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詰んでますやん

ちょっとずつ更新

 先程まで重ねられた柔らかな感触から唇が離れる。

 唇を奪われた柔らかな黒髪を持つ彼女は、それでも吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳に、意思を宿したまま彼に告げる。

「例え身体を奪われようとも、心を奪うことは出来ません」


 あ、ほんとにそのセリフ言うんだ。


 先程からこの吸い込まれるような黒の瞳から目が逸らせない。

 心を鷲掴みにされたように高鳴る胸は鳴り止まない。

 やっぱ可愛いよね、ユリーナは。

 このゲームで1番好きなキャラクターだ。


 それがハバネロ公爵に転生してしまった俺が、最初に思ったこと。

 ……あれ? これどういう状況?

 目の前には、アニメ化もされた大人気ゲームに登場したヒロインの1人。

 ユリーナ・クリストフ。

 属国であるクリストフ大公国の姫だ。

 王道RPG有り、領地戦略有り、ヒロインとのイチャラブ恋愛有り、ギャンブル有り、スローライフ有り!

 自由度の高いことで爆発的大ヒットを生んだ大人気ゲーム。

 自分の名前も含めゲームの名前も一切思い出せないけど。


 呆然としてしまった俺を振り払い、もう一度キッとユリーナは俺を睨む。

「これより任務により、しばらくお会いすることは出来ません。

 一応、婚約者である貴方にはお伝えしておきます。

 ご報告は以上です!」


 彼女はそう言い捨て、そのまま真っ直ぐ背筋を伸ばし柔らかな長い黒髪をなびかせ、部屋を出て行った。

 あゝ、うつくしひ。

 そう頭の何処かで思いながら、俺はポカ〜ンと口を開けて見送った。

 部屋にある姿見には、ポカ〜ンと口を開けた赤い髪の少しつり目のイケメン。

 常に権力を翳し横柄で、民衆への横暴な態度を取る嫌な奴。

 ゲームでは虐殺や民衆への攻撃、卑劣な罠で主人公チームを何度も苦しめた嫌われ者の悪役、レッド・ハバネロ公爵。


 主人公チーム主力メンバーの1人、ユリーナの婚約者であり、彼女を地獄の底に叩き落とした張本人。

 悪の限りを尽くす暴虐な覇王。

 ゲーム屈指の嫌われキャラ。

 それが、俺?


「どういうこと?」


 事あるごとに主人公チームを妨害し、最期は神剣を暴走させて主人公チームに討たれる憎い敵役に転生してしまった俺!

 だが、このハバネロ公爵。能力は主人公チームのエース級に並ぶA!

 その能力が有れば、何とでもなるはずだ。しかも公爵という権力者。

 ユリーナが旅立ったばかりということは、まだゲームシナリオは始まっていない。ならば、どうとでもなるはずだ!

 その時、俺は……そう思っていた。

 ……しかし、しばらく後にこう呟くことになる。


「詰んでますやん」


カクヨムの方が先行しています。

あしからず。

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