5分間の思い出
『急にごめんね ピアスあけてほしくて』
高校を卒業してから二年。一度も連絡を取ったことのないクラスメイトから初めて連絡が来た。
クラスメイトだったけれど特に仲が良かったわけではなく、クラスの中では朝におはようと言いあえば話す方で私は他の子と仲が良かったし彼女は一人でいることが多かった。だから卒業してから初めて、というよりは、彼女と知り合ってから初めて連絡がきた、というのが正しいように思う。
彼女と話をするのは決まって選択授業の時だった。人数が少ない選択授業では席替えがなく隣の席にはいつも彼女がいた。予鈴が鳴って席についたあとまだ話し足りないときは彼女に話しかけるのが常だった。同じ選択の友達は席が離れていたし彼女と反対側の席は違うクラスのさらに話したことがない人。必然的に話しかける相手は彼女になっていた。真面目で優しい彼女はどんな話でもただ相槌を打って聞いてくれた。それがなんだか心地よかった。
高校三年の冬休みも終わって年が明けたころ。本格的に受験が近づきピリピリとした空気が漂う中、指定校推薦で受かった人たちは浮かれ始めていて、髪を染めたりピアスの穴をあける人が増えていた。もちろんどちらも校則違反で見つかった何人かは生徒指導室に連れていかれていた。
「ねえ、見て、私もあけたんだ」
ピアス、と伸ばしていた髪を耳にかけファーストピアスを彼女に見せると少し驚いた顔をしていた。
「あけるの、痛くないの?」
「う~ん、バチンッて音はすごかったけど、思ってたより痛くなかったよ」
「本当に? 想像しただけで痛そう」
「そんなことないって。ね、もしピアスあけるなら私があけてあげる」
「いやいやいや、あけるの絶対痛いじゃん。やだよ、あけないもん」
「大丈夫だって、うまくあけるから」
ガチャ、という音と共に先生が「遅れてごめんね~」と教室に入ってきてその会話は終了した。
私も彼女も冗談のつもりだったはずだ。耳に穴をあける大役を任せられるほど私と彼女の信頼関係はない。彼女にも仲のいい友達はいたし、大学で新しくいろんな人と関係を結んでいるはずだ。親にあけてもらうことも、病院で頼むことだってできるし彼女ならきっと安全なそっちを選ぶはずだ。それなのに、彼女は私を選んでくれた。その事実に高揚感が湧き上がってくる。
『いいよ。いつなら空いてる?』
数日後、二年ぶりにあった彼女は何一つ変わっていなかった。あの頃と同じように私のどんな話でもただ相槌を打って聞いてくれた。
「ねえ、見て、私もう一つあけたんだ」
ピアス、と短くなった髪を耳にかけ二つの穴を彼女に見せると少し驚いた顔をしていた。
「あけるの、痛くなかったの?」
「大丈夫だよ、私あけるのうまいから」