11.新しい街、早速の洗礼
これまでのあらすじ
・銀次郎とレイラのバトルに勝利!新能力ゲット
・銀次郎のおっさんに同行拒否される。
・銀次郎のおっさんから橋を渡る方法を教えてもらい、次の街へレッツゴー
各キャラクタースキル
ハジカミ:【腕力強化】【脚力強化】
ティロ:【なし】
お久しぶり! ハジカミです!
なんやかんやで崖を乗り越え新たな町にたどり着いた俺はその日はセーブして終わり、翌日帰宅してからゲームを始めた。
新たなるステージのこの町で俺はさっそく…。
「こんのバケモンがーっ!!」
「助けて僕悪いウーパールーパーじゃないです!!」
店主にボコボコにされていた。
状況を説明しよう。
俺につけられた呪われしサラマンダーの仮面、これの特徴として「NPCの好感度補正」がある。
正直それどころではない状況だったので、これを見たときはNPCから渡されるクエストの内容が変化するのか?ぐらいにしか思っていなかったがNPCである道具屋でそっこう追い返される買い物不可のデメリットもついてきていたのだった。
まあ自分がコンビニの店員で顔面ウーパールーパーマスクのパンイチ男が「肉まんくださーい」って入ってきたらそりゃカラーボールぶん投げまくって通報するよな。
ちなみに宿屋も部屋には泊まれないが軒先や馬小屋を貸してくれるのでこっちはだいぶ優しい。セーブできて回復するなら藁のベッドで十分よ。
セントラルでは普通に泊まってたよな?と思ったがおそらく自分以外に呪われていないプレイヤーがいるとこの効力は軽減されるらしい、たれ蔵と呼ばれていたが泊まれるには泊まれたしプニのおっさんには感謝が尽きない。
「二度とくるんじゃねえぞバケモンが!! ペッ!」
「ぐへっ」
店主の唾と一緒に地面に投げ出された俺を遠巻きに見ては通りすがるギャラリーたち、うーん都会の厳しさを感じるぜ。
「ぷっ、あっはっはっは!!」
はては俺を見て盛大に笑う声も聞こえてきた、この世界はパンイチウーパールーパー怪人に厳しすぎる。
「いやーごめんごめん、あんまりな状態だったのでついね」
陽気な女の声が聞こえ、俺の顔に影ができ視界が暗くなる。
上を見上げるとオレンジ色の髪を高く結い上げた女がしゃがみ込んでこちらを見ていた。
古びたオーバーオールと手につけた分厚い手袋にはところどころに油のシミができており、錆止め油と灰の匂いがする、小脇に抱えた布袋にはパンパンに何かが詰められておりところどころ破れた先から金属のかけらが突き出ていた。化粧っけを全く感じさせない煤まみれの顔でにかっと笑う。
「私の名前はリン、とりあえずうち来る? 古着でよけりゃ服は着れるよ?」
「ここだよ」
大通りから道を外しそれなりの歩くと巨大な石造りの建造物が現れた。金属同士がぶつかる音が幾重にも重なり絶えず鳴り響き、蒸発した水がもうもうと立ち込めムッとした熱気が外側からでもわかる。
「中は他の奴らが作業してるから、とりあえず裏口から行こうか」
リンに案内されるまま建物の外をぐるっと回り込んで小さくて地味な扉を通り薄暗い通路を抜ける。
抜けた先にある今度はデカくて頑丈そうな扉の鍵を開けると舞い上がるホコリとひんやりとした空気がこちらに流れ込む。
そこは広めの倉庫部屋だった、高い位置に必要最小限の灯りのために付けられた小さな窓から差し込む光が埃で不規則な光の帯を作っている。
ほとんど掃除はされていないが人通りは多いらしい、通路の真ん中だけは埃が消えて獣道のようになっている。
それだけならただ広くて薄汚いだけなんだが、所狭しに置かれた武器たちに俺は少し驚く。
数の多さもその理由だが、一番の理由はその種類だった。
三日月型に曲がった大型の剣はまだわかるが歯の根本にギアが入っている斧や螺旋状にねじくれたレイピア、そもそもどんな名前でどうやって使うのか不明な武器たちが棚の上に所狭しと置かれている。
徹夜七日で作ったみたいなそれらは見た目はてんでバラバラだったが、武器の上に貼られた手書きの番号と工房の名前っぽいスタンプが押されたラベル、俺の付けているスキルスロットのように丸くくり抜かれた穴がどの武器にもひとつづつ開けられている。
倉庫の奥にあるタンスの中を漁っていたリンだったが、俺の様子に気づいたのか首を伸ばして警戒するように話しかけてくる。
「そいつらは底生生物用の武器だから触るなよ」
「ベントス?」
「ある程度ゲームに慣れるとそいつにとって使いやすい能力がだんだん決まってくるわけ。両方ともスキルを変えずにプレイするプレイヤーは完全底生生物、片方だけ固定はハーフ底生生物、決まっていないプレイヤーは游泳生物」
「へえー、じゃあ俺はネクトンになるのか」
「ちなみに人に騙されてホイホイ能力変えるやつは浮遊生物」
「……」
「で、普段売ってるのは游泳生物用、誰でも使える汎用品なんだけどたまに能力に合わせて武器や防具作ってくれって依頼がくるから作ってんの。黄金郷におろさなきゃいけない武器の締切も近いから結構忙しいのよ」
「黄金郷?」
「あ、それも知らないのか。ここイーストンをさら東に行くと黄金郷ってもっとバカでかい街があんのよ、黄金郷には銭ゲバな王様がいて金にならんものはいらん!って性格だから大金払って入るか逆に王様が欲しがってる武器やモンスター売りに行くしか入る方法ないね」
「じゃあパンイチ文無し怪奇ウーパールーパー男に入るすべは」
「ないんじゃない? ホイ」
バッサリと言い切ったリンはそのままタンスの奥に顔を突っ込み何かを引っ張り出し俺に投げ渡してくる。広げるとリンの着ている服と同様油の浮いたツナギ服だった。
【古びた鍛冶屋の服】
特殊効果:なし
使い古された鍛冶屋の服。油臭くてボロボロだがまだ着れる。
「雑巾や焚き付け用にとっておいてたやつだけど入るはずだよ」
「よっしゃ助かったぜ」
「その前にハイ」
「?」
手のひらを上にして真っ直ぐ俺に差し出してきたリンは目に欲深い光を漂わせてこちらへにじり寄ってくる。
「この世界はトレードが基本だろ〜? 渡すもの渡してもらわなきゃ」
「いやあ〜僕お金持ってなくてえ〜」
「金はなくても持ってるものはあるだろ、スキルスロット見えてる」
「あ、はい」
ハジカミ:【なし】【なし】
リン:【腕力強化】【脚力強化】
「まいどあり〜」
「男ハジカミ、晴れて無能力無一文ゼロ価値ウーパールーパーになりました」
「裸一貫じゃないだけマシだろ。にしても【腕力強化】と【脚力強化】なんて珍しいな、橋渡ってきた新山は攻撃防御回復のどれかなのに、これだったら泉に出さずにしばらく使うか」
「泉?」
「ああ、この街に能力を取り替えてくれる泉があるんだけど……」
「リーンッ! どこじゃーっ!! 買い出しは済んだのかー!」
「やべっ!! 買い出し帰りなの忘れてた!」
突然老人の大きな声が部屋中に響き渡るとリンの背筋が反射的に伸びてハッとした表情を浮かべる。
「走るよ!」
「え、ちょ!?」
服を抱えたままの俺の手を掴んで倉庫の扉を抜け、通路を抜け裏口の扉を開ける。
さっきの薄暗い室内から突然の陽光に目が眩んだ俺の背中をバンバンと叩き、細い通路の先を指差す。
「うちのじいちゃんあんたの顔見たら卒倒するからここまでな! 泉は大通り抜けて人の集まるところ行ったら辿り着けるから!!」
「あ、ありがとうな色々と……」
「例なら金溜めて戻ってきてから言いな! ドワーフ亭を今後ともよろしく!!」
さらっと宣伝の言葉を残すとリンは慌しくきた道を戻り再び石造りの建物の中に入っていく。扉が閉められると音がくぐもり小さくなり、やがて他の喧騒に紛れて消えていく。
一人取り残された俺だったが周囲の冷ややかな目に気づき慌ててもらった服に袖を通す。
見た目通り服の生地はゴワゴワとしておりところどころに空いた穴から風が容赦なく入ってくるが今までのパンイチ生活に比べたら断然安心感がある。ちょっとしたクールビズだと思えばいい。
服を着終えるとマスクの下に入り込んでいたティロの鼻先が少しだけマスクの外に出る。スンスンと服の匂いを嗅いでいたがどうやらお気に召さなかったらしい。寒い日に布団に潜り込む時のように鼻先を引っ込めて不満そうにため息をつく。
「ハジさま〜この服くさ〜い」
「もらいもんなんだから文句言うなって、金が手に入ったらいいのに着替えるからさ」
「お金……手に入るんですか?」
ぼそっとつぶやかれたティロの疑問に俺は内心声が詰まる、店での買い物ができないと言うことは逆に言えば店での換金も不可能ってことだ。地道にモンスター倒して稼ぐにしてもノースキルと雑巾寸前のボロ服だとかなりきつい。
「とりあえず、さっき言ってた泉にいくか」
さっきリンにスキルを取られたが俺の手元にはまだ未使用のお助けアニマルが一匹いる。
アニマル能力を手に入れて周辺のモンスターを倒すのもよし、泉でスキルの交換をするのもよし、お助けアニマル自体を交渉の材料にするのもよし。打てる手はいくらでもあるが、まずは現状一番得なのはどれかを見極める必要がある。
俺はそう結論づけ、大通りへ戻り泉を目指すのだった。




