16.お酒は二十歳になってから
これまでのあらすじ
・暴走男をハッタリで倒して勝利!
・リードと名乗るチャラ男とその他大勢がやってくる。
・飲みに行かね?と連行される
各キャラクタースキル
ハジカミ:【伸びる舌】【なし】
ティロ:【なし】
アルケミオ:【???】【???】
リード:【???】【???】
「黄金郷……イーストン支店?」
「ネーミングセンスがチェーン店じゃねえか」
「細かいことは言いっこなし! まずは入って入って!」
俺たちの疑問の声もどこ吹く風。リードは俺ら二人の背中を押し強引に前に進ませる。
リードたちの仲間によってドアノブが開かれ、まばゆい光が目の前に広がる。
「うるせーっ!!」
なかに一歩足を踏み入れた瞬間、俺は反射的にそう叫んだ。
外装と比べて中が異様に広かったが、そんなことはどうでもいい。
天井にはケーブルに吊り下げられたミラーボールがぐるぐる回ってランダムな光で辺りを照らす。
クソでかい液晶テレビでは全身ラメ衣装の男女がクネクネと変な踊りを踊っている。
天井の四隅からはご機嫌なBGMが激しいビートでこちらの鼓膜を突き破らんと鳴り響く。
今までは素朴な中世ファンタジー風世界で石畳とレンガに囲まれBGMと言ったら人と鳥の鳴き声ぐらいだったのにいきなりなんなんだ。
あまりのギャップに三半規管がやられうずくまる、隣ではアルケミオも同様にやられたようでグッタリとしていたが小さく何か呟いてウィンドウを取り出す。
「音量設定オープン、BGMミュート……!」
「あ、音量設定で消せるのか。じゃあ俺も」
アルケミオと同様にBGMを消しやっと鼓膜が楽になる、ギラギラと輝くミラーボールと踊る男女の姿は未だ目に刺さるが慣れればなんとかなるだろう。
「んじゃこっち座って、アルっちとハジっち酒イケる年?」
「ぼ、僕は飲めません」
「俺もパス、というかVR世界で酒飲んでも酔うのか」
「味だけで酔いはしないかなー、まあそういうのって気分の問題っしょ! マスター、スパオレ二つ」
ウィンクしつつ部屋の中央に置かれた一番大きなテーブル席に座りリードはそう答える、俺たちの背後にいた仲間も同じように座りあれが欲しいこれが欲しいとあれこれ騒いでいる。それ以外にも聞くことがあるだろうが、マスター呼びつつタッチパネルで注文するな。
「すまねえが待たせてるやつもいるのでこの辺で……」
勝手に盛り上がっている一同を尻目に俺は威嚇させないようにそっと後ずさる。
なんかノリと勢いでついてきてしまったがこれはあれだ、異様にギラギラした店にチャラくて強引に飲ませるキャッチ。間違いない、こいつはぼったくりバーってやつだ。俺の暮らしている場所じゃまともな酒場自体無いからみたことないけど絶対そういう奴に違いない!!
アルケミオも連れて一緒に逃げよう。あいついかにも怪しいペンダントとか壺とか買わされそうな雰囲気してるし、俺は紫色のローブの姿を探すが肝心のやつは俺やリードよりさらに店の奥深くにいてバーのマスターの前に立ちさっき戦いに使っていた例のカードの束をシャッフルしている。
「モード・スキャン」
「なにやってんだ!?」
一番上のカードをアルケミオはめくりあげマスターにかざす、先ほどの戦いでカードから戦車やら剣やら出してきたのを見ていた俺は反射的に一歩引くが何も起こらず、ただバーのマスターが几帳面にグラスをふく音だけが聞こえる。
「うん、大丈夫」
「アルケミオ?」
「ハジカミさん、少なくともこの方は中立的なNPCです。問題があればすぐ他の方に知らせてくれます」
「そ、そうなの?」
「当たり前っしょ! さーさー座って座って」
斜め向かいの席にアルケミオは普通に座ったのを見てリードは俺の方へ手招きする。
なんとなく釈然としないまま俺もアルケミオの隣に座り、ソファの背もたれに体重をかけ辺りを見渡す。
正方形の大きなテーブルにぐるりと置かれたソファは周りの雰囲気もあり、カラオケの一番でかい部屋を連想させる。
天井に据え付けられたスポットライトからゴツいケーブルが蜘蛛の巣のように天井を四方八方覆っている。さっきからリードが注文に使っているタブレットにも充電用のケーブルが伸びていてどうも現代社会同様電気によってこれらの機材は動いているようだ。
セントラルで泊まった宿やイーストンでは灯りはオイルランプや薪が使われていたのでそれと比べたら超技術と言っていいが、逆にVR世界でわざわざ有線使って充電させる意味が俺にはわからない、ファンタジーなんだからそれこそ魔法の力で使うとかで良かったんじゃね?
「俺たちを誘ってきた理由はなんなんだ?」
マスターが持ってきたスパオレ(スパークリングオレンジの略。グラスの中で小さな線香花火が散っているオレンジジュース、炭酸は入っていない)を飲みつつ、俺は開口一番に尋ねる。
仲間たちとよくわからない色のスナックをつまみながらリードはにこやかな顔で答える。
「とりあえずハジっちとアルっちは黄金郷の入り方については知ってる?」
「なんだっけ、銭ゲバ王に気に入られないと入れないんだっけ?」
「そーそー、東の果ては黄金郷にあるからそこの王様に気に入られないと辿り着けないの。大体のプレイヤーがイーストンの橋渡って東を目指すから六極始めたプレイヤーにとっては最初の関門になるね」
「なるほど」
「で、黄金郷を目指す方法自体は沢山あるのよ。黄金郷につてのあるNPCが欲しがるスキルを渡したりよこしてくるミッションをクリアして連れて行ってもらう方法、ドワーフ亭のように大きなギルドに入ってそこで腕を認められて黄金郷に連れて行ってもらう方法、他には大金稼いで黄金郷行きのチケット買うとかさ」
飲み干したグラスの氷をストローで突きつつ、俺はもう片方の手で頬杖をつきながらリードの説明を聞く。
弱ったな、俺の呪われしプリティウーパールーパーフェイスはありとあらゆるNPCから嫌われまくるのでまともに話をしてくれるかどうかすら怪しい。記憶の中にあるリンの話を聞く限り俺の顔を見たら騒動が起きるらしいからドワーフ亭に弟子入りするのも難しいしゴブリンやスライム倒して小銭稼ぎするにしてもレベルが上がった今真っ先に逃げられる。
眉間に皺を寄せ考え込む俺の隣でアルケミオは眉を下げてリードに話しかける。
「ミッションを達成するにしてもお金を稼ぐにしても、どれもプレイヤースキルが必要なんですよね」
「そーそー、しかもクリアした本人しか入れないわけよ」
「金になるやつしかいらんってやつか」
「でもねえ〜、一個だけチョーいい方法あるのよ、それがこれ!」
バンッ!と派手な音を立ててリードは机を叩き、一枚の紙を出す。
くしゃくしゃになった紙には「勇気あるもの求む」と書かれた文章と禍々しい魔物の絵が描かれている。
「これは?」
「レアモンスター捕獲ミッション! 人数制限なし! 捕まえた時点で生き残っていればそれだけで黄金郷行き確定で東の果てチャンスあり!!」
「ほー、だから俺たちを誘ったのか」
テーブルに置かれた紙の端を指で叩きつつ、俺は周囲の奴らに視線を向ける。
モンスターを倒した時点で生き残れてさえいればOK、かつ人数制限がないなら片っ端から誘って参加すればいい。人数が多ければ攻撃対象が分散して多少実力が追いついていなくてもラッキーで生き残れる可能性もある。テーブルに集まっているメンツに共通点がないのもその説に説得力を与えていた。
「探すのが得意なメンバーは集まったんだけど戦闘得意なやついなくてさ〜、そこでハジっちとアルっち見つけたから誘ったのよ」
「すまねえ、リード。俺がもっと強いスキルを手に入れていれば……!」
さっき俺たちと戦っていた暴走男がグラスをテーブルに叩きつけるように置き、頭を深々と下げる。
なるほど、あの暴走男は戦闘要員として誘われていてそのために強いスキルを求めて泉に放り投げていたのか、それでどんどんハズレ引いて収拾つかなくなって暴走と、いやあガチャって怖いですねえ〜。
「ぼ、僕は……」
「いーじゃんいーじゃん行こうぜ〜!」
「さっきすげー雷あんたのスキル、俺のと交換しようぜ」
「というか占い師ってほんと? 占ってよー!」
口を開きかけた途端、リードとその他雑多な仲間たちにもみくちゃにされるアルケミオ、このノリだと多分あいつ流されて行きそうだな。
「ハジっちも行くっしょ?」
騒ぎの中、俺に対して目を細めて笑うリード。俺は腕を組んで考え込む雰囲気だけは出してみるが、別に他の案があるわけでもない。
「いいぜ、俺も参加する」
ちょっと一狩り行ってきますか。




