何も知らない
「目標を確認、見張りが二人、これより狙撃を開始する」
そう無線は告げた。
「狙撃完了後突入する。覚悟はいいな」
そう発した男の言葉にそこに居合わせた者は一斉に頷く
レーザースコープから放たれた一筋の光が見張りの眉間を捉える。見張りのの二人はそれに気づいたが時は遅し、続いて飛来した弾丸が二人の頭部に直撃する。
その様子を確認した男たちは一斉に見張りのいた方向へ攻撃を開始する。
直後、激しい爆発音とともにその建物は崩壊した。攻撃した側、そこにいた者すべてを巻き添えにして。
それはこの建物の存在、なんのための設備なのか何も知らされていない周辺住民たちにとっては悪夢の始まりを告げる音であった。
「なんか飛行機でも落ちたか?」
夜中に大音響があたりに響き渡る。田舎につきそんな音が響けば住人総出で原因を探ろうと捜索が始まる、はずであった。だが誰一人出てこない。理由は簡単、事情を知る一部の権力者たちが住民たちにじっとしているよう指示したから。
しかし、こんな指示も観光客には意味を為さない。田舎故に自然を求める登山者やキャンパーがいて彼らは何事かと爆発のあった方へ殺到する。しかし向かっていった彼らが帰ってくることはなく行方不明のまま片付けられた。またこれらの出来事は決して報道されることはなかった。現場周辺は立ち入り禁止となりまたその土地が属する村は厳しく出入りが制限され地元住民たちは一切その村から出ることは禁止された。それは現場に向かわなかった一部のキャンパー達も同様であった。
「どういうことだ。なぜ出られない。普通なら逆だろう。さっさと避難させろ」
そういうキャンパーたちの抗議に対して対応にあたったのは警察ではなかった。
「あれは米軍? ここは日本だよな。なぜ米軍が出てくる」
疑問に思うのは当然である。しかし、彼らがその疑問に答えることはなかった。ただ小銃を突きつけおとなしくするように促すだけだった。
「なんてことだ。なぜバレた」
「奴らを舐めすぎましたな。この不始末どうするつもりですか!」
「本部はなんと?」
「このまま隠し通せと、多少の犠牲はやむを得ないかと」
「知らぬ存ぜぬを決め込むのか。我々をトカゲの尻尾切りにするつもりなのか」
「うまく切り抜ければそれ相応の見返りはあるかと」
「うまくいけばな、そう簡単なことではないだろう。最初から分かっていたことだ。今さらどうしろと」
「泣き言は勘弁ですよ。対応策を」
「やっている。いいか、何が何でも隠し通せ。世間に漏れるわけにいかん」
悲痛な叫びにも似た会話を彼らは続けていた。