4
漫画では朝霧の乙女が解いてくれた呪い………。でも、呪いが解けなかった。
(原作者の言っていた事は本当だったんだ)
他のキャラより先にノワールさまの呪いを解きに来たから彼は信用した。
「なんで……どうして……」
ぶつぶつと信じられないと呟いている朝霧の乙女の横をすり抜けて、そっとベッドの端に腰を下ろす。
「ノワール様……私では……」
呪いは解けないのにと口付けするのを躊躇うと。
「レイナは僕のことを嫌っていないでしょ。だから大丈夫」
何が大丈夫なのかと聞きたかったが、ノワール様がそういうのならとあっさりと動き出して額に口付ける。
ああ、久しぶりの感触だ。
ノワール様に前世の記憶の事を話した時から、私が呪いを解けるといいのにと思って試した時から、ノワール様に求められている時からずっと思っていた。
私が朝霧の乙女だったらよかったのに。
呪いが解けないことを何度も何度も何度も試してその都度悔しい想いをした。それ押し隠して本当につらいのはノワール様だと言い聞かせた。
それなのに朝霧の乙女は呪いをとけなかった。
「…………」
そっと口を離す。
「…………」
奇跡は起こせなかった。
漫画の朝霧の乙女の様にまばゆい光と共に蔦が枯れていくのを期待したが、やはり私は朝霧の乙女ではなかったのでそんな奇跡は起こせない。でも、
「蔦が減っている……」
足の踏み場もなかった蔦が少しだけ減っている。
「ああ。確かに呪いは消えないが」
ノワール様の目が緑と黒というオッドアイになっている。呪いの影響で王族の証である黒い目が緑になっていたはずなのに。
「嘘よ……朝霧の乙女が、あたししか呪いが解けないのに」
「呪いの解除方法は確か……15歳になった時に額に口付け。だったよね」
蔦が減ったのでしっかり見えるノワール様の顔。自分の意志では腕が思うように動かせなかったノワール様が顎に手を持っていき、
「それって、朝霧の乙女じゃなくてもよかったのでは」
「そっ……」
「そんなはずないわよっ!! あたしが口付けて呪いが解けるはずよっ!!」
嘘よと喚いてノワール様に近付くレーファの言葉は私の心の声を見事代弁してくれていた。
「でも、君では僕の呪いを解けなかったけど」
ノワール様の言葉にレーファが一瞬言葉が詰まっているが、
「も、もしかして額ではなく唇だったかもしれません!! きっとそうです!!」
必死に自分の考えを告げているレーファにノワール様はどこか静かな湖畔を思わせる眼差しを向けて、
「――じゃあ、君は僕に口付けられるの?」
「っそ、それは……」
そこは出来ると言うのではないかとレーファの態度を見て、怒りが沸き出そうになったが、ノワール様の手がそっと背中に触れられたので冷静に戻れる。
「出来ない事を【もしも】でも言わない方がいいよ。朝霧の乙女の力は僕には無理だった。それだけの話」
無駄足を踏ませたねというノワール様の言葉に悔しげに口を歪めている。
朝霧の乙女とその仲間たちが去って行くのをじっと見て、
「………よかったのですか?」
不安になってノワール様に伺うと、
「呪いがあってもなくてもレイナは傍にいてくれるだろう」
「当然です!!」
はっきり告げるとノワール様は笑って、
「ならそれでいいんだよ」
と告げてくるのだが、本当に良かったのか心配だ。
「レイナに口付けされるならいいけど、あの子には二度とごめんだからね」
「えっ?」
何かとんでもないことを言われたような………。
「はっきり告げた方がよかったかな」
蔦が伸びて私の身体をノワール様の方に引き寄せる。
「の、ノワール様っ!!」
「呪いの影響なのか植物ならある程度操れるし、植物を通して声も聞こえるんだ。秘密にしていたけど」
と楽しそうに説明して、私を膝に乗せる。
「レイナ。僕は君が好きだよ。君が気にしないと言うのならば、呪いがあるままでも大丈夫だよ」
君はどうと聞かれて、
「私も……ノワール様が不自由でなければ……」
とずっと黙っていた本音を告げたのだった。