15.僕と一緒にお茶しない?
これまでのあらすじ
・不思議カード使いアルケミオと協力してバトル
・街の外に誘い込んで戦うことになる。
・アルケミオのハッタリで相手は雷に打たれて勝利!
各キャラクタースキル
ハジカミ【伸びる舌】【なし】
落雷に撃ち抜かれた男の巨体が崩れ落ち、光の粒子になって消える。
その粒子たちの中から光り輝く宝石の玉がアルケミオの前に移動して見定めさせるように停止する。
(そういえば敵を倒して勝つのはこれが初めてだったな、スキルの交換権はとどめを指した人間にあるわけか)
「アルケミオ、そいつのスキル読んでくれないか」
「は、はい。わかりました」
光に顔を近づけてアルケミオは能力の説明をする。
【狂戦士】
全ステータスアップ(100%)
発動条件:装備した瞬間自動発動
デメリット:一定時間操作不可能、攻撃回数と時間経過により強化効果は低下し完全に効力を失う。能力の再発動には24時間のクールタイムが必要。
「時間経過で能力低下、っつうことは暴れさせるだけ暴れさせときゃ勝手に落ち着いてたのか」
「でもあのまま放っておいたら街の人に迷惑かかってましたし……、どうしようこれ、僕には必要ないスキルだけど交換しなかったらあの人に戻っちゃう」
「モンスター討伐とは違って交換しなかったらスキルは消えないのか、スキルの効力は終わってるしガチャ爆死男に返せばいいんじゃね?」
「そうしたらまたあの人が泉で交換してもっとひどいスキルになりますよ……」
「おー、お困りだねお二人さん」
考え込んでいた俺たちの背後から急に声がかけられ振り返る。
金髪で両耳にピアスじゃらじゃら、大きく胸元のはだけた派手な柄のシャツに細身の黒パンツ。
中世ファンタジーというコンセプトを完全に無視したいかにもチャラついてます!といった見た目に戸惑うが、それより後ろにいる人間のほうに目がいった。
十数人の同じぐらいの年齢の男女が壁のように立ち並んでいる。露出度の高いアニマルタイツに身をつづんだ女もいれば、パステルカラーの装飾過多な服を着た女、スーツを着崩して着た男や逆に全くただの村人といった凡人っぽい雰囲気の男女も混じっている。人数の多さとその統率感のなさに俺は戸惑うが、目の前のチャラ男はそんなこと気にせず歯をきらりと光らせる。
「え、だれこいつ」
「アルっちもおっつー、さっきはかっこよかったぜ」
チャラ男が傍にいたアルケミオに声をかけるとぺこりと頭を伏せて会釈するアルケミオ。
え、知り合い?俺の知らない物語始まってる?
「おっとそっちのウーパールーパーくんは新顔だな、俺っちの名はリード。チーム『黄金郷に行きたい会』のリーダーだ、よろしくぅ!!」
なんだこいつ。
「さて、まずはそいつのスキルだけど……」
「リードさん! 連れてきましたよ!!」
「センキュー!」
俺の疑問をよそに話し始めるリードとかいうチャラ男、そいつが後ろに引き連れていた人壁の中から二人の人間が現れる。
片方は見覚えのない人間だったがもう片方はさっき俺たちと戦っていた暴走男だった。
さっきまでの威勢はどこへやら、背をしょんぼりと丸めて申し訳なさそうに俯いている。
「すいませんリードさん……」
「気にすんなって! お助けアニマル持ってるやついる?」
「アタシ持ってるよ!」
「OK、じゃあアルっち、こいつにスキルを返してくんない?」
「わかりました。交換を放棄します」
アルケミオが宣言すると宙に浮いていた宝石はふわりと離れ元の持ち主の腕輪へ装着される。
「お助けアニマル発動!」
「さ、使っちゃって!」
「すいません。【攻撃力上昇】と交換」
フォン、と音を立てて暴走男の体に淡い光が放たれる。セントラルで俺が下痢解消したのと同じやり方だな、俺と同様にお助けアニマルを連れてきていたやつもいたのね。
「よっしこれで全部解決!」
「いや解決してねえから、あんた何もんなんだよ」
「俺っちの名はリード。チーム『黄金郷に行きたい会』のリーダーだ、よろしくぅ!!」
「コピペ自己紹介で解決するわけねえだろ!! ちゃんと説明しろ!!」
「わかったわかった。こんなところで立ち話もなんだしさー、俺たちと一緒にお茶しない?」
なんだこいつ。
結局俺たちは奴と一緒にお茶をすることになった。
リードたちの集合場所となっている酒場は少し離れた裏通りにある、ということなので俺とアルケミオは最後尾をついていく。
前を歩いている連中は適当にダラダラと話しながら歩いており、こちらを警戒しているようには見えない。というか警戒するといった発想がないように見えた、街中だから気が緩んでいるんだろうか。
俺は隣を歩いているアルケミオにそっと耳打ちをして尋ねる。
「おいアルケミオ、とにかくあいつらについて説明してくれよ」
「は、はい。さっきハジカミさんは街の外まで誘導するから僕がサポートしてくれっていってましたよね」
「ああ、言ってた」
「じつはあの後ハジカミさんたちがあまりに速すぎてついていくことができなかったんです、屋根の間を渡ろうとしても届かないし地面に降りようとしても高さがありすぎて降りれなくなってて」
「……あー、たしかにそうなるわな」
考えてみれば当然の話だ、【伸びる舌】でターザンみたいに駆け回っていた俺と【狂戦士】で素早さ含む全能力上げた暴走男の追いかけっこにいかにも完全後衛魔法使いタイプのアルケミオがついていけるはずもない。
思い返してみれたアルケミオがアシストしてくれたのも作戦初めた直後に【戦車】出したぐらいだったし、あの時点で突き放したみたいだ。
完全ソロプレイで他のプレイヤーのステータスのことなんか考えたこともなかったから完全に俺のミスだ。
「リードさんは泉で騒ぎを聞いた後、他の人たちを避難させて戦闘の準備を整えてからまた泉に戻ったんです。そこに僕しかいなかったので事情を聞き、僕を街の外まで連れて行ってくれたんです」
「大通りに人がいなかったのはそれが理由か、肝心のバトルでは姿が見えなかったのは?」
「あれは大人数で追い詰めると僕の話を聞いてくれないので僕が頼みました。リードさんたちも僕に任せるって言ってバフをかけてくれて、そのあと少し離れたところで僕たちをみていたようです」
「なるほど、理屈はあうな。しっかし騒ぎはおさまったのに俺たちについてこいってことは、さっき言ってた『黄金郷に行きたい会』ってのが関係あるのか?」
「そうかもしれません」
「お二人さ〜ん! 話はそこまで!」
俺たちの会話を遮るように先頭を歩いていたリードが片手を上げて呼びかける。
目の前を歩いていた集団がぴたりと立ち止まり、俺とアルケミオの前を避けるように左右に移動する。
「まずはドリンクタイム! グイッといってから語り合おうぜ!!」
遮るものがなくなったおかげで強い光が目に差し込み、あまりの眩しさに目を細める。
明るさになれ恐る恐る目を開けると路地裏の薄暗がりを貫くようにギラギラと輝く金色のネオン看板にはこう書かれていた。
『黄金郷イーストン支店』
なんだこれは。
補足
モンスター討伐時と他プレイヤーを倒した時のスキルの交換処理の違いについて
・モンスターを討伐した場合
モンスターは通常一つのスキルをドロップし、プレイヤーが望めば交換できるが交換しなかった場合モンスターのドロップしたスキルはその場で消失する。(制限時間は一分)
モンハン討伐後の素材剥ぎ取りみたいな感じです。
・他プレイヤーをHPゼロにして勝利した場合
勝利したプレイヤーは負けたプレイヤーの両方のスキルを見てどちらか一つを交換することができ、交換しなかったスキルは負けたプレイヤーに戻ります。(制限時間は五分)
交換中の両プレイヤーのスキルはどちらのものでもないため勝利したプレイヤーはスキルを使うことはできません。
ポケモンのバトルファクトリーみたいな感じです。
自分のスキルは自分で捨てることが可能なので、暴走男にハジカミがとどめをさして勝利した場合
暴走男【狂戦士】 ハジカミ【伸びる舌】【なし】
↓ハジカミが【狂戦士】と【なし】を交換。
暴走男【なし】 ハジカミ【伸びる舌】【狂戦士】
↓ハジカミが【狂戦士】を捨てる。
暴走男【なし】 ハジカミ【伸びる舌】【なし】
といった流れで相手のスキルを捨てることはできます。
しかし条件として片方のスキルスロットが空いていること、交換以外で解除不可能なスキルではないことがあり、また即時発動系のデメリットスキルはその場で発動するデメリットもあります。
ちなみにPK行為のペナルティである「装備しているスキルが両方デメリット化」ですが
PK行為を行い自分のスキルをデメリット化してそれを相手に押し付ける、といった流れを防ぐため「PK行為のペナルティは交換後に行われる」といった判定になっています。なかにはそれをさらに悪用する奴がいるとかいないとか
・トレードバトルについて
バトルを始めるとき対戦をするか尋ねるメッセージを出しますが、これをせず一方的に戦いを仕掛けることはできます。ただし宣言せずに戦った場合第三者が乱入してとどめを指した場合、交換権が倒されたプレイヤー←乱入した第三者となってしまうのでそれを防ぐためにバトルの宣言をするのが六極プレイヤーの基本ルールとなっています(宣言後第三者によって倒された場合無効試合となりスキルの交換がされないまま敗者は最後にセーブした場所に戻されます)




