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それぞれの闘い①

 ガイアは黒騎士と村から出たすぐの草原を走り抜けながら、不思議な気分を感じていた。


 思えば、『以前』にもこうやって黒騎士と2人で並んで走ったことが何度もあった。

 ガイアと並ぶ能力を示したのは、『以前』でも黒騎士だけだった。


 『あの人』も一般人と思えないほどの能力を示していたが、それでも2人に比べればほんの僅かではあったが差があった。


 必然、何かを突破する際には2人が先陣を切るか、反対に2人で粘るかの2択が多かった。

 そうは言っても、全ての戦場についての記憶がガイアにある訳でもなかった。


 記憶そのものはどこか断片的で、そういえば、あの剣のことも判然としない。


 自分の愛剣と対になる剣で一度だけ奇跡を起こせる。

 そんな剣があった記憶がある。

 そうだ、確か……祈りの剣プライアと。

 その剣がどうなったかは分からない。


 覚えていないというより、追い詰められた最期の戦いの時、『あの人』は双子の姉である預言者のところにいて、自分はそれとは別の場所で戦っていたから知らないのだ。


「ねえ? 黒騎士」

 走りながら黒騎士に、かつての仲間に呼び掛ける。


「なんだ? あんた随分、気安いな」

 その言い様は『以前』となんら変わらない。

 ぶっきらぼうで、でもどこかひょうきんで、ツッコミ気質もあったかな?

 ガイアは我知らず、クスリと笑ってしまう。


「なんだよ?」

「ねえ、君の大将って何者?

 君は誰かに雇われるような人ではな……いんじゃない?」

 雇われるような人ではなかった、と過去形で言おうとしたが、そのことは彼は……自分以外は知らぬこと。


 黒騎士は頭をガリガリと掻く。

「……妙な言い方をするな?

 テメェといい……。

 まあいい。

 そうだな、俺も人に雇われるような性分ではないとは思ってるよ」


「じゃあ、なんで……」

「面白ぇんだよ。

 理由なんてそれで十分だろ?」


 黒騎士は何かを思い出すようにほくそ笑む。

 それはガイアが過去の黒騎士と照らし合わせても、実に楽しそうにしている時の笑みだ。


「……そっか。

 ちょっと羨ましいかも」

 反対にガイアは少し寂しそうに笑う。


「……だったら、お前も来るか?

 来たらまあ、この面白さがよく分かるぜ?」


 黒騎士が言う言葉の裏には赤騎士の正体も含まれる。

 ごくごく当たり前に考えて、婚約者のためとはいえ公爵本人が助けに来るなど有り得なさすぎる。

 しかもあの噂の極悪非道ハバネロ公爵が、である。


 目の前でバラされてもまず信じないことだろう。

 これについては、気付くユリーナがおかしいのである。


 もっとも、ガイアがこの時点でハバネロ公爵の仲間になったところでやることと言えば、全力でユリーナの護衛である。

 今とほぼやることは変わらない。


 世界最強剣士の名はあれど、神ならざる身のガイアにそんなことは知るよしもない訳だが。


「……やめとく。

 ユリーナたちを放って置けないしさ」

 ガイアからしても大切な仲間だ。


 特に彼女らはこれから更なる苦難が待ち受けている。

 そうと知っているだけに今ここで抜けたりすることは出来ない。

 それにどの道、邪神は倒さねばならないのだ。


 邪神に届き得たのは、ガイアも含む自分たちの部隊だけだ。

 その先に破滅しかなくとも。

 ほんの少しガイアは震えた。


「どうした?」

「なんでもない。チャチャっとミノルタごとき倒してしまおう」


 ガイアの『ごとき』という言葉も異常な言葉であった。

 何故なら、まだこの段階でそこまで大型モンスターと戦い慣れている者もそこまで多くはないはずなのだ。

 その点に黒騎士は気付きつつも何かを問うのはやめておいた。


 それは黒騎士にとって、ハバネロと接する際に感じるものと近しいものであり、やがてそれに自分が関わることになる妙な予感がしていたからだ。


 つくづく……面白い。

 そう思い黒騎士は口の端が吊り上がってしまう。


 その後、すぐに黒騎士とガイアは2匹のミノルタと接触。

 これを難なく撃ち破る。


 その際、黒騎士は少し離れた木々の影にローブを着た何者かの影らしきものに気付いたが、ハバネロの指示通り追い掛けることなく村に帰った。






 謎の赤騎士なる変な冒険者たちが村を去った後、村の中で協力者とラビットは話をする。

「……近くに公爵の一団が来ていたらしいけど、やはりダメだったか」


 なんとか近付き公爵の情報を得て、場合によっては暗殺してしまいたかった。

 だが警護が厳しく、そう簡単に情報すら盗ませてはくれなかった。


 むしろ無理をすれば、反乱軍が付け狙っていることに勘付かれるかもしれない。

 そうなれば巨大な権力を持つ公爵にかかれば、今度こそ反乱の息吹は根絶やしにされかれない。


「仕方ない。

むしろここまで接近されて、こちらの動きがバレなかっただけマシだったと思おう」

 ラビットの言葉に村の協力者は頷く。


 そうしてラビット……反乱軍首領マーク・ラドラーは考える。

 やはり大公国のこのユリーナの部隊をなんとか利用出来ないだろうかと。

 幸運にも世界最強の剣士とまで呼ばれるガイア・セレブレイトまで何故か合流した。

 その力を使えば、王国でもトップクラスの能力を持つハバネロ公爵ですら一対一では敵うまい。


 さらに……。

「赤騎士と黒騎士か……。利用出来れば」

 そこまでは贅沢か。

 しかしながらまだまだ在野には隠れた能力者がいることが分かった。


 それを集めることが出来れば、いかな巨大な王国屈指の公爵と言えど。


 そうしてマーク・ラドラーは誰にも見られないように妖しく笑うのだ。






『サビナ。状況はどうだ』

 全てが終わった段階でサビナにハバネロから通信にて連絡が入る。


『はっ! 閣下。申し訳ありません、例の犯人には自爆されました』

『構わん。逃すことに比べれば上出来だ。

 怪我はないか?

 部隊の者もそうだが、サビナ自身も』


 閣下は変わられた。

 サビナはこの内容だけで如実にそれを実感する。


『私も含めて部隊全員、怪我はありません』

『良かった。明日にはそちらに再度合流する。俺が居ない間の欺瞞工作は抜かりないか?』

『はっ! 抜かりありません。閣下がご不在のことを知られてはおりません』

 そうして閣下との通信を切った。


 ハバネロが留守の間、サビナはある任務を与えられていた。

 ハバネロが向かった村の方に通じる林の方から、ローブを着た邪教集団信徒が姿を見せるので可能ならば、それを捕縛。


 ただし、逃げられないことを悟った邪教集団信徒は『必ず』自爆するから巻き込まれないように細心の注意を払え、と。


 まるで預言のように。

 サビナは口の堅いメンバーを10人程度選出し、部隊を編成。

 かくして、ハバネロの言う通り邪教集団信徒は現れた。


 問答無用とばかりにサビナたちがその人物を囲むと、それだけで弁明もすることもなく邪教集団信徒は何かを悟ったようにニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、、、自爆した。


 それはまるでこれから起こる何かを暗示するかのような出来事。


 サビナは通信を切った後、ハバネロから貰った金属片を手で玩び呟く。

「……閣下は一体何をご存知だと言うのだろうか?」


 その何かこそがハバネロ自身が大きく変わった一因であることを、誰よりもそばで仕えるサビナは感じていた。


 メラクルの件から以降、様子の変わったハバネロは何かを警戒している。

 それが何かサビナにはまだ分からない。

 きっと全てはこれからなのだろう。


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