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 じりじりと焦る気持ちの中。ようやく朝霧の乙女が屋敷に到着したのは漫画の設定よりも半年以上遅れてだった。


「ここに呪われた王族の方がいると噂を聞き訪れました」

 ぞろぞろと漫画よりも多い仲間の数はおそらく漫画では助けられなかった人たちを助けたからだろう。大分、漫画の記憶が薄くなってきたのだが、死んでいたはずのメインキャラの兄とか親友の姿がある。


 ああ、漫画の設定を知っているから助けに行ったんだと朝霧の乙女が素晴らしい方なんだなと思いつつも心が狭いのかノワール様が後回しにされた事を責めたくなる気持ちが浮かび上がる。


 そんな漫画では助けられなかったキャラが生きている姿を見ているとふと違和感に気付く。

「暗殺者姉妹がいない……」

 確か漫画の最初の方で味方になった暗殺者の姉妹がいたのだが、その二人の姿はいない。


(暗殺者設定だったけど、情報収集をするためによく別行動していたから別行動中なのかな)

 そういう事もあるか。と一人納得する。


「レーファは長旅で疲れているから疲れを癒してから呪いを解除させたい」

 そう答えるのは確か漫画で、魔物に襲われて父親を亡くした騎士団長の息子。彼の手はレーファ……ヒロインの腰に回されている。


 するとその手を無理やり引き離すのは確か奴隷にされていた狼の獣人。


 バチバチバチと火花が散る中。

「そうね。休ませてもらいましょう。行こう。ヒルデ」

「ええ。行きましょう」

 ふふんと鼻で嗤うようにエスコートするのは学会を追放された学士。


 よく分からないぎすぎすした感じで、彼女らは母さんの案内で空いてる部屋まで向かう。


「………なあ、レイナ」

 心配そうに父さんが口を開く。


「あの方が本当にノワール様の呪いを解いてくれるのか」

 半信半疑で尋ねるので。


「うん。そうだけど」

 呪いは朝霧の乙女しか解けなかった。


「そうか……なんか嫌な胸騒ぎがあってな。気の所為ならいいが………」

 父さんの言葉に気のせいだと笑いながらノワール様に報告をする。


「すぐに呪いも解けますからね!!」

 安心してくださいと微笑む。


「ねえ、レイナ」

「はいっ!!」

 蔦に包まれながらノワール様がこちらを見つめる。

 蔦に溶け込むような緑色の目が何かを確かめるように。


「レイナの告げた条件は15の時に朝霧の乙女に口付けされてだったよね。じゃあ、それ以外の条件は?」

 尋ねられて考える。


「他に条件……すみません分かりません」

 頭を下げると。


 思い出そうとしても朝霧の乙女が額に口付けた事で呪いが解けるというのしかなかった気がする。

「いや、責めてないよ。ただ……」

 そっと蔦越しに手を伸ばされる。


「レイナが読んでくれた本のほとんどの呪いの解き方は純真な乙女からの口付けとか運命の相手との口付けが多かったなと思ってね」

「………?」

 頬に触れるノワール様のぬくもり。


「私の運命があるのなら……」

 触れた手がそっと離れる。


「いや、何でもない……」

 何を伝えようとしたのだろうか。でも、関係ないか。


 朝霧の乙女によって呪いが解けたノワール様は朝霧の乙女のお供として共に旅をして、愛を育む。


 そこに私はいない……。


(私が呪いを解いてあげたかった……)

 でも、無理だった。


「…………」

 静かに部屋を出る。


 ぽとっ

 頬に涙が伝う。


 ああ、分かっていた。

 だって、彼はあの漫画のヒーローで私はただのモブだ。


「呪いが解ければお別れだ……」

 それがノワール様の幸せなのだから。

 



 がやがやがや

 感傷に浸っていたら騒がしい音が近づいてくるのが聞こえた。


「ノワール殿下。でしたか。レーファの加護が必要なのは」

「ええ。そうよ」

 朝霧の乙女とその仲間たち。


「どんな方だろうね」

 と明るい口調だが、どこか警戒しているような眼差し。


「呪いがあって自由に動けないのならしばらくリハビリも必要ですね」

 朗らかに告げる声だが、何か探っているような感じがする。


「ええ。リハビリは必要ですね。治ったらまた新しい仲間として一緒に行きましょうね」

 だって、それが物語の流れだし。

 そんな声が聞こえた気がする。


「レーファ」

「みんなで一緒に旅できて楽しいわよね」

 それは確かに漫画のセリフ。ヒロインに助けられた男性陣が彼女を慕い、傍にいる時に鈍感ヒロインがそう告げているのだ。


 鈍感ヒロインは相変わらずなんだなと明らかにけん制し合っている男性陣が新たなライバルが現れるかもしれないと警戒しているのにヒロインは気付いていない。


(そういえば……あの漫画逆ハーもので、それぞれ推しのキャラとくっついた話が読みたいと盛り上がっていた)

 二次創作でもよくあったなとだいぶ遠くなった前世の記憶を掘り起こす。


 ぼそっ

「“額に口付けるだけなんてヌルゲーよね。遅くなったけど、他のキャラを助けられたからいいよね”」

 ふとヒロインが何かを呟いていた。それが懐かしい日本語だと気付き、記憶を掘り起こすようにその言葉を翻訳する。


(今ヌルゲーと言った? ノワール様の事を?)

 その言葉に怒りが湧いてくる。ノワール様はずっと苦しんでいたのに。


 文句を言いたかったが我慢する。それで気分を損ねてノワール様の呪いを解いてもらえなかったらノワール様に迷惑をかけてしまう。


 だから耐える。

(ああ、そういえば、あまりにも他のキャラとの二次創作でくっつく話があったから勇気ある……無謀なファンが何かのイベントで質問していたな)

 他のキャラとくっついたらどうなっていたのかとそれに関しての公式の返答が確か……。


 さあぁぁぁぁぁぁ

 返答を思い出せないが何だろう。


 ――急に嫌な予感がした。



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