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第六話 力技で解決?

 結果から言うと、魔法はどうやら失敗したようだ。魅了されてやすやすと逃してくれると思っていたのだけれど……どうやら効きすぎたらしい。

 後ろ手を縄でキツく縛られ、目隠しされ、昏倒させられて何処かへと移送されてしまった。今は薄暗く、窓が手の届かない高いところに一つあるだけの、四方が石でできていて、目の前には鉄格子のある部屋へと、押し込まれている。

 もちろん、開きそうな鉄格子のドアには体当たりしてみたけど、びくともしなかった。


『ピンチじゃのぅ』

(そう思うんなら、助けてよ!!)

『いや、ワシ直接の干渉はできんのよ。じゃからお前さんという回りくどい方法、とっとるじゃろ?』

(何縛りゲーなのそれ?!)

『さてなぁ、ワシにもわからんの。一応様子は王子に知らせてくるわい』

(なんかもう、ツッコむの疲れた……いてらー……)


 送り出す言葉を発すると、神様(仮)の気配が消えた。ほんとに助けを呼んで来てはくれそうだ。それだけでもだいぶ気持ちが楽になって、私はしょうがないからこの環境でもリラックスすることにした。何か起きた時に、体がガチガチじゃ動けないのだ。

 見れば、ちゃんと一応トイレもあるし、ベッドもある。特にベッドはなぜかシーツが新品のようで……うん、考えないようにしよう。

 魅了がかかりすぎるのも困ったものだあのクソジジイめ、と、力の加減具合を教えてくれなかった相手を責めることにした。

 そして早々に、体力回復の意味も込めてトイレを済ませるとベッドに潜り込んで寝ることにしたのだった。




 ※




 何時間寝ていたんだろう。

 ふと、呼気が近くでして目を覚ます。

 と、私の顔の前には捕まる時みたソレオレの、ちょうど唇がドアップで迫ってきていた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 私は悲鳴をあげると、手が後ろで縛られているとは自分でも思えないくらい素早く、ベッドから転げ出て立ち上がった。なるべく遠くなるよう、部屋角に置いてあったベッドから対角になる場所へと後ずさる。


「ああ、マリー。気恥ずかしいんだね。わかるよ、君はまだまっさらだ。けど大丈夫だよ。俺と一緒に大人になろう?」


 言われ、ぞぞぞぞぞぉ、と背筋にひんやりと重々しい氷の様なものが通り過ぎた。

 無理。無理無理無理無理無ー理ー!! いやだ、助け……

 …………助けなんて来ない。いつも。

 だから笑って。笑って。笑って。


 けど今は、一応の力を少し、もらってる。やれる。


「……オーロラの力、そのひとかけを、我が手に!!」


 ボムっという音とともに虹色の煙幕(えんまく)に私は包魔れる。私の服が光り輝き形状が変わっていく。煙幕がだんだんと薄くなると、ミニスカの露出(ろしゅつ)が多く白とピンクと濃い紫で、レースにリボンと魔法陣モチーフのこてこて魔法少女服になった私が、爆誕していた。


「ファンタスティック☆まじかるマリー。あなたの心、満たしちゃうんだゾ」


 決めポーズもばっちりだ。


 ♪〜


 あなたに出会うため 私は生まれた

 そう ディステニーなの ドボン

 あなた 首ったけ

 私に フォーリンラブ


 〜♪


「きゅんしてドボン」を歌いながらソレオレの瞳を見て、ありったけの力を込めて歌越しに「ドボン」をかける。

 今度はがっつりかかったようで、私の「鍵開けてほしーなぁー」のお願いも、快く引き受けてくれた。まだ歌いながらソレオレを後ろに従え、牢の様な場所を後にする。


 どうやら半地下だったらしく、一階の牢へと続く階段の上にはオイコラがいたので、やっぱり歌ごしの「ドボン」をかけて無力化した。残るはリーダー格の「ゴブ」だけだ。

 二人を連れて、一階へと上がると、どこかの家しかも結構な資産家というかお金持ちというかだったらしく、飾っている絵とか、壺とかが豪華になった。もしかしたら、大本命が動いたのかもしれない。慎重に、歩き進めていった。

 少し歩いて。重厚そうで、家の中心っぽいところのドアが出てきたので、誰かの声が聞こえる。


「きちんと鍵はかけ、痛めつけなかっただろうな? 命と引き換えに王子を傀儡(かいらい)にする交渉をするのだから、殺すなよ?」


 これはこの前教えてもらって対面もして、「身分が低い」だの「馬の骨」だの私にだけ聞こえるように言っていた、反国王派のボスである農業大臣の声だ。


「もちろんです」


 これは気を失う前に聞いたゴブの声。依頼主も一緒にいるパターンって、漫画も真っ青の王道展開だ。


 話が早い。


 私の、歌を聞けぇぇぃぃぃい!!


 ドアを勢いよく開け、私は威勢よく敵の前に歌いながら姿を現した。


 ♪〜


 私に出会うため あなたは生まれた

 そう フォーチュンなの ドボン

 あなた 沼ずぶん

 私に 胸キュンラブ


 〜♪


 突然の歌に、その場にいた全員がこちらを凝視する。ハマった。

 私は「ドボン」をありったけの力で全員にかける。少しとろんとした目になったのを確認してから、歌うのをやめた。


 バン!!


 と同時に勢いよくこの部屋のもう一つあったドアが開いた。マルク様だ。王子は私を見るなり後続を入れずにドアを閉める。「ちょ、王子?!」「すまない、少し時間をくれ。すぐ合図する」そんなやりとりの後、こちらへとずんずん歩いてきた。


 何事だろう――


 そう思ったのもちょっとだけで、すぐに抱きしめられた。

 なんで……


「全く、君って奴はっ……!」

「……アンナ様は、無事?」

「君が逃したからね」

「それならよかった」

「よくない。心配したんだ。しかもこの格好で、魅了も結構使ったでしょう?」

「使わないと、非力な女子は荒事(あらごと)できないんですぅー」


 まだ抱かれたままで、けどなんだか少し責められてる気がしたから、ぶーたれながら返事をする。すると、少し王子の雰囲気が柔らかくなった、ような、気がした。気のせいかもだけど。

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