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紗和さんの縁談

「その子はどんな子なん?」

「優しくてしっかり者で可愛くて…

絵がとても上手で、素敵な女性だよ。」

「そう。」

「いつか彼女と…結婚したいと思ってる。」

「今度、その子を連れて来て頂戴ね。」

「うん。」



翌日、家の手伝いをしながら、

母と妹と一緒に過ごしました。

久し振りにゆっくり休むことが出来た気がします。


そして、今日は三宮に向かいます。

やっと…紗和さんに会う事が出来ます…!!


「昴。どうか気を付けて。」

「うん。」

「お兄ちゃんが留守の間は任せて!!」

「おぉ!頼もしくなったなぁ!晴子!」

「だから安心して行って来てね!!」

「ありがとう。行ってきます!」



三宮に着きました。


「……」


分かっていた事ですが、空襲で多くの家や建物が焼けていました。

私が通っていた学校も焼けてしまっていましたが、他の家や建物に比べると造りが丈夫だったのか、形は残っていました。


手紙によると、以前暮らしていた家は焼けてしまったとの事なので、少し離れた所で暮らしている様ですが…。


「住所によると…ここか。」


何か話し声が聞こえます。



ノックをしても、反応がありません。


「すみません!昴です!!」


呼び掛けると、暫くすると綺麗な着物を着たおかみさんが扉を開けてくれました。


「昴くん、久し振りやね!」

「はい。お久し振りです。

…あの…、何かおめでたい事があったんですか?」

「あぁ…、浩二くんからは聞いてないのね。

その、ね…。」

「??」

「紗和ね、今お見合い中なんよ。」

「!!!」

「だから、ちょっと待っていて頂戴ね。」

「………はい。」


おかみさんに案内された部屋まで、

話し合いの声が聞こえます。

ですが、何を話しているのかまでは聞き取れなくて…

私は聞き耳を立てました。


『私なら、紗和さんの夢を叶えてあげられる。それに私の別荘は兵庫の綺麗な山奥にある。ここにいるよりも、空襲の危険は少ないと思うんだが。』

『…私は、もう夢は諦めました。』

『君の絵を何枚か見せてもらった。

夢を諦めるなんて、勿体ないじゃないか。』

「(確かに、この人の言う通りだ。

でも…)」


『…添い遂げたい相手がいるんだって?

確か彼は軍人だったか。』


『…はい。だから、あなたとは結婚しません。帰って下さい!!』

『せやで兄ちゃん!!紗和ちゃんは最初からあんたと結婚する気は無いって…』


『紗和さん、未亡人にはなりたくないだろう?』


この人は、遠回しに

“そんないつ死ぬか分からない相手より、

自分を選んだ方が良い”

と言いたいのでしょう。


「………」


何も反論出来なくて、悔しくて、

壁を思い切り叩いて部屋を飛び出しました。


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