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第二話 王子様の登場


「カレン、いるかカレン」

「はいマルク様」

「この者を綺麗にしてくれないか、ついでに適当な服を見繕(みつくろ)ってやってくれ」

「はい、わかりました」


 手を離されて軽く前に背中を押され、「カレン」と呼ばれた女の人の方へとやられる。そして良いともやめてとも言えないまま、私は頭から足の爪の先までぴかぴかにされ、服までありがたくも貸してもらったのだった。


「……あり、がとう、ございました。あの、服」

「ああ、服は新品だろうから気にせずもらっておいてください」

「ありがとう、こざいます」

「いえ。それで、あなたは何故我が家の庭に?」


 当然のことをきかれ、私はなんと言うべきかわからなくて、結局正直に起こったことを話した。


「ふむ……それではその神のような存在の老人に無理矢理ここに連れてこられてしまったのですね。魔法少女……きいたことのない存在ですね。どのような人なんでしょう?」

『よくぞきいてくれたあああ! 百聞は一見にしかずぅ! とくと見よ!!』


 ボムっという音とともに虹色の煙幕(えんまく)が私を包んだ。視界が奪われる。私の服もなんか光り……なんなら()ぎ取られたような気持ちになった。なにせ、これから起こるだろうことを私はおおよそ正確に予測したので。

 案の定、霧が晴れるように煙幕がひくと、私の着ていたこちらの服は、ミニスカの露出(ろしゅつ)が多く白とピンクと濃い紫で、レースにリボンと魔法陣モチーフのこてこて魔法少女服になっていた。


「なっ……! 人権侵害!!」

『神は人ではないので適用外ぢゃ』

「いきなり……、服が変わった」


 マルク様とやらの言葉でハッとする。ここには彼もいたんだった。

 私は慌ててしゃがんだ。自分が目こそぱっちりだけど鼻もちょっと大きめなくせに唇は薄く、お世辞でも可愛い部類でないのは知っているのだ。

 けれど気にしたのは私だけだったみたいで、自称神様もマルク様とやらも、気にもせず。特に彼は服が変わったというその事実の方に気がいってるようで。


「これはどういう仕組みなんだい?」

「……さぁ、私にもよくわかりません」

「そうですか。けれどこれで、君がこの世界の人間ではないことは理解できました。結婚してくれないかい?」

「はい?!」




 ※




 彼――この国の王太子、すなわち第一王子にして国の後継者(こうけいしゃ)――であるマルク=アンデル、十四歳、が言うことには。

 この国、アンデル王国では今政治を国王と共に行なっている偉い人(身分を貴族と言うそう)の一部が、国王より力を持って成り代わろうと、王太子の奥さんの座をかけての争いを密かに行っているそうで。長引けば、国が傾きかねないとずっと困っていたそうだ。現に貴族の女の子の中には、精神を病んでしまって家から出て来れなくなった子、自ら命を絶ってしまった子が二名ほど、出てしまっているらしい。

 こんな状態で、貴族の中からお嫁さん候補を出しても、例えば平民(貴族以外の国民の人)の中から選んだとしても、成り代わろうとする勢力に食い物にされてしまう。

 (うれ)いていたところに、ちょうど現れたのがこの世界となんの関わりもない私で。しかも嘘か(まこと)か神様を味方にしている。


 ちょうど良かったらしい。


 わかってますよ! 一目惚れされちゃった?! とか、ぬか喜びなんてしてないんだから! 絶対……

 結果的に、神様(仮)と、王子様と、私の利害は一致した。

 神様は異世界の危機を魔法少女でもって救いたい。

 王子様は自分の国を守りたい。

 私はとっとと帰りたいなら、国を守って異世界を救って帰してもらわないといけない。

 ならば、その世界での味方は、作っておいた方が助かるのだ。私はそれをサブカルで知っていた。もちろん、物語であることは知っている。けどその物語のようなことが起きているのだから、その中で有効だとなっていることはなんでもする。その気持ちがないと、もう二度と家族には会えないような気がした。




 結論からいうと、それはとても助かった。

 住むところも身分も王子が用意をしてくれて、困ることがない。住まわせてくれた貴族の大人達はとても親身になってくれるし、王子の幼馴染という貴族の()も、いきなりやってきた人間にとてもよくしてくれている。


「マリー、このお洋服なんてどうかしら?」


 私の名前はマリーになった。池田という苗字はこちらにはないらしく、イケタンという苗字に変わっている。今私に話しかけてきたのは、王子の幼馴染であるアンナ=クッケルン、同い歳だ。けれど私より大分発育良く背が高いからか、妹のように甲斐甲斐しくあれこれと気にかけてくれる。今日は足りない洋服を、着なくなったものからチョイスしてくれるらしい。


 食事も美味しく、私は早くもこの生活に慣れ始めていた。


『ちょ、ワシのこと無視するのやめてくれんかのぅ』


 王子の敵を早いところ改心させて、早く元の世界に戻りたい。なんとしてでも特典付き新刊はゲットしたいのだ。(たとえもう無理でも努力はしときたい)


『まじ無視?!』

(うるさいなぁ、なんの用事?)

『塩対応! まぁよい、ワシ人格者じゃからの。さて、敵を改心と思うておるようじゃが、難しいぞぃ』

(じゃあぶっ倒していいわけ?)

『物騒ぢゃのぅ。殲滅(せんめつ)もやむなしの場合もあるが、基本は話し合いと萌えと魅了の魔法と、萌えかのぅ』

(魔法でそんなことできるんだ)

『ちょっと好意を持たせる、くらいならできるぞ。下僕は無理じゃが……お主のスペックならニッチな需要に供給過多くらいにはなるじゃろて』

(不穏?! ちょっと発言が怪しいんですけど)


「……マリー? どうかして」

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