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旅立ち

この小説は、「ノベルアッププラス」にも投稿しています。


正直に申し上げますと、私は戦争を経験していません。

周りにも、戦争を経験された方が殆どいません。

そんな私ですが、第二次世界大戦中の軍人さんの生活、気持ち等が気になり、小説にしてみました。

史実を元にはしていますが、間違えている所が多々あります。

ご了承いただけると幸いです。


追記(2024/02/15 18:34)

主人公の年齢が1940年で16歳にならない事に気が付きました。


訂正前

1927年、昭和2年6月7日


訂正後

1924年、大正13年6月7日


追記(2024/09/04 21:21:46)

最初の部分を変更しました。

この時期になると思い出します。

命をかけて戦ったあの時を。燃えるような恋をした日々を。

終戦からもう何十年と経ち、私も老人となりました。

これから先を生きる若い方々に私の体験、願いと希望を知って貰いたく、筆を取りました。



私は1924年、大正13年6月7日に

兵庫県の北の方で生まれました。


「母さん、晴子、お国の為に戦いに行って参ります。」


1940年、16歳になった私は、軍人になる為の学校、陸軍少年飛行兵学校に入学する為、故郷を離れました。


「昴、どうかご武運を…」

「お兄ちゃん…」

「晴子」


泣きそうな顔で、ぐっと耐えている妹の頭をくしゃくしゃと撫でました。


「お兄ちゃんがおらん間、母さんの事を頼んだで。」

「…っ、うん…!!」

「そうだ昴、これを」


母さんが渡してくれた包を開けると、私の大好きなおはぎが入っていました。


「母さん…!!ただでさえ食料難なのに。貰えへんよ…!!」

「ええんよ。晴子と一緒に作ってん。汽車の中で食べてな。」

「…うん…!ありがとう…!!」


この時に、母と晴子から貰ったおはぎの味は、今でも鮮明に思い出すことが出来ます。

…少し、しょっぱい味がしたことも。



私が向かった先は、三宮。

兵庫で最も栄えている町。

汽車を降りた途端、生まれ育った故郷とは全く違う世界に、私は驚きを隠せませんでした。

地図を見ながら、学校の寮の場所を探す。

【三ノ宮第二寮棟】

これが私が暮らす寮の名前です。



地図を見ながら寮を探します。


「えっと…こっちか?」


地図に集中していたからか、その時の私は前方不注意の状態でした。

ドンっと何かにぶつかる感覚がありました。


「!!?ご、ごご、ごめんなさい!!」


ぶつかったのは、同じ歳ぐらいの軍服を着た少年。


「あ、あの!!どこか怪我したりしていませんか!?」

「大丈夫大丈夫!!毎日鍛えてるんやから、これぐらいで怪我せぇへんよ。」

「本当にすみません…。僕、田舎から来たばっかりで…」

「もしかして、三ノ宮第二寮棟を探しとるんか?」

「あ、はい!!この春、陸軍少年飛行兵学校に入学する事になりました!!」

「なんや、俺と同じやん!ついて来ぃ。案内するから。」

「え?、え??」



「俺も、陸軍少年飛行兵学校に入学する為にここにいるねん。」


少年に案内され、寮に向かいます。


「そういや自己紹介してなかったなぁ。俺の名前は米田浩二。」

「僕は田中昴。」

「歳が近いやろから、もっと気軽に話してな!」

「うん!!」


三宮に来て、初めて出来た友人の彼。

私はこれから、彼に何度も助けられる事になります。


「しかしなぁ…。田舎から来たとはいえ、これから軍人になるってのに、方向音痴なのはどうかと思うで〜」

「うっ…」

「なんてな!!これから嫌って程鍛えられるやろ!!」



寮は4人部屋でした。


「まさか米田くんと同じ部屋やなんて。」

「ほんまな!!」


部屋には既に2人いました。

彼らの名前は長谷川進と白川稔。


「よろしく」

「よろしくね!昴くん」

「こちらこそ!」


長谷川くんと白川くんと、握手を交わしました。



この寮には寮母さんがいました。

皆は寮母さんの事を

『おかみさん』

と呼び、実の母親の様に慕っていました。


「さ、ご飯出来たよ!!」


食べ盛りの私達は、おかみさんが作ってくれた料理を一瞬で平らげます。

食料難の中でも、一生懸命栄養を考えて作ってくれた料理。

あの味を忘れる事はありませんでした。


「あら、あんた、初めてみる顔だけど…」

「はい。今日からここでお世話になります。田中昴です。」

「あらまぁ!えらい美形の子やないの!!いやぁ…私があと20歳若かったら…」

「え?」

「何言ってんねんおばちゃん(笑)」


おかみさんは、とても賑やかな方でした。

戦争が激しくなっても、笑顔を忘れない方でした。きっと、私以外にもおかみさんの笑顔に救われた兵士は多かったでしょう。


寮に入り1週間程経った頃、入学式が行われました。


「(あぁ、本当に軍人になるんだ…!!)」

「全員解散!!」

「はっ!」

これから厳しい訓練、勉強が始まります。



「田中!!的にかすりもしていないじゃないか!!」

「も、申し訳ありません!!教官!!」

「おい、あれを持って来い」

「はい」


パチーンという音が、訓練所に響きました。


「っっっっ!!!!」


学校では、体罰が当然の様にありました。

先輩からも殴る蹴るをされる事が多かったです。覚悟はしていましたが…


「いって…」

「大丈夫か?昴」


長谷川くんが私を心配して、そばに来てくれました。


「何とか…」

「ちょっと待ってろ。手当するから。」


長谷川くんは、ポケットから応急処置の道具を取り出した。


「いつも持ち歩いてるん?」

「ああ。年子の弟がいてな。

よく怪我するからいつも持ち歩いてるねん。」



「“勤”っていう名前なんやけだけどな…。

小さい頃から『兄ちゃん兄ちゃん』って

俺の後ろをついて回っててん。」


長谷川くんの言葉に、妹の晴子を思い出しました。


「『飛行機の整備士になる』って言って、勉強しているねん。」

「そうなんや。長谷川くんは、弟ととても仲が良いんやね。」

「ああ。」

「昴くん!!」


長谷川くんと兄弟の話で和やかな気持ちになっていた所に、救急箱を持った白川くんが走って来ました。


「白川くん!」

「あ、もう手当したんやね。」

「もしかして、手当しに来てくれたの?」

「う、うん。出遅れちゃったけど…」


私と長谷川くんは、白川くんの頭を撫でたり、頬を指で突いたりしました。


「え?え!!?何!?」

「ありがとうね!!白川くん!!」


私がとても辛い訓練を耐えて乗り越える事が出来たのは、彼等の存在があったからだと思います。

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