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時雨の宵
時雨の夕暮れが過ぎて
残っていた西日の気配が流されていく
世界が夜になる時間
静寂は空から霧のように
音もなく降ってくる
梢に、電線に、住宅地に
遠くの山に、田畑に
宵の闇が満ちていく
海から雨雲が絶え間なくやってきて
誰も気づかないうちに
空模様が変わる
晴れから雨へ
わたしも、あなたも
知らないうちに時を刻んでいる
その年輪はあなたの風貌を少しだけ変えて
こころに深く刻まれている
雨上がりの夕暮れ
雨に沈む街並みが照らされて
それがこんなにも美しいのは
昔の幸福にも似た
秋の終わりの記憶が
梢の葉となって夕風に揺れるから
かもしれない




