朝霧の乙女
朝霧の乙女と呪いの子という漫画があった。
ある日朝霧に乙女になったレーファが呪われた王族であるノワールの呪いを解き、その後様々な人々を救う作品。
あたしがその作品に転生して、しかもヒロインのレーファだと気付いた時心の中で小躍りをした。
あたしが朝霧の乙女なら物語で死んでいるキャラも助けられる。
弟を庇って死んでいるキャラも。
王族の無理な命令で部下を逃がすために殿になった某将軍も。
諸々のキャラを助けられると思ったのでただ寝て待っているだけの呪われた王子は後回しで先にそちらに手を回した。
だって、寝ているだけの呪われた王族よりも助けないといけないキャラが多いのだから。
(15歳の時に額に口付けするだけなら簡単でしょう)
死ぬわけではないし。
そんな事を考えて朝霧の乙女としてすべき事を行ってきた。助けられたキャラ達がお礼を言ってくれるのが嬉しかったし、一緒に旅をする仲間が増えるのが頼もしかった。
それに。
(みんながヒロインを好きだったのは漫画で見ていたけど、それを感じるのは嬉しいなぁ)
ヒロインは鈍感キャラだったし、ノワールがメインヒーローだったから他の男の子は眼中になかったけど。
某将軍も。奴隷の獣人も。病気だった兄弟もみんなみんなあたしの事が好きであたしに特別な相手として見てもらえるように頑張っているのを見ると心が躍る。
「呪いを解いたらノワールも一緒に旅をするんだよね~」
漫画だとノワールは最初に旅する仲間で、ずっと屋敷にいたから世間知らずという設定だったからいろいろ旅が大変だったけど、旅慣れしている仲間も一緒だし、表に出てきては困るからと暗殺者が送られてくるだろうけど、すでにあたし達の知名度が上がっているから暗殺する事も出来ないだろうからラクショーよね。
「楽しみだな~。まあ、呪いでぼろぼろの姿で口付けるのはきつそうだけど」
誰もいないから言える本音。
漫画の時にぼろぼろ状態のノワールの一枚絵を見た時はかなり怖くて気持ち悪かったので口付けするヒロインはすごいなと感心したものだが、そのヒロインに自分がなるとは思わなかった。
「見た目酷くてもキスすればすっごいイケメンになるのだから頑張れば耐えられるよね。キスした後の感謝して、微笑んでくれる様はすっごく良かったんだよね~」
いわゆるギャップ萌えというやつで。
「キスするのに勇気要るけどあの顔を見れるのなら頑張ってみようかな~。あ~楽しみ~」
ふふふっ
笑いながら歩いているレーファの傍には花瓶に生けられた様々な花。花しか飾ってない屋敷を見て、よほど物がないのだなと思ってしまう。
確か、本来なら生活できるだけの資金を与えられていたけど、そのお金が途中で着服されているからかつかつだったとあった。でも、所詮物語と現実は違うのだろう。この世界に来て初めて白米を食べれたし、まさか、元の世界では高くて食べるのを躊躇ってしまうウナギのかば焼きを普通に食べているし、魚を食べる習慣がない仲間は食べるのを躊躇っていたけど、あたしは喜んでご飯の上に載せてお皿だから何となく残念になったが、うな丼にさせてもらった。
世話人に珍しい物を食べるんですねと聞いてみたら生活するのもやっとだから自分たちで食べられそうなものを探して試したと説明されて、そんな変なものを食べさせるなんてと文句を言う仲間にヒロインムーブで貴重な食料をありがとうございますとお礼を告げておいたけど。
「そういえば、世話人の娘が生きているのは意外だったな。漫画では確か……生活できない環境下で娘を手放していたはずだったけど」
詳しい内容は覚えていないけど、ノワールを世話するために娘をどこかの養女だったか売り飛ばしたとかあってそれで世話人二人は実はノワールを恨んでいたとか。売りに出さないために食べられる物を探したのかと思えばそのおかげで美味しい物を食べられるからラッキーと思えばいいだけだ。
「そんなこともあるよね」
まあ、それくらいの誤差はあるかと一人納得した。
「レイナが生活できない環境………?」
ずっと話を聞いている存在が実はいる事に彼女は気付かなかった。