3
ぞろぞろぞろと朝霧の乙女の集団が廊下を歩いている。
「ノワ……呪われた王子様はどこにいますか?」
ノワール様の名前を知っているのがおかしいので言い直す朝霧の乙女に、
「では、案内します」
ちょうど今から食事を届けるところだったのだ。こちらですと先導しようとすると、
「世話人の娘がまだいるのがおかしいのよね」
とじろじろと見られて小声で呟かれる。
そういえば、漫画ではノワール様の世話をしていたのはお父さんとお母さんだけで私が居なかった。私はどこに行っていたんだろうか。
(あの漫画の途中までしか知らないからね)
読むのを止めたのかその前に亡くなったのか覚えていないが。
「日本食ね………」
朝霧の乙女――レーファの呟きにやっぱり前世日本人なんだなと思ったが、レーファの後ろにはぞろぞろと彼女の仲間が居るので尋ねる事も出来ない。
レーファはすごいな漫画よりも多くの人を救い出しているとちらっとレーファの仲間に視線を向ける。
(あれっ?)
数人の仲間を見てふと気づいてしまった。
暗殺者の姉妹が仲間にいないのは彼女達が呪いが解けたノワール様を狙って送られる設定だからだろうけど、ところどころいないキャラが居る。
タイミングの問題だろうけど……奴隷商に攫われる直前に助けて仲間にするキャラいないな。
というか………仲間になる女の人が少ないような……。
う~んと首を傾げてしまうが、ノワール様同様他に救わないといけないキャラが居ると思って後回しにしたんだろうか。
………助けたい方が多いので助けに行こうと思う事はすごい事だと思う。思うけど、ノワール様を後回しにされてもやもやとした気持ちがある。
「――こちらです」
もやもやした気持ちのまま進んでいき、ノワール様の部屋の前で立ち止まる。
「ノワール様。レイナです」
ドアをノックして声を掛ける。
「レイナ。余分な人たちがいるみたいだけど」
ドア越しなのに人の気配が多いのに気づいたのだろうノワール様の声に答えようと口を開いたが、
「初めましてノワール様っ!! あたしは朝霧の乙女のレーファと言います!!」
押しのけるように自己紹介をするレーファにどう反応すればいいのかと目をぱちくりさせてしまう。
「………レイナ。他の人は入れなくていいから入ってきて」
呆れるような溜息と共にノワール様が告げるのを聞いて、レーファとレーファの仲間たちが信じられないと顔を歪めるが、
「ノワール様はお食事をしますので、それが終わってからなら大丈夫かと」
あくまで憶測ですがと伝えるとそっと中に入る。
「そんな訳ないわ!! 一刻も早く呪いを解いてもらいたいはずよっ!! 食事なんて後回しにして」
「――もし貴方でしたらその呪いの掛かった様で食事をするのを見せたいですか?」
ノワール様の魅力は呪いがあってもなくても同じなのだが、あえてそう悪く告げると、
「そっ、それでも……」
必死に反論しようとするのを相手せずに中に入る。
「ノワール様。申し訳ありません」
ノワール様が傷付くようなことを告げてと謝罪すると、
「いいよ。僕はレイナに声をかけていたのに割り込んできたし、こっちの意見を無視しようとするからね」
ノワール様の声に合わせるように蔦が蠢く。
「朝霧の乙女だっけ? 今部屋の外にいるのは」
「はっ、はいっ!!」
呪いを解いてくれる方ですと声なき声で告げるとノワールの緑色の目がじっとこちらを見ている。
「ノワール様……」
呼びかけるがノワール様は答えない。どうしたのかと首を傾げていたが、もしかして本当に呪いが解けるか心配になったのかと気付いて、
「大丈夫です!! ノワール様の呪いは解けますよっ!!」
だから安心してくださいと胸を張って告げると、ノワール様は一瞬予想外のことを言われたと言う感じで若干驚いた顔になる。
「ああ。そんな事は心配していないよ」
にこりと微笑まれて、
「そんな事。ですか……? なら、何が気になったんですか? 心配していたというならそれ以外が気になっていたという事ですよね」
不思議に思って尋ねるとノワールは少し考えて、
「秘密。かな」
と口元に指を持っていき微笑む。その微笑みに見とれてしまう。
「秘密って……」
見とれてしまって反応が遅れてしまった。
反応が遅れている間にノワール様は蔦を操り食事を手元にもっていき、食事を進めていく。
「うん。レイナの作る卵焼きはやっぱり美味しいね。この前試しに作った納豆というのも美味しかったし……もっと作らないの?」
「あっ、あれは私とノワール様は好きでしたが、お父さんたちに評判悪くて……」
条件反射で答えて、そうじゃなくてと慌てて何かを言い掛けるのだが、
「ノワール様っ⁉」
「さて、食べ終わったから。――呼んでもらおうか」
蔦がノワール様の身体を拘束していく。だが、その見慣れた光景も今日が最後なのだ。
(呪いが解けたらノワール様はヒロインと……)
ズキッと痛む胸の痛みを気のせいだと片付けて、
「すっ、すぐに呼んできます!!」
と返事をしてドアを開けた。