12.レッツガチャ
これまでのあらすじ
・やってきましたイーストン!
・さっそく店長にボコられる。
・さっそく能力をむしられる。
各キャラクタースキル
ハジカミ:【なし】【なし】
ティロ:【なし】
ところどころ剥げかけた石畳の道を抜けると大きな広場にたどり着いた。
広場の周囲ではさまざまな身なりの人間が手に金貨や宝石を持ち立ち話をしている、商談がうまくいって懐があったかくなった人間の隣には、おこぼれ目当てに軽食を売る店が立ち並びこちらも値段の交渉が盛んのようだ。色とりどりの服を着た人間や自分の商品を宣伝するのぼりや屋台を抜けると中心からパシャパシャと水の流れる音がする、どうやらお目当ての泉にたどりついたようだ。
泉、と呼ばれていたが実際は噴水で、半径十メートルぐらいの浅く広い水盤の中央に古びた女神像が置かれている。
右手に掲げた天秤の両方に俺たちが使っているスキル玉と同じサイズの石の玉が乗せられていて、左手で支えられた水瓶からは透明な水がこんこんと湧き出ている。
女神像の背後には大きな石板が置かれておりそこにはこう書かれていた
・新たなスキルを求めるものはこの泉に投げ込めば全く新しいスキルに生まれ変わります。
・スキルとともに大金を投じればより良い結果が出てくるでしょう。
・何度もサイコロを振り直すのはお勧めしません、あなたは最初が最善だと学ぶでしょう。
・悪しき力を女神は望みません、呪いはさらなる呪いを生むでしょう
「スキルを泉に入れたらランダムに変わる、課金したら強スキルのチャンス。引き直しはどんどん劣化するからやめておけ、ってことか。一回こっきりのガチャ……ガチャ」
その二文字を口の中で反芻しながら白い肌から脂汗が流れる、もりもり減っていく石の数、神に祈りつつ毎日のおはガチャを引いては落胆する日々、あ、やめて金出さないで虹にしていや虹だけどすり抜けはもっと勘弁して!!
「なに一人で騒いでるんですか」
「おめえには一生わかんねえ悩みについてだよ」
周りに聞こえない程度の声でそう返し俺は泉の隣に置いてある古びた棚に目を向ける、大きさはちょうど洋服タンスぐらい、月日の経過が色濃く滲み出た木材にけばだった布が敷かれており、そこにスキル玉と名前札が宝石の標本のように並べられている。棚のすぐ隣の看板に書いてある内容に俺は目を通す
「なになに……スキル交換所ご自由にお好きなスキルをお取りください、ほうほういいじゃないか。内容は全裸、下痢、疲労の足枷、全自動爆殺自害権……」
うん、まあそうなるか。女神像の説明を読む限り、スキルを泉に投げ続けるとスキルが劣化して最終的にデメリットスキルのみとなる、そうなったら泉に投げ込んでも改善されることはなく誰かと交換してもらわなければ解除されない。だがデメリットスキルをホイホイ交換してくれる奴なんてそう多くはないわけで、結果この棚は誰も欲しがらないカススキルの漂着所と成り果てているわけだ、というかなんだ全自動爆殺自害権って。
木目の一つ一つから負のオーラを放ち続けている棚から目を逸らし俺は周囲を見る。泉の周りでは新しいスキルに一喜一憂するもの金貨の入った袋を握り締め祈るもの、手に入ったスキルで交渉し合うものなど様々だ。行ったことないけど都会のグッズ交換ってこんな感じなのかねえ。
「もう一回だもう一回!! こんなクソスキルで戦えるか!!」
「や、やめなよ……」
「あー、俺にもこんなふうに止めてくれる人がいたらなあ……」
後ろから聞こえてきた声にぼんやりと相槌を打っていたが、背後のざわめきと口論が止まらないのに気づき声の方向に目を向ける。
そこには自分のスキル玉を泉に投げ込もうとしている男を小柄な影が止めようとしていた。
男の方は丈夫そうな革の鎧に地味な色の布の服とまあ一般的な戦士職の格好をしているが、もう一人の方は濃い紫色のローブで身を包んでいる。俺に呪いスキルをよこしやがった黒ローブのボロボロで擦り切れたものとは違い金糸銀糸で細やかな刺繍が施されており上等なものだと一目でわかる。
「き、君はもう三回も泉にスキルを投げ込んでる……だからもうやめた方がいいって」
「あ!? うるせーなオメーには関係ないだろ!」
「そうだけど……」
男の声が大きくなるのと対照的に紫ローブの声はどんどん小さくなっていく。
その様子を周りは迷惑そうに遠巻きで見るもの、見なかったことにしてさっさと通り過ぎるもの、むしろ面白そうに眺めているものなど対応は様々だが止める様子はない。
まあ他人のガチャ爆死なんざ飯のタネにしかならねえもんな、遠巻きで見てるぶんには面白い。
だが、爆心地にいた側としては地獄に行こうとしている人間をそのままにするのも夢見が悪い。
俺は余裕たっぷりな大人の雰囲気をかもし出し、二人の間に割って入る。
「まあまあ落ち着きたまえ不運くん、テーブルが悪い時はなにをやってもダメなんだから一度寝てやり直せ」
「テーブルってなんだよ!? てかなんだその頭!?」
「う、ウーパールーパー……?」
「お、詳しいねキミ」
「お父さんが飼ってたから……」
「無視すんなって! もういい俺は変えさせてもらう!!」
「あ、だから寝てリセットしろって」
突然空気を乱されてやけになったのか俺の親切な忠告を受け入れず男は腕輪を左腕ごと水盤に叩き込む。
高い水飛沫を上げると一瞬の間を置いて泉全体が光りその光が男の腕に集まる。
バシッと音を立てて男が腕を引き上げると男の腕輪に赤いスキル玉が嵌め込まれ、キラキラと輝くそれを男は誇らしげに掲げる。
「これが俺の新しいスキ……?」
男の声が途切れ体が大きく痙攣する、左手の腕輪から血管が遠めでもわかるぐらい太く脈打ち全身へ広がる。それと同時に全身の筋肉が大きく膨張し分厚い革の鎧がめりめりと音を立てて裂ける。
「グ…グオオオッ!!」
咆哮とともに倍以上に膨れ上がった拳を振り上げ地面に叩きつけると石畳が粉々に砕け散り、噴水の縁が砕け水がこぼれ落ちていく。突然のことに理解が追いつかず辺りはどよめいていたが、NPCの誰かが叫び声を上げるとともにパニックが波のように広がりNPCたち逃げ出し始める。
混乱のまっただなか、あちこちから聞こえてくる悲鳴と混乱の中俺はこう思う。
あ、もしかして火に油注いじゃった?




