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公爵閣下じゃないよ?①

「な、なんのことで御座いましょうか?

 ど、どなたとお間違え、あ、ああー、赤髪だから?

 王国の公爵閣下と?

 アハハー、ヤダなぁ〜、ユリーナ様冗談キツイっスよ〜?」


 俺の姿を見るなり護衛を引き離して、ユリーナは何故かいきなり俺たちの方に走り寄って来てそう言ったのだ。

 身じろぎしながら、俺はなんとか誤魔化そうと奮闘する。


 とりあえず今の言葉が、後ろからユリーナを追いかけて来る護衛と主人公たちに聞こえてなさそうなのが何よりだ!


「おい? いきなりバレてんぞ?

 どういうことなんだ?」

 そんな俺の奮闘を無視する様に黒騎士がツッコミを入れる。


『だまらっしゃい! 黒騎士さん! 今、一生懸命誤魔化してるんだから!!』


 口にしてしまうとユリーナにバレるので、通信で黒騎士を口止め。

 俺の必死の抵抗に対し、ユリーナは腕組みしながら、目を細め疑い(?)の眼差し。


 うう……可愛い、美人だ、抱きしめたい。


 強い誘惑に駆られながらも、俺は自身をハバネロ公爵であると認める訳にはいけない!

 ……そもそも、認めちゃったら、嫌われてるし近寄らせてもくれないよね!


 どうする!?

 どうやって誤魔化す!?


 俺の頭はパニック。

 この身体で覚醒して最大級の混乱だった。


 思えば、ある意味で俺はこのハバネロ公爵で起きる出来事を人事のように思っていたのかもしれない。

 いやまあ、ここまで嫌われ公爵だとちょっとぐらい客観視してみないと色々問題有り過ぎではあるんだが。


 だからという訳ではない。

 ……訳ではないが、俺は心のままに行動することを決めた。


 彼女の前にひざま付き、懇願するように手を伸ばし言った!


「結婚して下さい!」


 ……。


 時が止まったのを感じる。

 ユリーナの後ろから駆け寄って来ていた護衛たちも固まっている。


 ……作戦、成功だ。

 俺は時を止める力を、得た……。

 沈黙と視線が物理的ではなく精神的にとても、とても痛いことを知った。


 俺は今日とても賢くなった。


「……はあ、まあ」

 ユリーナの呆れ顔での同意は、俺の脳をパラダイスに運んだ!


 だが、そこでハッと俺は気付く!

 ハバネロ公爵の婚約者を赤騎士が奪ったらアカンやん!


 俺は立ち上がり、涙を堪えて上を向き無理矢理笑顔になる。

「……だが、ユリーナ様はハバネロ公爵閣下の婚約者。

 俺の手の届くお方ではない」

 そう言って俺は顔で笑って、心で泣くのだ。


「……はあ、まあ」

 ユリーナがまた同じ返事。


 なんて気のない返事!

 ユリーナ! 男心を弄んだのね!

 でも美人だから許す!


「……なあ、大将。俺ら、どうしたら良いんだ?」

 黒騎士が呆れ120%、投げやり80%ぐらいの感じに尋ねてきた。


 つまり呆れかえっておられる、と。


「ふむ、我々は流しの冒険者だが、この村に危機が迫っているようなので協力をしようと思う。

 無論、ある程度報酬をもらうがな!」


「オメェ、どうしようもない大根だったんだな……」

 俺は野菜じゃねぇぞ? 黒騎士。


 ……分かってる、分かってるのよ?

 喋れば喋るだけドツボにハマってるの。


 でもね? あの美人で愛しいユリーナが一発で俺のことに気付いてくれたのよ!?

 嬉しくないわけが無い!

 バレたらダメだけどな!!


「……後で事情を聞かせてもらいますね?」


 これ以上ないぐらいのジト目をしながら、そう言ったユリーナ。


 すぐ目の前に居ると互いの背の違いが分かる。

 ユリーナも女性一般的に小さいと言うほどではないようだが、俺と比べると背が低く感じる。

 ハバネロ公爵は背が高いらしい。


 何にしても、この場は見逃してくれるらしい。


 ええ娘や。


 でも、後でなんて説明すれば良いんだろ?

 ユリーナに逢いに来ました。

 ストーカーじゃないよ?

 居場所を知ってただけで、後はつけてないよ?

 黒騎士に後をつけるように頼んでいたけど。


『おい? いきなりバレてるけど、良いのかよ?』

 黒騎士がこっそりと通信で聞いてくるが、俺は心のニヤニヤが止まらない。


『いやぁ、なんでだろ? 愛かな?』

『んな訳ねぇだろ?』


 黒騎士と俺が通信で会話しているのを、ユリーナは訝しげな目で見て、大丈夫かこいつ、とでも言うような少し冷たい口調で。


「……それと公爵閣下。

 上半分変な仮面を付けて隠されておりますが、本気で隠したいならその剣も隠された方が良いのでは?

 婚約時の釣書の絵姿に描かれておりましたよ?

 滅剣サンザリオン2、でしたか?」


 ここで久しぶりにゲーム設定が頭に浮かぶ。

 なんと! この姫、姫という立場に合わず剣マニアという設定があったのだ!

 設定情報が思い浮かぶのが遅過ぎる!!!


「ヌ、盗ンダ!」

 俺がカタコトでそう言うと。


「……へぇー。

 それはそれは公爵閣下に突き出さないといけないですねー」


 ユリーナはジト目を更にキツくして平坦な声で言われた。


 そんな目をされても……綺麗だ!!!

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