神のキャリアコンサルタント
俺は諦めない
試験当日になった
何度も頭の中でイメージする
試験に出てきそうな内容は何度も読み直した
実技の練習もした。何回も繰り返した
大丈夫、大丈夫と言い聞かせる
手足が震える
胃に熱いものを感じる
分かりやすく緊張していた
トン
背中を軽く叩かれる
振り向くと高嶺さんがいた
「高嶺さん」
「緊張しすぎですよ安井さん」
「すいません、こんな試験とか学生時代ぶりですので」
「平常心、平常心です」
高嶺さんが緊張する俺の両手を包み込んでくれる
「すいません、なんか高嶺さんも同じく試験なのに私だけ緊張して、情けない」
「実は助かってます。私も緊張してるんですよ。ほら、自分より焦ってる人をみると逆に冷静になるみたいなことありますよね。今の安井さんみたいに分かりやすくいてくれると私も助かります。これからも私のために先に緊張しといてくださいね」
「言ってくれますね高嶺さん」
「なら、早く私を捕まえてください。おばあちゃんになってしまいます」
「くそ!捕まえて見せます」
「鬼さん、頑張って」
俺と高嶺さんは軽くおいかけあいをする
気がつくと緊張が取れていた
高嶺さんのお陰だ。年上なんだと、考えるのはもう辞めた。俺は手のひらで転がされてるぐらいが丁度いいと気軽に考えるようになっていた。
告白をした日
俺と高嶺さんは交際することになった。
だが今は、まだ友達の枠を超えていない。
お互い恋愛初心者で、なかなか距離を詰めなれないでいた、そこで高嶺さんから提案があった。
試験が終わったら
一緒に旅行に行きましょう!
それまでは、あまり意識しないようにいきましょうと
二人とも今まで自分のペースで生きてきたんだ焦ることはないわ。
俺は高嶺さんの言葉に救われた。
どおしても男性から行かないといけないとか、リードしないとか、色々考えてダメになって空回りしていた俺を見かねての提案である。
なら、俺は高嶺さんとの旅行を楽しむ!
旅行は近場の温泉とありきたりである。
だが俺の懐事情では仕方ない。
お金も、割り勘である
移動も高嶺さんが車で乗ってくるので、男の見栄もなにもないのである。
一応俺も車の免許はある。だが車を持ってない。というか持つ様な余裕ある生活などしてきてなかったのだ。
レンタカー借りてきますよ。と言うと高嶺さんは、勿体無いです。
それに安井さん普段車運転してますか?私は営業で車のること多いので任せてください。
実は運転好きなんです。
どうにも頭が上がらないが高嶺さんなりに言葉の端々から優しさを感じる。
今は甘えよう。
振り返ってみると俺の人生で誰かに甘えたことはない。
だったら、しっかりした彼女に今は頼ろう。
だけど、その後しっかり返せる男になろう。
そのためにも、まずは今を頑張る!
それが空回りして冒頭の緊張につながっていく。
絶対に俺は高嶺さんを捕まえる。
俺のハートは火をつけている。
◇◇◇◇
試験が無事終わり
同じ試験会場にて実技で個別に時間が違うため高嶺さんを待つ間
筆記試験にでたところをふりかえり悩んだところをチェックしていく
よし!
最低限のボーダーの点数は取れてそうだ
実技を振り返る。
緊張はしていたが、お陰で頭が冴え割っていた。
大丈夫!
言い聞かせる
会場の出口に高嶺さんが出てくるのが見えた。
俺は手を振ると気づいた高嶺さんが近寄ってくる
「安井さん、私ダメかもしてません」
高嶺さんが自信なさげに俯く
「そんな、高嶺さんなら大丈夫ですよ。実技失敗されたんですか?」
俺は自分のことが、いっぱいで自分の彼女の心配をしてなかった。なんてことだ。高嶺さんなら大丈夫だと思いこんで甘えてばかりで、落ち込んでいる彼女にどおしたらいいんだ
そうだ!いつも彼女がしてくれてること
俺は高嶺さんの両手を自分の両手が包み込む
そして高嶺さんの顔を見るために顔を近づける
トン!
彼女に軽く突き放される
彼女は俺の顔を見ずに背ける
どおしたんだ高嶺さん、そこまで落ち込んでいるのか
俺は回り込んで高嶺さんをギューと捕まえる
ごほん!
「ご両人、ここは神聖な試験会場の入り口ですよ」
俺はハッとして今の状況を見る
試験会場の出入り口でキスを迫ろうとする彼氏と背ける彼女。背ける彼女をハグする俺
「うわ、いや、違います、これは、その!」
俺はあわてふたむき
顔を赤くした高嶺さんに引っ張っられて会場を離れていく。
「安井さん、その私が捕まえてと言いましたが、そおいうのは場所を考えてしてもらわないといけません」
高嶺さんが怒っている。
「すいません」
「もう!とても恥ずかしいじゃないですか」
「ごめんなさい反省してます。高嶺さんを落ち着かせようとして逆に迷惑をおかけしました」
「まったく、私が弱ってるフリをしたから悪いんですけど」
「弱ったフリ?」
「いえ、少し、心配して欲しいとか、安井さんの反応をみたいとか考えて‥‥ごめんなさい」
「では、試験の方は」
「多分ですが大丈夫だと思います」
俺は高嶺さんに抱きついてしまう
「安井さん、場所を移動したからいいというものではないです」
天界
ある部屋にてヘラとゼウスが話し合っていた
そこには今回の試験の合格者の個別の資料が並べてあった。
ヘラはゼウスと初めに話した
ゼウスの子供達の相談役を決める話し合いをすることになっていた。
ドン!
少し、荒く扉が開かれると一人の大男が現れた
「ゼウスよ久しいな!」
「ポセイドンではないか珍しいのう、お主がここにくるとは」
ゼウスが突然のポセイドンの訪問であったが強く手を握りあう。
「ああ、ゼウスが面白い事を考えてると小耳に挟んだので俺も話を聞かせてもらいたてな。突然だが天界に寄らせてもらった」
「流石の早耳だな、ポセイドンは!だが兄者が思うような話ではなく、つまらん事務的な話だぞ」
「どおかな」
意味深な顔をするポセイドン
どこからかドラムの音が部屋に響き渡る。
フハハハ!冥府の底より我現る!
ポセイドンの意味深な態度にいぶかしむゼウスであったが更に驚く人物が現れた
「漆黒の貴公子ハーデスである!」
「ハーデス、兄者もどおして天界に!」
ゼウスは驚いた顔で振り向いてヘラを見る
ヘラは微笑でゼウスを見る
何かを企んでいる時のヘラの顔である
ゼウスはヘラが二人を呼んだんだと悟る
「俺だけでなくハーデスお前もか、どおいう風の吹き回しだ!」
ポセイドンは、ハーデスを睨みつける
「我も今回の議題に出ている。ある男に興味があってな」
ハーデスはマントを翻してポーズをとる。
内心はポセイドンの睨みで怯んでいるのでポーズを取る事で誤魔化していた。
「あら、私も混ぜてもらっていいかしら?」
声のほうを振り返ると少し赤みがかった金髪の女性が扉に立っていた。
「アテナお主もか!?一体どうなっている」
「フフ父上、楽しい催しの企てを黙ってするのは、よろしくないわよ」
一同を見渡すアテナ。
ポセイドンと一度目が合うと、お互いフン!といい顔を逸らす。
「まあいい、隠すほどの内容ではないし、このメンツなら一度話を通しても問題あるまい。皆空いてる席に座ってくれ」
ゼウスが皆を席に促すとゼウスが座ろうとしていた座長席に誰かが先に座っていた。
「主役は遅れて現れるものよ!」
「お前は!」
「あなたは!」
「お主は!」
「貴様は!」
「「「「 ヘスティア!!!!」」」」
皆の声が揃う
「フフン!一番のお姉様の私を抜きに話を進めないで欲しいわね!」
「やれやれ久しく会ってない顔ぶれもある。何にしても家族が揃った。愛でたいことだ。積話もあるが、とりあえず議題の話を進めよう」
ゼウスはヘラの意図を読むためヘラの顔を一瞥するがヘラは相変わらず微笑を浮かべる
「ヘラよ、この分なら皆話をわかってそうだが計画を皆に説明してくれんか」
そこからヘラが今回の目的と趣旨を説明する。
「‥‥と言うことが今回の話です。それで始める事はもう決まってます。ただ、この資料にある人物全員に話を持っていくのではなく何人か候補を決めて行う予定です。良かったら皆さんも資料を見渡して候補を決めてもらいませんか」
ヘラが並べてる資料を皆に見てもらう
そこには今回の試験に受かった十二名のリストがあり、勿論安井と高嶺の名前もそこにあった。
皆資料を一瞥しながら頷きあっている
皆が資料を見終わったのを確認してから
「あなた、いいかしら?」
「ああ、決議を取ろう。せっかく兄弟が揃ったのだ。一斉に指差しで多いものを選ぼうではないか」
せーの!
ゼウスの声で皆が各々指を一斉に指す。
フハハハハハハ!!!
ゼウスの高笑いが部屋中に響くと
同じくポセイドンが高笑い
ハーデスもフッフッフッと笑う
つられてアテナもヘラもヘスティアも笑い出し
部屋中に笑い声が響き合う
「儂らは普段から仲が良い訳ではないし、いつも意見が割れてばかりじゃが、まさかこのように一致するとわな」
決まりじゃな!
「皆久しく揃ったのだ!宴にしようではないか」
こんな楽しそうなゼウスを見るのはいつぶりかしらヘラはゼウスを見つめる
「ハーデス!我が娘は元気にしておるか?」
ゼウスはハーデスを捕まえると肩に腕を回し捕まえる
ゼウスなりに嫁がせた嫁を気にかけてるみたいだ。
そこからは珍しく皆で楽しい宴が神の世界にて行われて天界に住まう人々は奇異の目でなにがあったのかと噂するのであった。
◇◇◇◇
神はかり会議
ゼウスが定期的に子供達を集めて行う会議である、
一時期はいい案もです。停滞が続いてた会議であるが
最近はゼウスに褒めてもらおうと意見が出る様になっていた。
普段は決して自分からは話さないゼウスが会議の冒頭から子供達に話しかける
「今回は提案議題が儂からある 」
子供達に緊張が走る。
父ゼウスからの提案である。それは提案であるが同時に決定でもある。どんな事を言われるのかと!
「我は子供達である、お前たちに責任ある世界の創造、及び調整を任せておる。責任ある仕事である、皆は大変だと思う。父は皆に感謝しておる」
父ゼウスは皆に会議の場にて頭を下げる
父上
ゼウス様!
父さん!
最高神様!
様々な呼び方でゼウスの名を呼ぶ
代表の息子アレスが皆の声を纏める
「父上、感謝の言葉など不要です。皆始祖より受け継いだ任務。もとより難しい事はわかっております。そんな偉大なる仕事を父上から授かり、とても責任ある任務であることは、ここにいる一同は理解しております。我ら一同父上の気持ちに感謝しております。必ず父上が納得する結果を出して見せます!」
「うむ、その言葉嬉しく思う」
アレスが代表して頭を下げる
「その責任ある任務に各々課題があると思う。そのため、その課題を相談できる相談所を設置していこうと考えておる」
ゼウスが手を挙げるとヘラが会議室に入ってきた
「詳細は私の方から説明するわ」
「ヘラ様!」
「この話はヘラが発案なのでな」
子供達は驚く普段ヘラは知恵者で神の世界に知れ渡ってはいるが決して、この神はかり会議には意見したという話は聞いた事はなかったからだ。
ゼウスの提案で知恵者のヘラの発案誰にも異論などなかった。
「ここに、皆の相談できる相談所を作る。それは神と人との新しい共同作業である。我はこれが新たなる可能性を生むものと考えている」
ゼウスは椅子より立ち上がる
今こそ始祖カオスに誓おう!
我々は新たな可能性を見つけるであろうと!
◇◇◇◇
何もない黒い虚無
その誓は違う次元に存在する始祖に届いていた
混沌は開いていた瞳を静かに閉じる
それを意味するところは誰も分からない神でさえも
◇◇◇◇
資格合格の日
俺は夢の世界に立つ
いつぶりかの白い世界
そこには二人の影が立っていた
流石に今の俺なら分かる
「お久しぶりです。ゼウス様と、もしかしたら平良さんでしょうか?」
「ふむ、お主には世話になった、ここは夢の世界ゼウスで良い」
「あら、よく分かったわね」
「何度か、こんな経験してれば、鈍い俺でも分かりますよゼウスさん、それと奥さんのヘラ様ですね」
ゼウスとヘラは顔を見合わせして頷く
「やはり間違いないな」
「ええ、彼なら大丈夫でしょう」
「なんのことでしょうか?」
「今日は安井に提案があってきた」
「相談ではなくて提案ですか?」
「まあ、座って話そう」
いつぞやみたいに応接間セットがでてくる便利である
早速対面で座るとゼウスさんが話を切り出す
「安井にキャリアコンサルタントの就職先の提案をしたい」
「私に就職の斡旋ですか?」
「その通りじゃ、実は妻のヘラが人間社会で派遣会社を立ち上げる予定じゃあ。これは秘密だが、そこで働く者に神も含まれる。そこで安井にはその会社の社員向けのキャリアコンサルタントとして働いてもらいたい条件は‥」
ゼウスさんが話した後ヘラさんが机に条件の書類を差し出してくる俺は黙って受け取り流して見る
夢であっても就職のお誘い正直嬉しい
認められることは素直に感謝の気持ちになる。実際転職を考えていたので、こちらからお願いしたいぐらいである。だがお給金は大事である。今後高嶺さんとの未来がある。
神との契約で加護だけでは残念二人での生活ができない。
条件を確認する
なんと、ざっと見ても今の給料の倍はある。
働く場所が都心なので少し遠いが勤務すれば高嶺さんの近くになる。通勤時間の問題があるが、このお給金なら引越しすれば問題ない。
時間帯も普通の勤務時間である。
前のように寝ている夢の時間や、休日ゆっくり過ごしている時間や、移動している時間に呼ばれる訳ではないようだ。
なら、俺の返事は決まっている。
ここに初めての神のキャリアコンサルタントが誕生する
◇◇◇◇
俺は夢を見た後にポストに採用通知証が入っていた。
どうやら先ほどのやり取りは夢でなく本当のようだ
俺は急いで高嶺さんに先ほどの事を伝えるため電話する
「おめでとうございます。安井さん、良かったですね。しかもこれで私の近くに職場も家も移ってくるんですね。私嬉しいです!」
「ありがとうございます。高嶺さんの近くに行けるのは俺も嬉しいです」
本当にいい話だと実感したところで冷静になる
俺はゼウスさんと一度面識があったから声をかけられたのは分かる。だが成績は、他の人に各段優ってると考えるほど自惚れてない。高嶺さんにも当然負けてるだろう、では当然高嶺さんにも声をかけられるのではないかと考えに至る。なに自分だけだと思ったんだ恥ずかしい。
「高嶺さんは誘われてたんでしょうか?」
「いいえ、私は誘われていません。安井さんだから声をかけられたんだと思います」
それは、真っ直ぐな声だった。
確信に満ちていた。
「私、安井さんが認められて嬉しいです」
俺は高嶺さんに出会えた事を神に感謝した
やばい涙出そうだ
「それに、実は私違う事をしようと考えてます」
「ええ、違う事って何ですか!?」
「私、アイドル育成会社を設立します」
俺は驚いて声が出ない
「ヘスティアちゃんを日本一、いえ神の世界一番のアイドルにします!」
はは
「いい考えですね。応援しますよ」
「はい、応援してくださいね」
どおやら、これから忙しくて賑やかな色鮮やかな日々がやってきそうだ。
日々が楽しみなんて、なんて素晴らしいのだろうか
出会った神様達に感謝の言葉を告げてゆく
悩みは尽きない、だけど悩みは未来の始まりなのだから
これで話は一度区切りとして終わります
読んでくれた方々ありがとうございます。
これから本編を整理してから
サイドストーリーとして
高嶺のアイドルプロデューサーと
安井が神のキャリアコンサルタントととして働く話を分けて書いていくつもりです。
ありがとうございました