反転世界
反転した世界
白い世界
そこには無数の人が立っていた
いや、
人だけじゃない
神
犬
猫
それぞれが立って、いや、座って
ただ静かに俯く
これは舞台裏
役割を果たす登場人物の欠片
それを組み合わせて世界は常に創造される。
誰だろう?
意識を向けるとスポットライトがそこに当たる
「私は求める自由を、誰からも束縛されずに大地を、駆け巡りたい!この縛る鎖のくびきから抜け出してやる」
誰の発言かと思うと犬の発言だった。
驚きはない。
ただ、それを求めていたんだなと知る。
そのうえで縛る鎖について興味をもつ。
意識を移す。
スポットライトが別に移る
「私は真実の愛が欲しいの。見た目に騙されず、ただ私の本当を見てほしいの。私の待つ社会的なものなんて親のモノだわ。私が自身の力で築き上げた私だけの力、私の魂それを見てそして愛して欲しいの」
美しい身なりの女性が訴える。
何処かで見たような気がするが、そこはどうでもいい。
本当に人生に彼女を内面からみてきた男性は一人もいなかったんだろうか?
スポットライトが移る
「生まれていつも住処がない。いつも、どこか片隅に隠れ住んでいる。こんな生活をいつまで続けるんのか、望むのは一つ、安定した屋根のある隙間風の吹かない家と毛布。パンがつけば天国だ」
髪も髭もボーボーな男性が蹲りながら呟く。彼はどんな人生をあゆんできたのだろうか?
スポットライトが移る
「いつも何かを求めていた。不足はない。困ったこともない。ただ刺激のある生き方がなかった。誰かの求めに応じてそれに答える。ただそれだけの人生。まるで鈍行の電車のようだ。もっと、もっと刺激ある人生ができたんだ」
いかにも日本のサラリーマンの風体をした無個性の男性が話す。
彼は本当に困ったことがなかったんだろうか?
スポットライトが移る
その都度誰かの望みや願い、苦悩が聞こえる。
「ベェーナスちゃんは、ここにいる人たち全員の話を聞いたの?」
俺は素朴な疑問を呟く
『はい。ここにいる人たち全員に協力してもらいました。』
「すごいね。こんな力があるんだ」
『正しくは違います。私の力ではできてもビルの一室が範囲でした。神々の協力を得たので予定外に力の共鳴が発生したので想定外の範囲を巻き込みました』
「なるほど。想定外だったんだね。こんなにたくさんの声を聴くなんて。答えは出たかい?」
『皆の望みを聞けば、皆が求める正義がわかると考えてました。ですが・・』
「どうしたんだい?」
『聞けば聞くほど、正義と公正、平等が離れていきます。だから試行しました』
「それがゲームかい?」
『はい。スタートが一緒で平等ですし、ルールは皆に公正であり、ルール違反は罰することで正義となります。そこで適正にできた世界観を元に構築できれば理想の世界をつくれると思考しました。』
「いい考えだ。でも、どうして俺にさせるんだ」
『たくさんの声を聞きました。たくさんの希望を聞きました。誰かの希望を叶えれば誰かの希望はかなわない可能性があります。決めるのは機械的な私ではいけないと結論しました。』
「ベェーナスちゃん、が機械的に選んだほうがいいと思うんだけど」
『無数のシュミレーションの結果です。』
「何回も考えた結果じゃ仕方ないね。ところで皆の声を聞いたというけど理由を尋ねた?」
『理由ですか?願いがわかるのに理由など必要でしょうか?』
「必要かはわからないけど、興味はないかい?どうして、その人、その犬、その猫、その神が、それを望んだかのプロセスさ。」
『世界ではなく、対象一つ一つのプロセスですか?』
「とりあえず、聞いていこう。叶えるとか難しいことばかり考えずに、生きていることは一つの世界なんだからさ。小さな世界からしっていこう」
『小さな世界』
ベェーナスちゃんが呟く。
人の望みは裏に悲哀があるものだ
俺が知りたいのは望みだけじゃない
べェーナスちゃん俺はみんなの、望みだけじゃあない。
嫌なことも聞きたいんだ
それこそ平等で公正だろ
多数の人々がいる。
俺はスポットライトが当たる人物に聞いていく。
「辛かったですね」
「悲しいですね」
「怒りを感じます」
「何故そう思うのですか?」
「もっと話を聞かせてもらえませんか?」
「ゆっくりで良いです。教えてください。」
「その時の自分に欲しいものはなんですか?」
「お疲れ様です」
「ありがとうございます」
・
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・
・
望みの反転
辛いこと、悲しいこと、許せないこと
負の感情、気持ち、魂の濁り
人が見たくない感情
心のうちに潜めた暗い心
俺はその、声を聞きたい
相談にのろう
それが俺の仕事だ
1人1人きいていこう
時間はいくらでもあるんだろう
これは長い夢だ
実に大変で辛いことだ、だけど
甘い夢を見るより
よっぽどマシだと思う。
甘い蜜は好きだ
浸るのは気持ち悪い。
それを理解できない人がいる。
ベェーナスちゃんと共に聞いていく
救いにならないかもしれない
ただ知ればその人の世界が自分の中に入っていくよな錯覚を感じるときがある。
無数の声を聞いた時音が鳴った。
ーーガッチャン!
照明が落ちる音が世界に響く。
世界が急に暗転する
ーーいつまで何、無駄なことをしているの?
そう対話すべき人物が残っている。