日誌20
短くもあり長くもある時間が終わり
「みんなおつかれ。ハーイ、コーヒ飲んで」
広くもない会議室3の部屋に厳粛な空気が流れていて重い空気をへーぺさんが明るい声と眩しい笑顔で払拭してくれる。
素早い動きでコーヒとタオルをヘラクレスさんヘパイストスさんと順次配られる。
俺には何故か佐藤さんが配ってくれる。
いつからいたのだろうか、その陰の無さに驚き感謝の言葉を伝える時には部屋から音もなく出て行かれた。あれが神に仕える人の仕事なのだろう。その淀みない素早い仕事ぶりに素直に恐れいる。
◇◇◇
「安井さんはどのアイデアがいいと思いますか?」
一息ついてからヘパイストスさんに話を振られる。
「正直三人ともいいアイデアだと思います。ーーただ今の人の考えすぎないかと」
三人とも共通しているところがある。書類を目を通したが全員世界が違うかもしれないが現代人であり経歴が一般的にみて高学歴と高い教養を持っていることは分かる。ーー神からしたら経歴などあまり気にしないかもしないが、話した印象も好印象を抱かす話し方であり仕事が出来る人だというのは間違いなく思われる。
肝心のアイデアであるが正直俺では理解できないところがあるぐらい卓越した将来の組織化と緻密な未来図を描いている。かなり厚い書類の量になっており今日初めて渡されても判断しようがない。
言いだしっぺでありながらアイデア勝負というのを軽く考えていたのは本当に当事者達には申し訳なくなる。
ーーまぁ最初に渡されていても専門性が高く甲乙つけがたいとおもうが...。
意見を求められ答えたのは軽く目を通して思った感想である。
「どういう意味だい?良く考えられているとおもうけど」
「僕は提案していながらヘパイストスさんの世界にはいっておりません。それは今回の三人もです。それを今更いうのはどうかとおもうのですが三人の考えは現代の人が文化の積み重ねからきていることです。今のアイデアを実行するには少し早すぎる部分もあるようにおもうのですが...」
俺の歯切れの悪い答えに少し首を捻るヘパイストスさん
「おお分かるぞ安井。つまりゲームでいうならシリーズが飛んでいるということだろう。最初のシーズンで恐ろしい敵もシリーズを重ねたら動きが遅く雑魚になるというものの逆であろう?」
代わりにこたえるヘラクレスさん。ゲームに例えるところがヘラクレスさんらしい
「そうですね。ヘラクレスさんの言葉に近いといいますか例えば国を育てるシミュレーションゲームがあったとします。シーズン1で十分な技術を積まず、いきなり素晴らしいアイデアにて未来の技術であるシーズン10の技術を与えかねません。そうすれば短期的には爆発的な文化、文明の進化を見込めますが、いずれ技術の積み重ねが追い付かず停滞、そして凋落が早く進むかもしれません」
「言いたいことが分かったよ安井さん。槌の技術の基礎が分からない新米に応用技術で見た目だけ磨いても本人、この場合世界によくないかもしれないということだね。今更ながらアイデアに固執してその危惧を忘れていたね」
ヘパイストスさんなりの解釈にて俺の拙い説明を分かってもらえたようだ。
「申し訳ないです。文化レベルを伝えるのは最初に考えておくべきでした」
これは俺の失策だった。完全に人任せにしすぎて前提条件の提示とか諸々を考慮すべきであった。
俺は仕事でコンペとかをしたことないので軽く発言しすぎた為アイデアの選考基準が設けてないことに気づいて落ち込む。
「謝ることないぞ安井。今その危惧をわかっただけで十分だ。それにもともと書類審査に安井をいれなかったのはアイデアを重視するわけではないからだ。なぁヘパイストス」
ヘラクレスさんの元気で大きな声で少し救われる気がした。自分は後は関係ないという考えが頭の一抹にあったからこそ当日、人の運命に係る選考をしていたのに自分の落ち度に今更ながらきずいたのであるから
「ええ、その通りです。アイデアを重視していたら最初から現代に住む安井さんに協力を求めていたでしょう」
「では、一番は何を見られていたのですか?」
「「神の勘さ」」
ヘパイストスさんとヘラクレスさんの声がハモる。
「神の勘?第一印象というやつでしょうか?」
意外な答えに軽く驚き聞き返す。
「正しくはあるね。魂をみていた。これから長く世界の管理をするんだ。最初どんなに崇高な使命にもえた人も時間がたてば堕落するものだからね。ただでさえ神の時間間隔は人とは隔絶している。大事なのは最初からその世界にあうかどうかなんだ」
「世界にあうかどうかの神の勘ですか。それではお二人の意見はどうなのですか?」
「三人とも優秀だな。流石に俺の試練を超えし強者だ。兵士であれば俺の後背を任せるに値する戦士になる素質はありそうだ。最終的にはヘパイストスの意見を尊重するぞ」
「三人とも僕の世界には会いそうだよ。誰を選んでも上手くいくんじゃないかな。勘だけどね。だけど誰か一人を選ぶなら女性の人が一番親和性が高いんじゃないかな」
「女性の方、お名前はーーアサガオさんと呼ぶのでしょうか間違っていたら申し訳ないですが」
俺は女性の書類を読み直すが名前が外国の方なのでローマ字表記されており実際の呼び方は間違っているのかもしれない。
「アサガオさんだね。不思議だね今日初めて会うのに前から知っているかのような既視感というべきか昔からの友人のよな親しみを軽く感じるんだ。人にこんな感覚を覚えるのは初めてだよ」
「ヘパイストスもか俺もそのアサガオという女性は気にはなったのだがな。怒ると怖そうな美人だーーッ!」
ヘラクレスさんの言動に後ろに立つへーぺさんが無言で耳を引っ張ってる。
「それではアサガオさんに決められるのですか?」
痛がるヘラクレスさんを無視して話を進める。
「そこは同じ人として安井さんのご意見を伺いたいね」
「意見とは女性のアサガオさんで決定でいいかという意味でしょうか?」
「それを含めてだね」
「先に謝ります。私は少し今回のコンペティションを軽く考えておりました。申し訳ないです。三人の情熱ある語りについていけてなかったです。準備不足な私が聞く限り三人とも甲乙つけがたいとおもいました。その上で答えるなら女性のアサガオさん決定でもいいと思います。ーー言っておいてなんですが三人全員といのはどうでしょうか?」
「三人とも合格にするのかい?それなら今回のことが茶番にならないかい」
「世界の管理者の代行なんて仕事は初めてのことです。今回三人ともヘパイストスさんも世界に合いそうだと言ってましたし組織化するなら神器次第にはなりますが休日や交代も考えて複数採用もいいのではないでしょうか?」
「組織化か安井さんの考えだね。休みなども考えるとそうだね。悪くないかもしれないかな」
「いいんじゃないかヘパイストス。神の力は世界にとっては王の力を超える。暴走した王を俺はみてきたからな。王は孤独で暴走しがちだ仲間がいれば力に溺れて暴走も止めやすくなるしな」
「分かったよ。三人の合議制にして管理をしよう。僕はそれを補佐できる神器を打とうじゃないか」
こうして三人とも初の創生世界の管理者代行が暫定ではあるが決定した。
俺は正直あまり力にはなれなかったが今後その三人がヘパイストスさんの世界をより良く管理できるようにサポートしていくつもりである。
◇◇◇◇◇◇
「ヘパイストス今回のこと次の神はかり会議にて発表を共同でしないか?」
会社からの帰途、電動車いすで移動するヘパイストスの隣を歩くヘラクレスが話しかけた。
「僕はいいけど、この挑戦が成功すればヘラクレスと安井さんの功績になるとおもうがいいのかい?」
「俺一人では思いもつかなかった。実現にはヘパイストスの力が必要だ。まだ実現していないから発表は早いだろうが動いてくれた安井の功績を皆に伝えるべきだろう」
「安井さんには良くしてもらってますからね。本人からしたら迷惑かもしれませんが出来る限り結果で他の兄弟に伝えたいものがあります」
「だろう。俺は安井のお陰で楽しくできているのだ。安井は喜ばんだろうが俺らなりに周りに伝えたいからな」
「僕も兄弟の仲では少し爪弾きみたいな扱いを受けてます。僕がこんな見た目で内向的だし、いじけてる自分が悪いんだけどね。安井さんはそんな僕にも真摯に付き合ってくれる」
「「よろしく」」
お互い手を差し出す。ヘラクレスが大きく背を曲げヘパイストスの手を取る。
二人の前に夕日が大きく横たわり影が大きく伸びていく。その伸びた陰の先に一人の女性の姿があった。
「アオハルだわ。やっぱきて正解だったわ」
少し距離を置いて暖かく見守る白衣をきた保険のアオ先生
◇◇◇
「あなたはアサガオという女性どう思う?」
ヘパイストスと別れへーぺは二人になって初めて意見を夫に聞いた。へーぺ的にはヘラクレスの世界に若く美しい女性が身近にいたことに少しモヤモヤした感情とは別の言葉にできない違和感があった。
「俺より難しい試練を超えただけあり強さを知る女性だな。確かに美人ではあるが、ーーいっておくが俺はへーぺ以外の女に興味などないぞ」
浮気を疑われたかと思いヘラクレスが強く否定する
「クレス私もよ」
ヘラクレスの惚れ気に当てられ二人でいることからニックネームで呼ぶへーぺ
ヘラクレスの態度で杞憂かとおもい深く詮索を辞めることにした。へーぺはコンペ中にその女性のアサガオからアオハル力を感じることがなかったことに違和感を感じていたのだが...。
「そおいえば俺の世界の試練クリアーした人に女性などおっただろうか」
ヘラクレスは隣のへーぺに聞こえない1人ごとを呟いた
今回コンペを終えた三人はヘラクレスが自分の世界に送った後日
選考結果は三人は暫定であるが合格が告げられた。
そのうえで女性のアサガオは位階は2人より一つ上という位置付けとなる。
今回の管理者候補者の女性はその結果をみて薄っすら笑う
その笑みは見るものに瞳の奥に深い闇を感じていただろう。
世界に新しき秩序が出来ようとしていた。
その秩序の萌芽に混沌の種は蒔かれていた。
混沌は這い寄る