第七話 告白
「とにかく、無事でよかった。帰ろう」
「うん」
「で、早いとこその衣装、変えてくれないかな? 目に毒だ」
「毒って何よ?! 女子の柔肌見といて、目が腐る的な発言はマナー違反だからね!」
こっちだって恥ずかしいのに、と怒りながら「ひとかけありがと」と呟いて変身を解除する。
「……じゃないんだけれど、なぁ」
「何? 何か言った?」
「まぁ、おいおいかな」
「?」
変な王子を差し置いて、助けられた側がいきなりドアを開けたからか、ついてきた護衛騎士の皆さんが少しギョッとしていた。はっとして、その場で王子を待つ。
そんな感じで、王子の敵は最後の割にあっさりと捕まり。
私の使命? 勝手に使命にされたお仕事は、終わりを告げた。
んだけど。
やっぱり国を揺るがす大事件だったから、めでたしめでたし、とはいかなくて。
事後処理? とやらでいろいろ国王様達に改めた場で聞かれる予定だったりとか、したんだけど。
めんどくさいのととっとと帰ろうと思っていたのとで、お城へ戻ってすぐの労いの場で、全部聞かれる前に正直に余すところなく暴露した。
神様(仮)のこと、魔法少女のこと、偽物の婚約者だったこと。
「……娘よ、謀謀ったのか」
「えっと……」
たずねられた疑問にうまく答えられないでいると、さっき紹介された大臣がツカツカと私の方へとやってきて腰に下げていた剣をスラリと抜いて構えた。
切っ先が、私の喉に当たる。大臣は眼光鋭く私を見ている。
――怖い!!
体がカタカタと震え、こんな時こそ魔法って、思ったりもしたけど……もう、動けなかった。
殺されちゃうのかもしれない。
そう思った時横からスッと腕がのびてきて、喉に当たる刃先を掴むとそれを退けた。王子の手だ。
「! マルク様、血がっ」
私はとっさに止血をしようと彼の手を握る。結構深いのか、それでもまだ血は止まらない。構わず王子は言葉を発した。
「マリーには、私も影ながら協力していました。お叱りは私にもいただければと思っています。また、彼女は自分を偽物である、と言いましたが……私は彼女を伴侶に、と考えています」
「何?」
その言葉をきいて。止血するのも忘れて。
私は逃げた。
王城の廊下を走る。けどドレスを着ているからか、足元がおぼつかなくて上手く走れない。アンナ様よく走ったなぁ。
なんて思ってたら、息が切れてしまったので走るというより歩く、しかもよぼよぼ、って感じになった。
するとにゅっと目の前に腕が伸びて耳よこでドン、という音がした。
「なんで、逃げるの」
「にっ、逃げてないし!」
「嘘だ逃げてる。私の気持ちが迷惑でしたか?」
「違っ……! だって、マルク様には婚約者に決まってた子がいるって……」
「それは、きちんとお断りしました。彼女の気持ちも、きちんと受け取った上で、です」
「え……?」
「親友のような女の子でした。隣にいるのも楽しいかも、とも思った時期もあります。けれど、巻き込みたくはなかった」
「それは、やっぱり、大事だからじゃない、の?」
「いえ、私たち上に立つものは、厳しい現実があることは小さい頃からわかっています。それでも……一緒にいてもらわないと嫌だ、というほどではなかったんです」
「……」
「私は、一緒に困難を歩むならあなたと……隣にいるのはあなたがいい。マリーが巻き込まれたくない、と思っていても。ごめんなさい。私はあなたじゃないと嫌なんです」
祈るような、声だった。
顔は見せたくないのか俯いていて、けど、髪の間からのぞく耳たぶが、赤く染まっていっていて。
「……帰りたくなるかも、しれないよ?」
「いいです、帰らないでと懇願します」
「突然、神様に帰されちゃったら?」
「その神様とやらの首根っこ引っつかんで、世界を越えてもらってマリーのこと追いかけます」
なんで、そんなに……
そういえば、手。気づいて彼の手を見ると、丁寧に包帯が巻いてあってホッとする。
緊張がほぐれて、素直な気持ちが口から出た。
「私も、その…………すき…………だよ? けど、まだ、覚悟なんて。……ごめん。上手く言えない」
「いいです。というか、えーと、もう一回、気持ちを聞かせてもらっても?」
「え、やだっ!」
「夢かもしれません。お願いします」
「恥ずかしいから、だめ!」
私は思わず逃げ出した。
ゆっくりと追いかけてくるマルク様は、口をおさえながらも顔が真っ赤だ。
多分、私が自分の鏡を見ても熟れたトマトの様になってるんだろう。
一つ事件は解決したけど、神様(仮)はなんでか語りかけてこないし、王子は追いかけてくるし。
私の冒険? は、まだ当分、終わりそうにない。
けど。
まー、いっか!
お読みいただきありがとうございました。
勢い、楽しく書かせていただき、誤字チェックのみで出発し終着しておりますので、何がしかツッコミどころ等ありましたら教えていただけたら嬉しく思います。
またご評価等での忌憚ない感想も募集しておりますので、お好きにどうぞ☆
それでは、また次のお話でお会いできたら幸いです。