低いみたいだ。
そしてもう一つの能力、こっちをワープと判断したのはやつの足跡に理由がある。
俺の攻撃を回避するときもし高速で移動したなら足は地面についており、やつの移動先から続く折れ曲がった草の跡ができるはず。そうではないということはジャンプしてかわした、もしくはワープしたかのどちらかだ。ジャンプなら宙に浮いた姿が見えるか低く飛んだとしても足元の草が強く踏み抜かれて下の地面が見えてもおかしくない、が見たところ他の部分とそう変わりはない。なら消去法でワープになる。
眼の前の黒ローブの姿を見据える、風化したカーテンのようなボロ布にはちぎれた草の葉がところどころにこびりついている。ということは相手の体にくっついている物も一緒にワープするみたいだ。まあそうじゃないとワープした瞬間全裸になるしそれぐらいの配慮はいるか。
黒ローブの動いた跡を見る限りワープできる距離は一メートル以内、爆発と違って連続で使わないところを見るとクールタイムがそこそこ必要のようだ。
(爆破とワープでヒットアンドアウェイを狙う戦法。逆に考えれば相手は攻撃するために俺に近づく必要があり、能力の発動条件が俺と同じスキル名の宣言ならタイミングはわかる)
荒くなった息を落ち着かせていると腕輪に収められた【全能力上昇(弱)】の玉が点灯しクールタイムの終了を知らせる。
(爆発は衝撃はあるが威力は低い、【全能力上昇(弱)】で防御上げれば何発か食らっても耐えられる、持久戦に持ち込むか? いやいやこっちの攻撃が当たらねえんだから普通にジリ貧だろ)
額にかいた汗をぬぐうとポツリ、と冷たい雫が掌についた。空には暗雲が立ち込めゴロゴロと地響きがなっている。
「雨? そういやずっと曇ってたな。こんなところまで作りこんでるのかよロッキョク」
「チッ」
(チッ?)
相手の口から聞こえてきたわずかな舌打ちを俺は聞き逃さなかった、俺と同様に空を見上げている黒ローブに俺は声をかける。
「ずいぶん空模様が気になるようで」
「はっ、あいにく傘持ってくるの忘れちゃってさ! ■■■!」
黒ローブはそう叫ぶと一気に俺との距離を詰め腹に両手をあてる。
「■■■!」
激しい爆風が巻き起こり衝撃とともに俺の体が背後にのけぞり、すかさず相手の手が伸び爆破の連鎖。HPゲージが三分の一まで減少する。防御上げないとさすがに攻撃が痛いが、今はスキルを温存しておくべきだ。
体をひねってかわして連鎖を止める。相手の両手に注目して連撃を避けつつ思考を走らせる。
さっきまでワープはカウンターを避けるために使っていたのにいきなり距離を詰めるために使った。俺の体力が低くてとどめを刺そうとしている? ノンノンそんなんじゃねえ、こいつは勝負を焦ってる。
つかず離れずのまま避けることに集中し相手の爆撃を空振りさせてこっちが防御に徹していると思わせる。当たりそうで当たらない攻撃に向こうが苛立ちはじめ攻撃が乱雑なものになっていく。
そろそろ相手のワープが使える時間だ。そう判断して俺はくるりと背を翻し、明後日の方向に走り出す。
「勝てねえバトルは逃げるが勝ちよ!」
「逃がすか! ■■■!!」
あえて遅い速度で駆け出した俺に対して黒ローブが後を追い、逃げ出した方向へ先回りするようにワープが使われ黒い影が俺の眼の前に現れ向かい合う。OK、ここまでは期待通り、ズボンのポケットに手を入れ中の物を握りしめる。
「ワープだろうがどこに来るかわかれば問題ねえ! くらえ妖精の粉アタック!」
ポケットに入れていた妖精(故)をつかんで目の前に振りまく、細かくて軽い粉はさらさらと舞い上がり広範囲に広がり、黒ローブの全身にまとわりつく。
「ぐえっ! ゲホっなにこれ……!」
妖精(故)を吸い込んだのか黒ローブが咳き込み舞い散る粉を腕を振って払おうとする。その隙を逃さず宙を舞う相手の両手の平を自分の掌と合わせ強く握りしめる。両手を使っての恋人繋ぎだ、甘い雰囲気はかけらもないけど。
「ハア~イ、イケメンとの握手会一名様ご案内~♥」
「なっ!」
「【粘液】!」
俺がスキルを叫ぶと手のひらと指からじっとりとしたぬるつく液が滲み出てくる。う~ん粘液が体温で生暖かくて嫌に不愉快。
けど俺以上に相手のほうがショックがデカかったようだ、ほとんどパニック状態で叫んで手を振り払おうとするが濡れた手からは先程の爆発は起こらずうんともすんとも言わない。
小雨が降り始めて空の下、俺は両手を握りあったまま相手に顔を近づけ煽るように話しかける。
「火薬は湿り気に弱いもんなあ? それにこれならワープはできねえ!」
「いやあんたも攻撃できないだろ!?」
「ところがどっこい武器はあるのよ、【全能力上昇(弱)】」
俺の宣言とともに紫色の光が全身を包みこむ、背筋を伸ばして深く息を吸い、意識を集中させる。
「ビューティフル・マインドアタック!!」
ビューティフル・マインドアタック。
相手の顔面に自分の額をぶつける必殺技、いわゆる頭突きってやつだ。