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2/22

2.ようこそVR世界へ

これまでのあらすじ

・ガチャで親の金使って一年間の小遣い抜き!

・VRゲームゲットで一年間やり過ごすことにする

・イケメンアバターでVRの世界へレッツゴー

「うわお」

光が収まり現れた世界に俺はもう一度驚きの声をあげた。

気が付けば俺は腰ほどもある草原にただ一人立っていた。風がそよぎさらさらとさざめいていて髪をなでる。

一面緑の地平線でできており、遠くではまばらな木がぽつぽつと生えている。

どうやら現実世界と季節は同じらしい、身に着けている衣服は簡素だが肌寒さは感じない。

薄い布の靴ごしに岩と草がそれぞれ別の硬さで凹凸を伝えてくる。

空は灰色に曇り、肌に触れる湿った空気とうっすら香ってくるペトリコールがもうすぐ雨が降ってくることを予期させた。

さっきの空間が誰もいない映画館やだだっ広い引越し前の部屋だとしたら、これは屋外そのものだ。


「匂いや感触もあるとは聞いていたけどやべえな、マジモンの現実世界じゃん」


感心してあたりを見回していた俺の眼の前にキラキラと光る粒子の塊がいきなり浮かび上がり、クラッカーのような軽い破裂音と主に小さめの花火があがり朗らかな声が響く。

「Rouge Kick Yokeの世界へようこそ! 私は妖精のパックです!」

すらりと伸びた手足と大きい頭部は確かに人間のものだが大きさは掌サイズと極端に小さい。

細い肢体はうっすら緑色に光り輝いており、背中から透き通った蝶の羽が伸びている。

妖精はにこにこと人懐っこい笑みを浮かべて俺の顔を見つめていたが、金縛りにあったように顔がこわばり目を見開く。

「あなたは……お」

「チェスト―ッ!!」


その一瞬のスキを見逃すことなく、俺は妖精を仕留めた。

蚊をつぶすときのように両手でこう、パンと。

なんでそうしたかって? 深夜テンションですハイ。


「おおすっげ体の動きもラグなし! さっすが現代のオーパーツ!!」

手のひらを合わせたまま俺は飛び跳ねまくって地団駄を踏み地面が固く跳ね返る感触を味わう。

ポヒュウ、と気の抜けた音と共に手から煙が立ち上る。両手を開けてみると妖精の姿はなく、掌の上にはきらきらと光る砂の山がありその中から紫色のビー玉のようなものがこぼれ出ている。

「なんだこりゃ」

調合素材っぽい砂のほうは適当にポケットに入れ、ビー玉をつまんで光に透かすと目の前にウィンドウが現れる。


【全能力上昇(弱)】

三十秒間全ステータスアップ(10%)

発動条件:スキル名宣言で発動可能

デメリット:使用後三分間のクールタイム発生


「ほーん、こいつが例のスキルってやつか。スキルの装備は……多分これだな」

自分の体を見回すと『スキルスロット:残り二』と小さなウインドウが現れ、左腕の手首につけられた腕輪が鈍く光る。

銀でできたシンプルな細身の腕輪だが、手の甲側に二つ丸い穴が開いている。大きさもちょうどビー玉サイズなのでこれをはめ込んだらスキル装備ということだろう。

予想通り腕輪の穴とビー玉はぴったりとはまりこみ、ビー玉の中心が淡く光り始めた。『スキルスロット:残り一』と小さなウインドウと表示され消える、スキル装填完了のようだ。

「全能力アップってのは強そうだけど弱ってついてるし、進化するか上位互換が別にあるってことかな。まあ手に入ったんだしいいか、なにはともあれ」

頭をかくふりをしながらこっそりと背後を盗み見て、草むらが数カ所不自然に揺れているのを確認する。首筋にチリチリと敵意を込めた視線が集まっているのを感じつつ、腕輪に装備したスキルを親指でなぞり発動させる。

背後の草むらから小鬼が奇声をあげて石斧を振りかぶった瞬間、俺は振り返って素早く身をかわしてにやりと笑う。

「お試しプレイと行きますか」



一時間後。

「飽きたな」

屍たちの山がボンボンと間抜けな音を立てて消えていくのを背後にして、俺は手に入った経験値を確認しつつ、一人つぶやく。

雑魚を狩り続けているうちにわかったが、このゲーム、グラフィックはすごいがゲーム性が微妙だ。

クソゲーというわけではないが所々で微妙すぎる、以下問題点をあげてみよう。


・一度に持てるスキルは二つまで

モンスターを倒すとスキルをドロップする、そして取り換えるかそのままにするか一分間の猶予が与えられ、そのまま放って置くとドロップしたスキルは消滅する。

一度装備したスキルを外して放置すると同じく消滅したので持ち歩けるのは腕輪につけた能力のみのようだ。

複数持ち歩きが可能だと長い時間遊んで能力ストックしている奴が有利になるのでバランス調整としてそうなっているのだろう。そして同じ能力を二つ装備することはできない、これは次の仕様から判断できる。


・モンスターを倒すとスキルをドロップするが、同じ能力はドロップしない。

具体的に言うと俺が出会ったモンスターはゴブリン【攻撃力上昇(弱)】、キャラピラー【防御力上昇(弱)】、スライム【粘液】の三種類だが、一度ゴブリンを倒して【攻撃力上昇(弱)】を装備するとその後はいくらゴブリンを倒してもスキルはドロップせず、【攻撃力上昇(弱)】を捨てるとまたドロップする、といった形だ。

スキルの他に経験値と多少の通貨ゴルを落とすので完全に無意味にはならないのは救いか。

この二つはゲームの仕様と考えれば納得できる、次が問題だ。


・レベル上げの恩恵が少ない

ゲーム開始時の俺のステータスがこれ。

ハジカミ:LV1

体力:10

攻撃力:10

防御力:10

素早さ:10

スキル:【なし】【なし】


そして現在の俺のステータスがこれ。

ハジカミ:LV9

体力:18

攻撃力:18

防御力:18

素早さ:18

スキル:【全能力上昇(弱)】【粘液】


おわかりいただけただろうか。

このゲームはステータス項目が少なく、体力、攻撃力、防御力、素早さ、の四種類のみとなっている。ファンタジーRPGなんだから魔法に関係するステータスがあるだろうと思ったが完全にスキル依存のようだ。

レベルアップしても全てのステータスが1ずつしか上がらず、スキルツリーやスキルレベルという概念もない。おまけに一定以上のレベルになるとモンスターが逃げ出す仕様になっているのでいわゆる「最初の町でスライム倒してLV100」戦法がとれない。

現在LV9でキリのいいところまでレベリングしたいが逃げ回るゴブリンやスライムを追い回すのはかなりめんどくさい。あいつら俺の顔見た瞬間に川に飛び込んだぞ、モンスターが自決するな。


・能力は同時に発動できるが、ステータスアップスキルは重複しない

これによって【攻撃力上昇(弱)】【防御力上昇(弱)】は完全に死にスキルとなった。【全能力上昇(弱)】で攻撃も防御も上がっているから重複分が消えて無意味になるのだ。

仕方ないのでさっき倒したスライムの【粘液】を装備してみたがこれは常時手からぬるっとした液体が染み出るだけのハズレスキルなので即変える予定。手汗がビチョビチョになるだけとか何に使うんだよ。

そしてこのゲーム最大の問題。


・俺がイケメンすぎる。

っかあ~、困るねえイケメンすぎて困っちゃう!

ゴブリンだろうとスライムだろうと俺のハンサムフェイスを見ると一瞬スタンするのでその間に【全能力上昇(弱)】を使ってぶん殴ればノーダメージで一撃粉砕できるヌルゲーと化してるのだ。

戦法もへったくれもない、イケメンを駆使して物理で殴ればいい。イケメンは力、イケメンイズパワー。これがただしイケメンに限る世界、イケメンにだけ限られた理想郷。

美しさは罪、という言葉を深くかみしめつつ、一方的な蹂躙に退屈さを感じつつあるのも事実。


「まいったな、いくらこの作品のタイトルが『ガチャで大爆死した俺、チートスキル【イケメンすぎて強制スタン】で無双し美少女ハーレム』だからといって飽きてきたし、とりあえず町でも探すか」

そう考えていた俺だったが突如背後から殺気を感じ、身をかがめて振り返る。

上を向くと空から真っ黒なローブを着た人間がこちらへとびかかってくるのが見えた、ローブの端から見える右手からは火花が散りそれがこちらの顔面へ襲い掛かる。


「おぶっ!」

「おっスタンした」

……前に相手は振りかぶった姿勢のまま硬直し地面にたたきつけられた、一瞬のことだったので俺はローブの中の顔を見ることはできなかったが相手は違うようだ。絶世の美男子(俺)を見てたじたじになっているようで黒いローブがもごもごと動いている。

「お、お兄さんかっこいいね……」

「わっか~る美しさって罪だよねほんと」

地面に派手なキスをした相手はスタンから回復しよたよたと立ち上がる。

ボロボロの真っ黒いローブで手首以外の全身を覆っていて顔はわからないが声は高く、身長は俺の胸元より下とかなり小柄なので女?みたいだ。まあこのゲームって異性アバターとボイチェンあるから現実はどうなっているか知らないけど。


「んじゃさ、挨拶代わりにバトルしない?」

黒ローブはそう言って手をかざすと、俺の目の前にウィンドウが現れる。

『トレードバトルを挑まれました、対戦しますか?』


「トレードバトル?」

「お互いの能力と手持ちのお金の両方を賭けて戦うの、相手の体力を0にするかギブアップさせれば自分の勝ち。勝ったほうは負けたほうの能力を一個選んで取り換えることができるしついでに所持金ゲットのチャンス。ドーユーアンダスタン?」

「イエスアイドゥー」

なるほど、モンスターを倒す代わりにプレイヤーと戦って能力を手に入れることもできるのか。さっきの闇討ちに失敗したから今度は正々堂々戦って奪うつもりだな。

「いいぜ、ナンパは大歓迎」

俺はためらうことなく「はい」を選択する。NPCモンスター相手は飽きてきたところだしちょうどいい、バトルスタートといこうじゃないか。


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