犯行計画 【月夜譚No.161】
密室殺人なんて、ありきたり過ぎる。
周囲に悟られないように犯行を行い、入念に室内の痕跡を消して窓や扉の鍵をチェックする。一つだけ開いたドアから外に出て、トリックを用いてその鍵さえかければ、密室の出来上がりだ。
室内には遺体しかなく、出入りできるところは全て鍵がかかった状態。普通に考えれば、一人で自殺をしたという結論に行きつくだろう。
だが、それはもう使い古された犯行だ。ドラマや映画などでも多用されて、探偵役がいれば、密室は破られて犯人が特定される。
密室殺人では、きっと上手くはいかない。この計画を成功させる為には、もっと複雑で誰も考えつかないようなトリックが必要だ。
彼は椅子の背凭れに寄りかかって、うーんと唸った。一週間ほど考え続けているが、良い案は浮かばない。犯行を成功させなければと思えば思うほど、脳内は焦って空回りする。蟀谷を汗が伝う。
その時、机の上の電話が鳴って、彼は肩を聳やかせた。恐る恐る受話器を取って耳に当てると、そこから飛び出した予想通りの声に思わず頭を下げた。
目の前のパソコンの画面は、真っ白。それがやけに眩しくて細めた目に、「〆切」の二文字が浮かび上がった気がした。