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欠片


初めての相談日



「ーーそうなんですね。人に相談できないのですね?」

私の前に座る男性が私の相談に神妙な顔をしながら頷いて話してくれる。


私は仕事に充実していた。

周りからも仕事ができると評価されていたし私自身そう思っている。

人からすると、こんなこと言うと自意識過剰、自惚れというかもしれないが自分の評価は謙遜せず正当に判断すべきであると思っている。

そうじゃないと他人の評価が、それこそ公正にできないから当然のことだと思っている。


私は憧れている社長が働く会社に勤めることが出来た。そして若くして社長に自身の働きを認められ今の地位がある。

社長肝いりの大きなプロジェクトを任されていた。


今が一番人生で充実していると言い切れる。

様々な困難やトラブル

羨望、嫉妬、人間関係

多忙で休めず心休めない日々

だけど体は疲れているのは自覚しているけど仕事は心躍るように気持ちを常に前を向き駆け巡る。

まさに疲れ知らずの仕事の日々が続いていた。


やっと仕事が形になってきたとき、いつものように部下に声がけをする。

声がけの内容には特に意味はなく


ーー今日はいい天気ね

ーーさん(旦那さん)と上手くやってるの?

ーー風邪が流行っている。気をつけてね。

ーーなにか変わったことはないかしら?


毎回違うかもしれないし、毎回同じかもしれない、だけど意識してしている行動

それに皆も私に声をかけてくれる。

そこで違和感あれば相談も聞くし、上に報告もする。

そんな他愛ない挨拶のような声がけ


私は出来るだけ報連相をした上で判断して行動する。


ーーだけど

私は部下や周りの人の相談を受けたりしている。

自己判断が難しいと思えば上に報告した上で行動する。


私は優秀である。

これは客観的事実。

ーーが故に人に悩み相談を必要と考えたことがなかった。


ここで忙しい日々から余裕がでて考える。

本当に相談が必要ないのだろうか?

最初に比べて気力も体もベストとはいわないが、まだ元気ともいえる。

少し時間的余裕ができたなら

身体も計画的に休めるべきだ。

無理を通し続けるのは優秀とは言えない

無理をして倒れて長期入院した人を見たこともある。

それこそ皆に迷惑をかけることになる。

長期休暇はまだ無理だけど

できる範囲で計画的にケアして休むべきね。


身体はそれでOK!なら精神はどうかしら?

休暇を取れば問題なく回復するはず、だけど、なにか物足りないわ。


精神もケアするなら念のため専門医に現状見てもらうべきね。

だけど心は病んでないし、専門のクリニックにいくのは少し違うわね。それで周りが勘違いしたら大変だし


なにかないかしら、ーーそう。相談できるところないかしら。


思い返すと同僚の言葉が思いかえる


「会社に仕事の悩みとか心のケアをしてくれるセルフ・キャリアドッグを導入したらしいです。なんでも松下さんが将来の財産形成を相談しても聞いてくれたんですって、普通は仕事に困った話するでしょうに、なんでもアリなのね。会社も推奨してるし私もいこうかな」


特にその時は意識していない会話。

会社にそんなシステムを導入したという程度の会話。


よし!一度試しにうけてみるか。


「受けたところで会社の評価は落ちないだろうし逆に部下の為に先に試しに受けたと言えば評価が上がる可能性もあるわ」


そんな打算と私の心の診察を踏まえての申し込みが始まった。




  ◇◇◇◇◇◇




場所は本社の普段使わない会議室3の部屋。

私の前には頼りない見た目の中年男性。

心の中で少しガッカリする。

中年の男性とは事前に聞いていたが印象が低いのか男性の見た目の話は聞かないのでチョット、ほんのちょっとだけ好みの外見をしてないか期待していた。

仕事ばかりで浮ついた話もないし、私はすこし年上がタイプだと最近自覚してきていて、理由は年下の男性によく告られるからだ、そして年下の男性にはモテるが興味がわかないことに気づいた。

そんな私が職場から少し離れた環境で年上の男性と二人で相談する。そんな状況に少しばかり期待してもいいじゃないの。

ーーなのに目の前男性は、可でもなく不可でもなかった。

清潔感     △

身長、体型   △

声       △

見た目     △

ええ普通だわ。


失礼なことを勝手に心の中で考えていると声をかけられる。



「本日は、どんなご相談ですか?」


えっ?相談


ーーしまった!相談内容深く考えてなかったわ。

相談することに意識が行き過ぎて、相談することが目的になっていた。

何たる失態、普段ならあり得ないことだわ。

どこかに休暇の一環。人間ドックみたいに勝手に見てくれて何もしなくていいと勘違いしていたのかしら。

ーーどうしようかしら、何も言わなければ変に思われないかしら、重大な悩みを抱えて言えずに困っているとおもわれないかしら、そんな重い女性じゃないの、あっ、でも逆に冗談半分できたと、おもわれるのも困るし

私は内心考えがまとまらず沈黙する。


考えがまとまらず心の中ではアタフタしているが外からは静かに沈黙している自分が想像するだけで滑稽で恥ずかしくなり目線が俯いて相談する相手の顔をちゃんと見れない。


「ゆっくりで、いいですよ」


そういわれて相手の顔を見る。


ーーあっ、アリかも


最初印象は頼りない顔、好みではないと言っていたのに優しそうな瞳、落ち着いた雰囲気、少し皺のあるスーツ、ゆっくりした声音


なんて私は、勝手なんでしょう?いえチョロいの、いえ心がやっぱり病んでいるんだわ。

仕事の場で優しくするのが仕事の男性に、その、年甲斐もなく、 胸が ・・・なんて

これじゃナースに優しくされたから簡単に惚れる知能の低い男性と同じだわ。


だけど相手の視線を意識して、何か話さないと更に焦ってしまう。


「あの・・私、頼られてばかりで人に相談できないんです。ダメでしょうか?」

相談に来て、相談できないんです。と聞く

なんて頭が悪いのかしら。

食堂に来て私食事できないんです。ダメですか?なんて確認する人なんていないわ

私の顔は今真っ赤に染まっていないだろうか?

そんなことにばかり意識がいってしまう。


「ダメとは思いません。」

男性は当然のセリフで答える。

ひねりもない言葉。

ただ始まりのセリフ

「どおして人に相談できないんですか?」


「相談する必要がないからです」

私は男性の質問に条件反射で答える。


「相談する必要はないと、どおして、そう思われたんですか?」


男性の言葉に戸惑う。

相談する必要がないと思う理由?考えたことがなかった。

私はみんなの悩み困りごとを聞くし解決できる。

実際に私がアドバイスしたり行動すれば大体情勢はよくなるし、皆から感謝されるし後で評価される。

当然のことだと受け止めていた。


「必要がないというか、私自身の力で解決できなくて困ったことがないからです。」

少し間をおいてから答える。


「すごいですね!今まで自力で問題を解決してきたんですね。それがそお思われる理由なんですね。」

男性は素直に賞賛の言葉を発する。

当然の言葉だけど気持ちよくかんじる。


「はい。皆から頼られます」

ここは胸を張って答える。


「それでは、もし   さんが自分で解決できない問題の時は誰に相談しますか?」


「私の範疇で無理と判断したら上に相談します」

私は淀みなく素早くこたえる。


「上とは会社の上司ですか?」


「はい。」

躊躇なく模範の回答をする。


「冷静で的確な判断ですね、それでは仕事外のことも上司に相談するんですか?」


あっ!

相談の話が仕事の話になっていたと気づく。先ほどの質問は私のプライベートの相談の事を聞いていたのだと、答えは間違いではない。私は部下や同僚のプライベートな相談にものっていたのだから私が自分の上司、・・憧れの社長にプライベートの相談をしていても可笑しくないのだから。

でも、なんでここに私がきているのと思われるわよね。


「・・・プライベートの相談はしたことはないです。正しくは相談しません」

私は恥ずかしくもあるが事実を伝える。そうじゃないと意味がないから


「相談しませんか正直ですね。それは理由をお聞きしてもいいですか?」


「理由は特にないです。ただ会社の仕事と私事は分けて考えたいからです」


「公私をはっきり分けられるのですね。普段会社の人からプライベートの相談をされたときは、どんな気持ちですか?」


「頼られてうれしいです。ただ頼られるのは仕事の延長があるかもしれません」

自分でいっていて矛盾していると思う。会社の人に相談されて頼られるのは嬉しい。だけど自分は会社の人に相談したくないなんて、わかっているけど我儘、自分勝手。

今回相談することも決めず相談にきて相談を聞いてほしいけど相談はしたくない。

つまり相談って何かしらね。哲学だわ。


「  さんは周りから頼りにされてるのですね。では私が相談したら相談にのってくれますか?」


「先生が!なぜですか?」

予想していない提案に素直に驚く。


「解決力に期待したいからです。  さんなら、きっと素晴らしい解決策を用意してくれそうです」


「・・いいですよ」

嫌々そうに答える。相談にきたら相談のお願いをされる。ホントなにを考えているのかしら

チョット腹が立つ。


「ありがとうございます。困ったときは相談します。ですが関係は持ちつもたれずで行くのが私の方針でして良かったら今、どんな悩みでもお聞きします。愚痴でも良いので話してください」


「では相談します」

含みのある笑顔で話す男性の顔をみて。男性なりのユーモアだと理解した。

しかし笑えないユーモアだ。人によっては小馬鹿にされてとおもうだろうに


「相談仲間ができて嬉しいです」

男性が嬉しそうに笑う。


「アッハッハッハ」

私も男性の笑顔に釣られて笑ってしまう


「先生。とりあえず愚痴からきいてください」


「はい。喜んで」

愚痴を言い出すと止まらなかった。

知らない間に時間になり次回の約束をする。


愚痴から始まる相談がこれでいいのかわからないけど

思い返してみれば愚痴も周りに言った覚えがなかった。理由は事情が分かるからだ。仕事を依頼する側も依頼されてる側の考えが分かるし、困ったことに双方から頼られるし相談もされる。面倒だと思う反面、嬉しさと遣り甲斐が勝る。それに合わせて会社も社長も評価してくれる。それは喜び。だけど、それは、よくよく考えると不健全でもあるわ。

やっとナニカにきずく。そう愚痴の一つも誰にもこぼさずに働いていたのがダメなのよ。

自分のダメに再確認。

頼りなくみえる。ユーモアセンスがない男性をみる。

相談はするほうも悪くないかもしれない。


今は相談先、相談相手が出来たことを喜ぼう。



仕事も順調。

あと別のナニカが始まったことに胸がときめく。










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