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汝、闇より生まれしもの

作者: 空川 億里

 夜の闇を切り裂くように、大地が揺れた。震度3ぐらいだろうか。

 この惑星の、このあたりの地域は地震が多い。彼方にネオ・チョモランマの勇姿が黒々と見える。

 地球にあるチョモランマという山から名前をもらったそうなのだが、俺は地球に行った経験がないので、本物は見た試しがない。

 だから本物に似てるかどうかもわからなかった。

 俺達の部隊はテントを張って休んでいる。

 今夜は曇っているために、晴れていれば宝石のように夜空に無数に散らばるはずの星達も、2つの月も目に映らない。

 朝になったら首都に向かい行軍を再開する予定だ。別に行きたくもないが、そういう指示が出ている。

 クーデターを起こした連中から首都を奪還するためだ。

 長い行軍で、俺も含めて皆が疲れ果てていた。

 この惑星は元々は無人であったが地球に環境が良く似ている。

 そのため人類の故郷から移住した人々が都市を造り植民地として発展したのだ。

 その後地球から独立し民主共和制を敷いていたが、軍の一部の集団がクーデターを起こし、首都を制圧したのである。

 軍はクーデター派と民主共和派に分かれて内戦状態になっていた。俺は民主派について、戦ったのだ。

 同じ惑星の住人同士で殺しあうのは気が滅入る状況だった。次々に倒れてゆく戦友達。鼻を突く死臭と火薬の臭い。

 耳を聾する銃声と爆音と戦闘機の飛来音。悲鳴をあげて逃げ惑う人達。血まみれの遺体。

 精神を病んで銃を乱射する兵士。戦場は想像以上の地獄であった。

 俺は別に兵士になんて、なりたくてなったわけじゃない。

 極貧の家庭に育ち、大学に行く金も頭脳もないので、何となく軍隊に入っただけだ。

 体だけは、子供の頃から頑健だった。

 とは言えまさか、本物の戦乱を経験するとは予想もしなかった。

 地球から独立してから100年以上ずっと平和だったから。

 暗視ゴーグルなんて大層な物は支給されていないので、夜はテントで寝るしかない。

 が、その方が良いのも確かだ。夜間まで行軍なんぞやりたくない。

 昼の戦闘で気がたかぶりなかなか寝つけなかったが、左の耳の穴にさしていたミニメディアから流れてくるリラクゼーションミュージックと慢性的な疲労のために、いつしか遅ればせながら、深い眠りに落ちてゆく。

 やがて、そんな眠りを破る何かが起きた。異様な気配に勘づいて、俺は目覚め、体を起こす。恐る恐る外を見る。

 月も星も見えない闇が、どこまでも続いている。

 いびきをかいている仲間達を後にして、こっそりとニンジャのような忍び足で、外に出た。

 近くに立っているはずの、歩哨の姿が周囲に見えない。

 左手の指にはめたフィンガーライトで地面を照らすと、歩哨をするべき兵がそこに倒れていた。

 かがみこむと、すでに息をしていない。

 体にさわるとまだあたたかく、死後硬直は始まっていなかった。

 つまりは少なくとも、死んでから2時間は経過してない。そんな事を知るようになったのも軍隊に入ってからだ。

 倒れた兵士の首の後ろに穴が空き、そこから血が流れている。穴の周囲は焼け焦げていた。レイガン(光線銃)で撃たれたのだ。

 不意に背後で殺意を感じて、咄嗟に俺はその場から走る。

 そしてすぐ後ろを向き、フィンガーライトをそっちに浴びせた。そこには、異形の者がいる。

 身長は俺と同じで170センチぐらいだろうか。全身が墨で塗られたように真っ黒だ。

 まるで夜の闇その物を切り取って作られたようである。顔の両側にある耳はラッパのように大きく広がっていた。

 顔の中央にある鼻は、ブタのように大きくて、突き出している。

 俺はフィンガーライトの強い光をその顔に浴びせたが、奴さんは期待を裏切りちっとも眩しそうにはしてない。

 それもそのはず。その顔には目がないのだ。事故や怪我で失ったわけじゃなさそうだ。

 元から存在しないように見えた。

 俺は相手が何者かを思いだす。ズランク人だ。ズランク星に行った経験はないのだが。

 かれらの先祖には目があって、俺たち地球人の末裔とあまり変わらない姿をしてたらしい。

 が、遥かな昔ズランク星に巨大な隕石が衝突すると惑星の自転が止まり、なおかつ太陽から遠ざかる方へとズランク星は弾かれたのだ。

 隕石はそれ以降永遠の昼となる側にぶつかったため昼側に住んでいたズランク人と、地球の19世紀レベルまで進んでいたかれらの文明も絶滅した。

 なんとか生き延びた夜側のズランク人は、とこしえの闇に生きるうちに、目が退化してしまったのである。

 だがその代わりに聴覚と嗅覚が発達したのだ。

 やがて地球の探査艦がズランク星を訪れ、その存在があまねく銀河に知られるようになったのである。

 今夜のような闇の中でも行動できるズランク人は、その一部が銀河中の紛争地域に引き抜かれ、兵士として活躍していた。

 対面にいるズランク人の手にレイガンが握られていた。その銃口が、こっちを向く。

 俺はよけながら、自分のレイガンの引金を引いた。が、よけたのは奴も一緒で当たらなかった。

 俺はベルトのスイッチをオンにする。次の瞬間、自分の周囲に透明なシールドが張られた。

 刺客はさらに銃を撃ってきたが、筒先から放たれた見えないビームはシールドに当たり、俺は無事である。

 レーザーや銃弾のように高速で接近する武器は、全てはねかえしてくれるのだ。

 ただしこの見えない障壁の効力は地球時間で3分しか持たない。

 まるで20世紀の古典特撮ドラマ『ウルトラマン』みたいな設定だ。このドラマは1960年代の地球で製作された子供向けの作品だった。

 ちなみに22世紀の今も、シリーズ新作がホロテレビで放映されていた。

 最新のシリーズが100番目のシリーズだったと思うが、覚えてない。

 俺は、さらにレイガンの引金を引く。今度は当たるかと思いきや、向こうもシールドを張っており、はねかえされた。

 俺は自分のベルトに装着したプラズマ・ソードの柄をつかむ。

 それは通常柄の部分しかなかったが、ベルトから外して柄についたボタンを押すと、青いプラズマの刃が伸びる。

 シールドは高速で飛んでくるビームや銃弾ははねかえすが、プラズマ・ソードの攻撃は、よけられない。

 相手のズランク人も、自分のプラズマ・ソードを構えた。

 次の瞬間俺の剣と奴の刃がぶつかり合う激しい戦いに発展する。

 敵は全く目が見えないに、正確に俺に対してプラズマ・ソードを繰り出せるのにはびっくりする。

 残念ながら腕前は、相手の方が上だった。次第に俺は、追いつめられる。じりじりと後退せざるを得なかった。

 剣を持った右腕が疲れきり、棒のようになってしまう。

 さらにソード同士のぶつかり合いがあり、俺の手から剣が離れ、地面に落ちた。絶望のため一瞬目が真っ暗になる。

 丸腰になった俺を斬ろうと、ズランク人が左右の手で剣を構え、上段から振り下ろそうとする。

 その時だ。俺は咄嗟の判断で、左耳にはめたミニメディアを外すとスイッチを入れ、お気に入りのハードロックを最大ボリュームで流した。

 これはかなり効いたようで、敵はソードを手から離すと、両耳を両手で押さえる。

 落下した、奴の剣を拾いあげると、俺はソードを横ざまになぎはらう。

 ズランク人は腹のあたりで上下に斬られ、赤い血を流しながら、二つの肉塊が落下した。

 意外なアイテムが役に立ったものである。

 この頃になると騒動を聞きつけて、寝ていた仲間が起きはじめ、銃を構えてテントから飛び出していた。

 ズランク人の刺客は他にもいたが仲間に撃たれたり逃げたりして、やがて姿が見えなくなる。

 再び耳の穴に差し込んだミニメディアからは、人生の勝利をつかめと絶叫するハードロックが流れていた。

 この調子で、戦にも勝ちたいものだ。


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