第四話 初恋のこころ
そう、私はこっちの世界でうっかりと――初めての恋を、していた。
『ぼでーたっちとは、青春じゃのぅ』
勉強が終わりお屋敷へと帰る途中、じじいからのちゃちゃが入る。
(黙っててくれない?! 不毛だから)
『うぐ』
――以前一度、勉強にどん詰まりしたことがあった。
誰にも言えなかった。弱音をはいたら立っていられなくなりそうで。
気づいたのはマルク様だった。
城下に連れ出してくれて、一緒に屋台のおやつを食べて。そうして、私を気遣う風でもなく。
ただそばにいて、自分のことを話してくれた。
「私は小さい時、とてもダメな王太子だったんです。兄妹の中で一番お兄ちゃんなのに、いつか全てを背負うのだと聞かされてから、怖くて怖くて」
「今は立派な王子様に見えるよ?」
「気づいたんですよ。私には弟も妹もいて、教えを乞えば丁寧に説明してくれる父がいる。慌てず、見守ってくれる人の大切さ。その相手が大事と思い、私も知ったこの国を、今は本当に大事にしたいと思っているんです」
「大事にしたい……」
「はい。マリーにもきっと、大事があるんだろうなと、見てると思います。大丈夫ですよ」
そう言って微笑むマルク様は、綺麗だけど、なんか、男の子というか男の人なんだなと感じたんだ。
帰りたい、そばに居たい。
この二つは、どうしたって叶わないのは幼稚園児にだってわかる。けど今は。頼まれごとを消化するまで考えたくなかった。
少しずつ少しずつ、終わりは近づく。
この間は反国王派の割と上の方の人を味方につけることができた。街の中では、密かに魔法少女グッズが人気になってきている。その前は、頼まれて汚れ仕事をしている人に、お仕事を斡旋して足を洗える様にして。
最近は、反国王関係の家の女の子(要は婚約者候補ね)へと、じわりじわり、関わりを増やしている。
今日もその一環。お茶会(お茶とお菓子を用意してお喋りする会)にお呼ばれされたのでやってきている。
今日は天気がいいので、花の咲き誇る庭に、テーブルと椅子が用意されているようだ。ケーキにスコーン、サンドイッチ。ちょっとした果物が、品よく三段のお皿の上にちょこんと乗っている。
紅茶は給仕の人がそろそろ持ってくる頃合いだろう。待ちながら、主催の女の子へと話しかけたり、その周りの子の話に相槌を打つ。
「そういえば、マリー様はアンナ様のお家にいらっしゃるって、本当ですの?」
「ええ、お世話になっております。どうかしました?」
「いえね、ねぇ?」
「え、ええ……」
主催のルルラン様と、ご友人のサルネリア様が顔を見合わす。その場には他にも、私達とは初対面で、立場が中立の家の子であるミリア様もいたけれど、気まずそうにしている。
「良くしてもらっているんですよ。とても親切で」
「そりゃあ、マルク王太子の婚約者とあっては、親切にしなくては失礼にあたりますもの」
ルルラン様が当たり前ですわ、と言った。
それに続いて、サルネリア様がボソッと言葉を発する。
「……お可哀想だわ」
「え?」
私はいきなり言われたその単語にびっくりして、サルネリア様の方を見た。
「ほぼ内定していたと聞いています。アンナ様が嫁ぐ、と」
「そのお話は、どこから……?」
黙っていればよかったのに、私はつい尋ねてしまっていた。
「私の父が話していたのです。ルルラン様もご両親あたりからきかされたのでは?」
「……ええ、そうです」
「なのに、いきなりどこからともなくあなたが出てきてっ!」
「サルネリア様、落ち着いてらして?」
ルルラン様も、彼女の取り乱し様には驚いたみたいで、一応場をとりなそうとしてくれる。それでも、サルネリア様は止まらない。
「私っ、アンナ様と仲良くてっ! 彼女の気持ちも知ってるから……!!」
言って、しまったという顔をして、それきりサルネリア様は黙った。
美味しそうなお菓子を前に、食べるような空気じゃなくなって。ルルラン様が気を利かせて、お茶会はお開きになった。ご飯の神様ごめんなさい。
仲が良さそうだな、とは思っていた。私がよそ者なのも、分かりきっていることだ。なんてことはない。なんてことは――