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20.そして我々はアマゾンの奥地に向かった

これまでのあらすじ

・繚乱の花園で蜘蛛探しをするハジカミたち

・専門家チームにこき使われながら草むしりスタート

・足元の種が爆発! 吹っ飛ぶハジカミ


ハジカミ:【伸びる舌】【なし】

ティロ:【なし】


ごく一瞬の間に視界の風景が過ぎ去り、深い谷底へ落ちていく。

太陽の光は遠く限られた線となり、湿った空気が身を包む。落下する先には細い川が流れていた。水深は浅く、茶色く濁った水の下からでもゴツゴツとした岩がいくつも潜んでいる。

「ぶつかる!」

「モード・バトル!【節制(ザ・テンパランス)】!」

アルケミオの声と共に川の水が巨大な水流として巻き上がり、俺たちを包み込む。

泥混じりの不透明な水によって視界が濁り、くぐもった音と共に衝撃が広がる。

「ぶはっ!」

口に入った水を吐き出してフラフラとした足取りで立ち上がる。川の深さは膝と足首の中間ぐらいだが流れもあるのですぐに出たほうがいいだろう、俺は藻でヌルつく岩に足を滑らせそうになりながら川岸に辿り着き、乾いた石の上で大の字になる。


「死ぬかと思ったー、助かったぜアルケミオ」

「うん……、みんなの姿が見当たらない……僕たちはぐれたのかな?」

「つーかなんだったんださっきの!? 蜘蛛の攻撃か?」

「いや、あんな芸当のできる蜘蛛はおらんでござる」

「ありゃ花の種だねー」


声に振り返ってみると先ほどリードたち専門家会議をしていた忍者と文字通り華やかな格好をしたギャルの二人が川に上がって濡れた髪や服の水を払っていた。

ギャルの一人が落ちていたカバンを拾い、中を開いて不機嫌そうな顔で調べている。


「あー、もう最悪! せっかく押し花作ってたのに台無しじゃん!」

「えーっと、そこの原色キラキラな人……」

「コチョウって呼んで、あんたもさっきハジカミですって言ってたんだから人の名前ぐらいちゃんと覚えなって」

頬を膨らまして叱りつけるギャル(髪、服、ネイル化粧総ラメ入り)に俺は大人しく謝る。リードたちとチーム組んでからほぼ一人で特訓してたからこいつらの名前知らねえんだよな。


「あ、はいすんません。コチョウサン、花の種ってのはどういうことで……」

「ホウセンカぐらいは学校で習ったしょ? 触ったら破裂する実をつける花、あれは自分の種を遠くに飛ばすためにやってるの。けどさすがに人間吹き飛ばすのはゲームとはいえやりすぎ〜!」

コチョウはケラケラと笑うと岸辺にしゃがみ込み、石の隙間にハマり込んだ丸い種子をかき集める。手のひら大に集められた種子の一つを親指と人差し指で潰すとパキリ、と音がして黄色く透明な油が一雫流れる。


「見て、中に油がたっぷり入ってるっしょ? 油って水に浮くじゃん、川に落ちても沈まずにゆっくり流れていってその辺の地面にたどり着けるんだよねー。さっきの花畑には蝶や蜂なんかの花粉を運んでくれる虫はいたけど種を遠くに運んでくれる鳥や動物がいなかったからどうやって生息範囲広げてるのかマジ謎だったけど納得したわ」

カバンの中に入っていた瓶を取り出し、コチョウはかき集めた種をざらざらと入れていく。小ぶりな瓶にBB弾程度の種が半分以上入ったがまだ足りないらしく、再びしゃがみ込んで流れ着いた種を探し始める。

水に浮かんだ種をつまみつつ、コチョウが眉間に皺を寄せ崖によって遠く狭くなった空を見上げる。


「しかし困ったなー、リードっちらとはぐれちゃって私らどうやって戻んのよ?」

「心配するなコチョウ殿、拙者がいるでござる」

「あ、クモっちがいるならヘーキか!」

わいわいと身内ノリで盛り上がる二人に対し俺は片手をあげて尋ねてみる。


「あのー、コチョウさんと……クモっちさん?」

「ハジカミ殿、拙者の名は土蜘蛛でござる。それにリード殿のチームでは敬語は禁止でござるよ」

「あ、はい。(ござるは敬語じゃないのか……?)土蜘蛛、コチョウ。あんたら二人は専門家として安全地帯で待ってただろ? なんで俺らと一緒に吹き飛ばされてんだ?」

「それはその……専門家のサガというやつで〜、ブチブチちぎられてるお花もったいないなと拾ってたらハジっちがなんか珍しいの見つけたっぽいからさー……」

「蜘蛛の専門家の端くれとして新発見には馳せ参じるのが義務でござる」

(アマゾンの奥地にいく研究者か……?)


目を細めて二人をみる俺の後ろで服を乾かしていたアルケミオがそっと手をあげ、二人に話しかける。

「土蜘蛛……くん、さっきリードくんたちとはぐれても大丈夫と言っていたけどそれはどうして? ここは谷底で登れるところはないよ?」

「確かになあ」


アルケミオに相槌を打ちながら首を傾け周囲の光景へ目を向ける。

両脇にそそりたつ高い崖がほぼ垂直にたち並び、巨大な障壁となっている。自身を支えるための礎になる柔らかい地面がないせいか、生えている草も苔や藻などの小さなもので足がかりとして使えない。イーストンのように舌を伸ばして登ることも難しそうだ。

真上を崖の一番上からはさっき見えた花の姿がケシ粒サイズの小さな色の点となってゆらゆらと揺れていたが、それは地上から見た星と同じぐらい手の届かないものだった。


「心配無用、【土蜘蛛】発動」

土蜘蛛が左手首に付けられた銀の腕輪をなぞると土蜘蛛の両手に巨大な黒い爪が装着される。ショベルカーのように指を揃えて軽く曲げ、土蜘蛛は誇らしげに自分の両手を見せつける。

「拙者のスキル【土蜘蛛】はどんなに固い地面でもやすやすと掘り起こす力でござる」

「お花植えるのにすっごい便利だよ!」

「いる? その情報?」

「この崖を垂直に登るのは確かに難しい、しかし穴を掘って斜めに登っていけば簡単に戻れるでござる」

「クモっちー、さっさとトンネル作って帰ろー!」

「うむ、土がはねるから皆避難してくれ」

「へいへーい」


土蜘蛛のいう通り俺たちは少し離れたところに立ち、見守ることにする。

「むん!」

黒い爪が崖の壁に深々と刺さった瞬間、突然地面が激しく揺れる。上空から小石がボロボロと落下し川へと落下して派手な水飛沫を上げ始める。

足元の地面が大きく盛り上がり、なんとか足を踏ん張ってバランスをとる。

「地震!?」

「なんでいきなり!?」

「【女教皇(ハイ・プリーステス)】!」

懐からカードを取り出したアルケミオの顔から一気に血の気がなくなり、大きな声で叫ぶ。

「下からなにかきてる!」

その警告は意味をなさなかった。アルケミオがその言葉を言い切る前に地面から亀裂が走り、五メートルをゆうに超える巨大な蜘蛛が俺たちの目の前に飛び出してきたからだった。


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