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紗和目線の物語③

1942年3月。

昴さん達は学校を卒業し、お国の為に戦う事になりました。

今、母にその事を報告している所です。

どうしても、昴さんが戦争に行く現実を受け入れたくなくて、私は画材道具を持って、

秘密の場所へ行きました。


ここで、初めて昴さんとお出掛けした時の絵を描くことにしました。

絵を描けば、私の中の邪悪な思いが消えると思ったのです。


でも、駄目でした。

描けば描くほど、昴さんとの思い出が蘇って…。

浩二くんに対する気持ちとは、

また違う気持ちが溢れて止まらないのです。


「(昴さん、好き。大好き…!!)」


「凄いなぁ…」

「うわぁあああ!!!??」


心臓が止まるぐらいびっくりしました。


「す、昴さん…!!」

「ごめん…。驚かせるつもりは無かったんやけど…。」

「うん…」

「絵、めっちゃ上手やね。」

「あ、ありがとう…!」


そう言えば、昴さんに絵を見せたのって初めてでした。


「この絵の人達って、紗和さんと…僕?」


こくりと頷きます。


「な、何か…随分男前やけど…!」

「昴さんかっこいいもん。」


正直、私の技術では、昴さんの顔を再現するのが難しいです。

肌の色とか、目の色とか…。


「その…ありがとう…。」



「そう言えば、どうしてここに?」

「あぁ、紗和さんを探してたんや。」

「何か用事?」

「用事と言うか…報告したい事があって。」

「うん。僕、無事に学校を卒業する事が出来たねん。」

「!!」

「来月から、お国の為に軍人として戦う。」

「…そう……」


紗和、泣いちゃ駄目。

お国の為に戦う彼の前で、涙なんか見せちゃ駄目!!

…と何度も念じても、勝手に涙が流れます。


「おめでとう。」


何とかお祝いの言葉を伝えました。


「紗和さん」

「な、なに…」

「さっきから、どうして目を見てくれへんの?」

「……」


言える訳が無いです。

昴さんが好き。戦争に行って欲しくないなんて…!!


「見んといて!!」

私は画材道具を持ち、

その場から走って立ち去ろうとしました。


「待って!!」


でもすぐに昴さんに捕まってしまいました。


「離してよ…!」

「紗和さん、どうして逃げるん!?」

「だって…!!」


「だって、これ以上昴さんといたら、言ったらあかんこと言っちゃいそうやもん!!」


昴さんは、優しく涙を拭ってこう言ってくれました。


「紗和さん、今ここには僕と君しかいない。紗和さんが泣いている所を見るの、

僕も辛いから、話してくれへん…?」

「……」


私は、勇気を出して伝える事にしました。


「私、昴さんが好き…!!」

「!!」

「だから、兵隊さんにならないで…!!

戦争に行かないで…!!」

「……」


気が付けば、私は昴さんの腕の中にいました。


「!!」


彼の行動に驚いて、固まってしまいます。


「ありがとう。

僕も、紗和さんの事が好きや。」

「昴さ…」

「でも、君の願いは聞けへん。

ごめんなぁ……」

「………」


彼が戦争に行くのを辞めないのは、

分かっていました。

でもまさか、昴さんも私の事を好いていてくれるとは思いもしませんでした。

それが本当に嬉しくて、彼の背中に腕を回しました。

「(このままずっと、昴さんとこうしていたい。)」

心からそう思いました。



「紗和さん、もうすぐあの寮を出るねん。」

「そう…。そう、やんね。

あれは学校の寮やもん。」

「どこに配属になるか分からへんけど、

絶対に手紙を書くから。」

「…うん。」

「紗和さんも、出来たら返事を書いて欲しい。

それが、生きる希望になるから。」

「うん、書く!」

私は即答しました。

そして、今度は私から昴さんに抱き着きました。

彼はそれを、優しく受け止めてくれました。


「そろそろ戻ろうか。」

「うん…。」


幸せな時間はあっという間です。

とても名残惜しいですが、山を降りるまで、手を繋いでゆっくり降りました。



昴さんと思いが通じて1週間程経った頃、

松本洋裁店が閉店する事を莉子ちゃんから聞きました。


「え…」

「戦争が続いて、経営が厳しいねん。」

「そう…。」

「でね、私、春から従軍看護婦になるねん。」

「え!!」


どうやら、私が東京で絵の勉強をしている時に、莉子ちゃんもお店のお手伝いをしながら従軍看護婦になる勉強をしていたそうです。


「莉子ちゃんも、戦争に行っちゃうんだ…。」


昴さん、浩二くんだけじゃなくて、莉子ちゃんも…。


「ごめんね。中々言い出せへんくて。」


莉子ちゃんが決めた事ですから、

私には何も言う権利はありません。


「出発の当日、お見送りに行くから。」

「うん。ありがとう。」

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