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水棲生物からの手紙
昏い、沼の底から
見ていた
水辺には、水仙
冬にだけ日が差して
水底の泥も照らされている
ある穏やかな小春日和のこと
凧が一枚、水面を
通り過ぎて
着水した
季節外れの蝶のように
浮かべたのは
微笑み
きれいな絵がらの
凧だった
水が沁みていく
沈んでくる
こちらへ
落ちてきたら宝箱に入れて
黄色の落ち葉で飾って
大切にしよう
そう思って
待っていた
すると
ちいさな手がひとつ
拾っていった
つまらないなと
見送って
水底に戻りながら振り返ると
真白い冬のさなかの空を
雲がゆったり流れて
凧が一枚上がっていて
楽しそうだったから
凧は風とともだち
それでよかったんだ




